錬金術に関わる有名なものとして「賢者の石」と「エリクサー」(または「エリクシール」、「エリクサ」、「エリクシャー」)があるのをご存知でしょうか。ゲームや映画にもよく登場するため、名前は知っているという方も多いと思います。賢者の石は「大(グレート)エリクサー」と呼ばれていたこともあり、エリクシャーと混同されることもあります。
ではエリクサーとは一体どのようなものなのでしょうか。
『魔法の薬ーマジック・ポーションー』(秦野啓 著)では、トリカブトやミイラなど、様々な薬を紹介しています。今回はその中から、エリクサーに代表される、数々の万能秘薬についてお話します。
目次
エリクサーの製法知っていた? サン・ジェルマン伯爵
賢者の石やエリクサーの製法を修得していた人物として、サン・ジェルマン伯爵の名が挙げられます。当時の社会では、魔術師かつ錬金術師として知られていました。何故伯爵が賢者の石、エリクサーなどの秘薬の製法を知っていたと噂されているのか、それには理由があります。
50年近くも容貌が変化しなかったこと、そして彼自身も4000歳を超える「時空を旅する錬金術師」を自称していたためです。
サン・ジェルマン伯爵の生涯は多くの謎に包まれています。1710年に生まれたとされていますが、正確なものかははっきりしていません。本名もトランシルバニアのラゴッツィ皇太子サン・ジェルマンとされていますが、こちらも事実認定するには、証拠が乏しい状況です。
他にもラゴッツィ皇太子フランツ・レオポルドの嫡子であること、メディチ家で養育されたこと、1777年にラゴッツィ皇太子としてライプチヒを訪問したことなどを本人が認めていますが、これらを証明できるものは何もありません。
また彼にまつわるエピソードの中には、ヨーロッパ各国の言語だけでなくヘブライ語やサンスクリットなどにも通じており、紀元前のバビロニアやカエサルの凱旋の様子、キリストのカナの婚姻、キリストの処刑などを「見てきたように」語ったというものもあります。時には語るだけではなく、当時の物とおぼしき品物を取り出すこともありました。
このエピソードでも、伯爵が本当に紀元前の出来事を見てきたことを証明することはできません。巧みな話術で、人々を煙に巻いただけという可能性もあります。しかし一方で、「実はエリクサーの薬効により紀元前から生きている」可能性も否定できないのです。
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エリクサーと並ぶ秘薬「賢者の石」から黄金作成!
エリクサーと同様に、万能の秘薬と見られているのが賢者の石です。この石の作り方は不明のままですが、錬金術師から賢者の石を譲られたという伝説は、西欧に多く存在します。
17世紀のトスカーナ大公であるハブスブルグ家のフェルディナンド3世(1608-57)は、錬金術の達人であるラヴュジャルディエルの死亡後に、友人であるリヒトハウゼンを通じて賢者の石を手に入れています。
フェルディナンド3世はこの賢者の石1グラム弱から、約25ポンドの黄金を作り出しました。なんと、これを記念してメダルも発行しています。
賢者の石にまつわる伝説として、アイルランドでは賢者の石を浸した水やミルク、オリーブ油などを病人に飲ませれば、いかなる病気でも治るというものもあります。
エリクサー以外の秘薬 「飲める黄金」パナケイア
エリクサー、賢者の石以外の秘薬もご紹介しましょう。別名を「飲める黄金」という、パナケイアです。こちらも万病の薬と呼ばれていますが、万病を癒すだけではなく、心臓の毒を取り除き、気管を潤し、潰瘍を治すとされています。
解釈の仕方にも寄りますが、「心臓の毒」を動悸と考えれば、「気管を潤す」という言葉と合わせて、息切れや咳といった気管支障害に効果的ということになります。
またパナケイアの特徴に、不老不死が含まれていないことがあります。万能とされやすい魔法の薬の中では珍しい分類に含まれるでしょう。
エリクサー製造にも必須の万能溶媒、アルカヘスト
アルカヘストは別名「万能融化液」「燃える水」とも呼ばれる、錬金術の溶媒です。賢者の石の製造には必須の秘薬といわれています。
かつては人体に対して薬効を持つとは考えられていませんでしたが、医師でもあった錬金術師パラケルススが万能薬として主張したことから、錬金薬のひとつとして捉えられるようになっています。
アルカヘストの製法を知っていた人物として、同じく錬金術師かつ医師であったヤン・バプティスタ・ファン・ヘルモントがいます。言い伝えによると、ヘルモントはアルカヘストを使って何人もの病人を治したようです。
しかしこのアルカヘストの製法については後世に伝えられていません。そのため19世紀以降の近代錬金術師の世界では、実在しなかったのではないかという声も上がっています。
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