緑の宝石として有名な翡翠ですが、鉱物学的には以下の2種類に分けられます。翡翠硬玉と呼ばれるジェダイトと、翡翠軟玉と呼ばれるネフライトです。ジェタイトが古代メキシコで珍重されたのに対し、ネフライトは古代中国で神の石と考えられていました。
『パワーストーン』(草野巧 著)では、サファイアやアメシストなどさまざまな宝石について紹介しています。今回はその中から、ネフライトについてお話します。
目次
黄金よりも貴重? 神々の石 ネフライト
古代中国人は翡翠を神々の石と考え、最も貴重な石とみなしていました。中国では翡翠のことを玉(ぎょく)といいましたが、これは翡翠が宝石のなかの王だったことが理由です。 また翡翠は皇帝の石ともされており、黄金よりも貴重でした。王族の記章が翡翠であったのに対し、黄金の記章を付けられるのは、官吏のなかでも第三、第四階級の者だったと言われています。
他にも、金持ちたちが第二夫人にダイヤモンドを与えることがあっても、第一夫人には必ず翡翠を与えていました。
翡翠がこのように珍重されていたのは、さまざまな徳が備わっていると考えられていたためです。一説には、翡翠の徳とは「博愛心」「智」「正義」「音楽」「忠」「信」などで、 翡翠は君子の見本になるともいわれていました。
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永遠の生命をもたらす石ネフライト
ネフライトには、濃緑色からクリーム色までさまざまなバリエーションがあります。その中でも昔の中国で最も価値が高いとされたのは、美しい緑色の翡翠でした。また中国では、緑は豊穣、生命、再生をもたらす神秘的な力と関連付けられました。そのため、翡翠にも生命に関わる力があるとみなされたのです。
もともと中国人は不老不死を求める傾向があり、紀元前の時代から不老不死を目的とする神仙思想を発達させてきました。これは、仙薬と呼ばれる特殊な薬を手に入れることで、不老不死を達成しようとする思想です。
この仙薬は当初、海の彼方にある仙人の住む山、神山(しんざん)にあるとされていました。やがてさまざまな材料から人為的に仙薬を作り出す技術が考案されるようになりました。その仙薬の材料のなかでも、重要なもののひとつとして考えられていたのが、生命の石である翡翠です。
神仙思想の聖書ともいえる葛洪(かっこう)の『抱朴子(ほうぼくし)』には、さまざまな材料から仙薬を作る方法が記されています。この中に翡翠についての細かい記述もあるのです。
玉の粉を酒に溶かしたり、ネギの水で溶かして飴にしたり、餅団子にして丸薬にしたり、その餅団子を焼いて粉薬にしたりして、一年以上飲み続ければ、水に飛び込んでも濡れず、火に 飛び込んでも火傷しなくなる。また、刀で切られても傷つかず、どんな毒にも侵されなくなる。 『パワーストーン』p.44さらに、玄真(げんしん)という種類の玉を服用すれば、永遠に生きることができ、自由自在に飛ぶことができるとされています。
また古代の中国人は、死者を埋葬する時に、死体の目、鼻、耳、肛門などに朱に塗った玉を詰める習慣がありました。これも翡翠が生命をもたらすという信仰と関係があります。当時の信仰では、人が死ぬと、その魂は鬼(き)となって空間をさまようが、肉体が腐らなければ鬼は必ずもとの身体に舞い戻るとされていました。そこで人々は、翡翠の魔力で死体の腐敗を防ぎ、死後に永遠の生命を手に入れようと考えたのです。
マオリ族でも信仰されていたネフライト
ネフライトに特別な力を認める信仰は、中国だけのものではありません。ニュージーランドの先住民族マオリ族の人々の間にも存在していました。マオリ族は10世紀前後に東ポリネシアのどこかからニュージーランドに移住してきたといわれています。そして当地で採れるネフライトを利用し、斧や武器、さまざまな呪具を作ったことで知られています。
こうして作られたネフライトの製作品のなかでも、とりわけ翡翠の神秘性を感じさせるものに、ヘイティキという護符があります。
ヘイティキの「ヘイ」はペンダントという意味であり、「ティキ」はニュージーランドの神話で人類の祖先とされている男のことです。そしてこのヘイティキに祖先のマナが蓄えられています。
マナとは、ハワイ、ニュージーランド、ニューギニアなどを含むポリネシアやメラネシアの言葉で、この世に存在するあらゆるものに宿っている超自然的なパワーのことです。さらにマナには、あるものから別なものへと移転するという特徴があります。
強力なマナを持ったものは、それ自体が強力な力を発揮すると信じられています。ある戦士が戦場で大きな活躍をすれば、それは彼の槍が強力なマナを宿していたとされたのです。
ヘイティキには決まった使い方があります。マオリ族の習慣では、ヘイティキを身に付けるのは基本的に家族の長と決まっていました。こうすることで、主人は翡翠でできたヘイティキに宿っているマナを自分のものとして利用し、主人としての働きを立派に果たし、家族の名前や未来を守ることができると信じられていました。
マオリ族の人々は、祖先のマナが蓄えられた、古く歴史のあるヘイティキほど強力な魔力を持つと信じ、家宝として大切にしていたのです。
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