虐殺。恐ろしい言葉ですが、歴史の中では度々虐殺が繰り返されています。
古くは三国時代に、曹操が徐州で数十万もの住民を生き埋めにした徐州大虐殺や十字軍もイスラム及びユダヤ教徒に対して虐殺をおこなっています。
新しいところでは、ナチス・ドイツのユダヤ人に対する扱いや、中国の文化大革命時の弾圧も虐殺に含まれます。
『ダーティヒロイン』(藤井勝彦 著)では、創作に役立つ様々な黒いヒロインを紹介しています。今回はその中から、聖バルテルミーの大虐殺を引き起こしたカトリーヌ・ド・メディチについてお話します。
目次
カトリーヌ・ド・メディチ‐虐殺の仕組み‐
虐殺とは、ただ人を殺害することではありません。抵抗できない状況にある人を、集団などが残忍な方法を用いて殺害することを言います。徐州大虐殺や十字軍による虐殺も、この定義を満たしています。これらの事件は、虐殺をした目的も共通しています。
施政者が不正異分子と見なした集団を抹殺するために引き起こしているのです。施政者側の名目としては粛清になりますが、歴史的に見れば暴挙です。
虐殺とひとくくりに言っても、規模には少なからず差があります。多い時には数万から数十万を超えることもあります。実際ナチス・ドイツによる虐殺は600万から1000万人、中国文化大革命時の弾圧では、1000万から2000万人もの人が死に追いやられたと言われています。
では、どのようにして虐殺は実行されたのでしょう。現代のように大量破壊兵器があればボタンひとつで済むことですが、そんな兵器のない時代では、少数の軍隊だけで実行することは難しいはずです。そこで考えられた手法が、大衆を煽動することで、大衆自身の手により虐殺を実行するというものです。
まず施政者は大衆を煽る方法を考案します。次に実行者に命令を下します。後は実行者が、不安の煽り役であるアジテーターを各地に送り込むのを待つだけです。アジテーターによって不安を煽られた大衆は錯乱し、不正異分子に攻撃の矛先を向けるようになります。
ここまでの下地が整ってしまうと、大衆は自ら進んで命令に従います。
そして加害者となった大衆も集団ヒステリーに陥り、不合理な行動に対して善悪の判断ができずに蛮行に走ります。施政者は命令ひとつで、無数の大衆を無残に葬ることができてしまうのです。
カトリーヌ・ド・メディチ‐権力を握るまで‐
聖バルテルミーの大虐殺は16世紀のフランスで発生しました。旧教徒による新教徒の虐殺です。犠牲になった人の数は数千、数万にも上り、ヨーロッパ史上最大の悲劇といわれています。
この聖バルテルミー大虐殺の先導者がカトリーヌ・ド・メディチ(1519~1589)です。
イタリアの大富豪メディチ家に生まれ、フランス食文化を作り上げた人物として名前を知っている人も少なくないと思います。
彼女は13歳のときに、フランス王アンリ2世のもとに嫁ぎました。しかし夫は不慮の事故により他界、長男であるフランソワ7世が後を継いだものの、即位1年足らずで病により世を去ってしまいます。次に王となったのは、15歳の次男であるシャルル9世です。この時カトリーヌが摂政となり、権力を握ることとなったのです。
カトリーヌ・ド・メディチ‐虐殺の背景‐
旧教徒と新教徒の対立問題に対し、カトリーヌ・ド・メディチも始めから虐殺を狙ったわけではありません。三女のマルグリットを新教徒の総帥であるアンリ・ド・ナヴァルに嫁がせることで、新旧教団の融和を図っています。しかし、新教徒の指導者コリーニ提督がシャルル9世に接近。不穏な動きを見せ始めます。 これに危機感を募らせたカトリーヌは、コリーニ暗殺を目論んだのです。
この暗殺が成功していれば、また歴史が変わっていたのでしょう。ですが結果は失敗に終わります。
カトリーヌ・ド・メディチは新教徒からの反撃を恐れ、旧教徒の総帥ギューズ公と申し合わせて新教徒絶滅を画策します。ここまでが聖バルテルミー大虐殺を引き起こした背景です。
1572年8月24日、午後3時の教会の半鐘を合図に、コリーニに兵を送り寝込みを襲わせて殺害。その後旧教徒の一般市民を煽動し、新教徒を次々と襲わせて殺戮劇が開始します。 3日3晩至るところで銃が撃たれ、路上でも年齢性別関係なく無残に刺し殺され、首に縄を撒きつけて引き回し、パリの街中では殺人だけではなく、略奪も繰り返されました。
カトリーヌが実権を握る以前から、宗教対立の過熱により、元々緊張状況にありました。政治的に判断が難しい状態だったのでしょう。しかし、ここまでの残虐行為まで発展させた責任は重く、カトリーヌ・ド・メディチは悪女として世界に知られることになったのです。
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