北欧神話のはじまりをご存知でしょうか。のちに名を馳せる神々たちが生まれるより、はるか昔のお話です。熱と寒さのみが存在する不毛な世界に生みだされたのは、一人の巨人でした。名前をユミルといいます。
『図解 北欧神話』(池上良太 著)では、北欧神話のあらすじや登場人物のエピソードを細かく解説しています。今回はその中から、世界をかたちづくった原初の巨人ユミルについてお話します。
目次
巨人ユミル①世界のはじまりとなる
まだ世界ができて間もない頃、そこには灼熱の世界ムスペッルスヘイムと極寒の世界ニヴルヘイム、そして深淵しか存在しませんでした。ある時、ムスペッルスヘイムの熱風により霜が溶けだし、ふたつの生命が誕生しました。 原初の巨人ユミルと牝牛のアウズフムラです。
ユミルの誕生には他の説もあり、『詩のエッダ』の「ヴァフスルーズニルのことば」によると、ニヴルヘイムから流れ出た毒の川が凝り固まったものから生まれたとされています。
ひとり生みだされたユミルは、牝牛から流れ出る乳を飲むことで生き延びることができました。
生まれた頃は獰猛な性格で神といえる存在ではなかったようですが、ユミルは後に霜の巨人とアース神族の始祖となります。しかし、自分のほかに牝牛しかいないこの世界で、彼はどのようにして子孫を繁栄させたのでしょうか。
次の章では、その謎に迫ります。
巨人ユミル②巨人と神々の始祖となる
「ギュルヴィの惑わし」にその答えが載っています。ユミルは一種の両性具有の存在で、寝汗をかいた左脇からは男女の巨人が、両足が交わると6つの頭を持つ巨人がそれぞれ生みだされました。
こうして、次々と霜の巨人が誕生していきますが、やがて世界に変革が起こります。
ユミルと一緒に生みだされた牝牛が食料としていた塩辛い霜の石から、ブーリと呼ばれる存在が誕生したのです。
ブーリは息子をもうけ、その息子は巨人の娘との間に3人の子を得ました。有名な神オーディンもその一人です。
彼らはユミルを殺すと、その体から世界をかたちづくりました。彼の肉は大地となり、血は海と湖、骨は岩、砕けた骨や歯からは石が造られたといいます。
さらに、頭蓋骨は天の覆いとなり、まつげはミズガルズを覆う囲いに、脳は雲として天にあげられました。こうして、ユミルの肉体は余すところなく世界の材料となったのです。
神々の始祖となったユミルですが、世界をつくる際に流れ出た血が洪水となり、ベルゲルミルとその妻を残して、霜の巨人たちを絶滅させてしまいました。
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