これまでもいくつかの記事でご紹介してきましたが、妖精にはあらゆるバリエーションがあり、場所によって姿形も異なります。今回は『幻想世界の住人たち』(健部伸明、怪兵隊 著)より、「そもそも妖精とは?」という基礎的な話をご紹介します。
目次
そもそも「妖精」とは何なのか?
妖精というと、人それぞれにイメージするものが異なるかもしれません。ある人は、金髪で愛らしい羽根の生えた少女をイメージするかもしれませんし、ある人は小人のおじさんを想像するかもしれません。
「妖精」とは、言ってしまえば、それほど漠然としたことばなのではないでしょうか。
妖精をあらわす英語は「フェアリー(Fairy)」ですが、この語源は、後期ラテン語の「fatum(運命、神託)」、そしてその動詞形「fatare(魔法をかける)」から、派生したものです。
妖精の起源はさまざまで、たとえば以下のようなものがあります。
【妖精の起源】
・自然の力を擬人化したもの
・太古の神々が小さくなったもの
・滅亡した古い種族の記憶
・死者の魂
・堕天使など
この時点で、妖精の定義はかなり広義になってきますね。
また、すべてがこれに当てはまるわけではありませんが、妖精の特徴には以下のようなものがあります。
【一般的な外見】
・人間より小さい
・裸か保護色(緑、茶、赤など)の服
・女は美しい
・男は年寄りか子供の姿をしている
【嫌いなもの】
・鉄
・日の光
・教会や神などの神聖なもの
【好きなもの】
・月夜
・静けさ
・歌や音楽
・乗馬など
【食べ物】
・植物性のもの
・乳
・牛肉または生き物の生命力
「え、牛肉なんて食べるのか!」と驚いた方もいるかもしれませんね。
また明るくて可愛いイメージがある人にとっては、神聖なものが嫌いという特徴も意外に感じられるかもしれません。
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エルフにニンフ? 妖精たちの種類と世界について
多くの人がイメージする妖精は、可愛い姿をしているケルトの「シーオーク」かもしれません。シーオークの他にも、「エルフ」や「ニンフ」、「フェイ」、「トロル」など種類はさまざまです。妖精の種類は、その性質、住む場所や住み方、またはその姿から分類する方法があります。
また国や民族によっても異なります。
たとえば、北欧・ゲルマン民族の妖精は「エルフ」と総称します。
ギリシア系の水や木の精は「ニンフ」で、ケルト系の妖精は「シー(Sidh)」、または、「シーオーク(Sheoques)」と呼ばれています。 この三系統とはまったく別に、「フェイ」もいます。
今回は代表として、ケルト系の「シーオーク」に見る、妖精の世界をご紹介してゆきましょう。
アイルランドのシーオークは、人間と同じような社会生活をしています。
愛し合ったり、戦争をしたりもします。この戦争には人間が助太刀として借りだされることもあるようで、お産のときにも、時々お産婆さんが借りだされることがあるといいます。
また、妖精は不死だといわれていますが、中には妖精のお葬式を見たという人もいます。
しかしこうした妖精の行動は、人間の生活を真似して楽しんでいるだけなのかもしれません。
いたずら好きというイメージを持つ人もいるかもしれませんが、妖精には節操や良心というものはなく、死でさえも茶化してしまうのです。ある少年の死を予知して、棺桶を作って遊んでいた妖精もいたといいます。
彼らの住処は「ラース(Rath)」というところです。
ラースとは、アイルランド語で、お堀などで囲った小さな野原を表したことばです。
また、彼らは神聖な茨の茂みなども住処としています。
妖精の国は刻の流れが遅いそうで、そこから帰ってくると、何十年も時間が経っていたという浦島太郎のような話もよく聞かれます。
このように妖精の世界は人間でも垣間見ることができますし、足を踏み入れることも可能です。
いたずら好きって本当? 個性的な妖精の性格
ある詩人は、ラースで眠っている妖精の歌を聞き、その才能を得たといいます。またある御婦人は、妖精のダンスにまきこまれ、なんと爪先がすり減ってなくなってしまったという話もあります。
ほかには、妖精の歌にあわせて上手く歌ってコブを取ってもらった男性もいますし、逆に下手に歌ってコブをくっつけられてしまった男性もいます。
コブをつけられるだけでも十分に迷惑な話ではありますが、いたずら好きといっても、妖精はこれ以上の悪さは滅多にしません。
中には、妖精にとり殺されたという話もありますが、それは妖精の住処を荒らしたためです。
基本的には、彼らは恩には恩を返し、仇には仇を返すのです。
妖精たちのこの独特な性格は、以下の引用を読んでいただければ、すこしは納得ができるかもしれません。
トマス・カイトリーは、本来ケルトにはこういった妖精はおらず、十一世紀のノルマン・コンクェストのゲルマン人によってもたらされたのだといっています。これは同時にキリスト教の伝播をあらわしています。そのためケルトでは「妖精は天から墜ちた堕天使だが、地獄に落ちるほど罪深くはなく、といって天に戻れるほど潔白でもないために、地上にいるのだ」とされています。彼らは「最後の審判の時に自分たちが救われるかどうか」をひどく気にしており、時折人間にそれをたずねてきます。 『幻想世界の住人たち』p.128天使よりも自由意志が高く、しかしいたずらも多く、人間のように愛し合い、戦争をすることもあるから、彼らは堕天してしまったのでしょうか。
この「シーオーク」などは地上で群れをなして暮らしていますが、W.B.イエイツによれば、他にも一人で暮らしている妖精もいるそうです。 そして一人暮らしの妖精は大抵陰気であるということも、とても面白い特徴です。
中でも強烈な個性を持つ「デュラハン」などについては、他の記事でも紹介していますので、ぜひご覧ください。 以上、妖精についての基礎知識をご紹介しました。
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