マンガや小説などによく登場する「執事」。執事喫茶などもできるくらい人気のある職業です。では、イギリスの歴史の中での執事は、どこでどんな仕事をしていたかご存知ですか?
『図解 メイド』(池上 良太 著)では、ヴィクトリア朝を中心とする使用人の歴史や仕事内容、生活などを文章と図解でわかりやすく解説しています。今回はその中から、執事の仕事場であるパントリーと酒類貯蔵室(セラー)についてご紹介します。
目次
執事の仕事場①パントリー(食器の保管場所)
執事というと、漫画などではお嬢様に仕える男性を指すこともありますが、実際の執事は屋敷の男性主人に仕え、またその仕事場も主人の部屋というわけではありませんでした。中世の頃から、ヨーロッパの城や貴族の館には食料を貯蔵するための部屋が設けられています。その中でパントリーとは、パンなどのすぐには腐らない食料品を貯蔵するための部屋のことでしたが、古くはパンが食器としても使われたことから、パントリーという言葉はいつしかガラス器や銀食器など、食器の保管場所を指すようになります。
このパントリーを仕事場兼オフィスとしていたのが執事(バトラー)です。 執事は直属の部下である従僕(フットマン)たちとともに、パントリーのシンクで皿やナイフ、フォークといった食器類を分類・洗浄し、念入りに磨き上げます。特に銀食器は手入れを怠るとすぐに黒ずんでしまうため、毎日の磨き上げが欠かせないのです。
食事の際はお屋敷の主人や客人のために給仕を行い、食事が終わると使い終わった食器を手入れし、鍵のかかる棚に収めました。ヴィクトリア朝(19世紀)の頃のイギリスでは、ガラス器や銀食器は高価で貴重なものだったため、お屋敷によっては従僕などがパントリーの前で寝泊まりして番をすることもあります。ちなみにガラス器や銀食器は執事が管理しますが、陶器類の管理は家政婦(ハウスキーパー)の担当とされていました。
パントリーには簡単な応接施設もあり、書き物をしたり、さまざまな事務仕事を行う場所としても使われます。執事は使用人の中で家令に次ぐ地位を持つ上級使用人とされ、主人のスケジュール管理や、従僕をはじめとする男性使用人の雇用と監督なども行っていました。他にも、従僕と協力してお屋敷に配達された手紙の仕分けを行ったり、新聞にアイロンがけをしてインクを乾かし、主人の手が汚れないようにするといったこともパントリーなどで行います。
パントリーは執事の聖域とされ、使用人の中で最も位の高い家令(ハウススチュワート)でさえも執事に敬意を払い、パントリーを訪ねる際には扉をノックしてから入室したといわれています。
執事の仕事場②酒類貯蔵室(セラー)
酒類貯蔵室(セラー)も執事の仕事場のひとつです。酒類貯蔵室とは、ワインなどの酒類を保存するための部屋で、温度変化が少なく品質管理に向いた静かな地下室です。
商人などから仕入れられた酒類は樽につめられ、この部屋で保存されます。執事たちは毎日必要な分だけのワインを樽からビンに移し、その分量を帳簿に記載し、品質をチェックしました。こうした酒類や帳簿の管理は本来、執事の仕事ですが、中には酒やビンをくすねてしまう不良執事もいたため、お屋敷によっては貯蔵室の管理を雇用主である主人本人が行ったり、鍵のかかる酒瓶台を採用するケースもありました。
この他、ワインの精製やビールの醸造がこの貯蔵室で行われることもありました。そのため、執事はワインの品質など酒類に関する知識と技術も身につけている必要があったといいます。
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執事に与えられていた個室はどんな場所?
ヴィクトリア朝の頃の使用人たちの多くは、主人のお屋敷に住み込みで働いています。彼らの生活空間は地下や屋根裏にあり、男女別に複数人で同居することが一般的でした。しかし執事や家政婦といった一部の上級使用人には個室が与えられています。とはいえ、個室だからといって環境がよいわけではなく、夏は暑く冬は寒いといった暮らしにくい部屋があてがわれていたケースも多かったようです。
大きなお屋敷の場合、家令や執事の部屋は上級使用人たちの食事の場としても使用されていました。ディナーの後は家政婦の部屋に移動し、プディングやタルトといったスイーツやワインを楽しむこともできます。
ヴィクトリア朝の頃の執事たちは、パントリーや酒類貯蔵室を主な仕事場とし、ガラス器や銀食器の管理、ワインの管理、男性使用人の雇用と監督、給仕、主人の身の回りの世話など多岐に渡る仕事を行っていました。忙しい仕事の合間に個室でひと息ついたり、他の使用人たちと一緒に食事やワインを楽しむことは、きっと執事たちの息抜きのひとつとなっていたことでしょう。
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