中世ヨーロッパについて考える上で欠かせない制度のひとつに、荘園が挙げられます。日本や中国にも同じ名前のものがあり、歴史の授業で習ったという方は多いのではないでしょうか。
でも、名前は覚えていてもどんな制度だったか忘れてしまったという方もきっと多いのではと思います。そこで今回は『図解 中世の生活』(池上正太 著)の中から、荘園の仕組みについてご紹介します。
目次
中世ヨーロッパの荘園制度とは?
荘園制度とは、領土を支配するための形態のひとつです。支配者には領主だけでなく、聖職者も含まれています。彼らが支配した土地を荘園といい、荘園には直営地、農民保有地、共有地(牧草地や放牧地、森林)などがありました。荘園の区分は必ずしも村ごとというわけではありません。荘園が複数の村にまたがっていることや、ひとつの村の中に異なる領主の荘園が存在することもあります。
領主は荘園内の主要な領主館を拠点として荘園運営を行います。労働力となっていたのは農奴で、直営地で働く農奴は畑の耕作の他、家畜の放牧、機織り、運搬などを行っていました。農民保有地を貸し与えられていた農奴も週に2~3日、直営地での労働を要求されます。こうした直営地での労働のことを賦役といいます。農民保有地を貸与されている農奴の場合、賦役の他、農民保有地で生産した作物やその売上金を貢納することも求められました。
農奴たちは割り当てられた土地から離れることを認められず、荘園が売却される際は農奴も一緒に売買されます。賦役や貢納の他、結婚や相続をする時も税金を納めなければならないなど、土地の所有者から強い支配を受けていました。
しかし13世紀以降、このような荘園制度は少しずつ変化していきます。貨幣経済が発展しはじめたため、領主たちは現金収入を得ようと直営地を解体し、これまで抑制していた権利を農奴に売り払うようになりました。これまでの荘園を古典荘園と呼ぶのに対し、こうして直営地での賦役労働がなくなり、地代だけを貢納すればよくなった荘園のことを純粋荘園と呼びます。
変化したのは領主側だけではありません。農奴の中には都市に逃亡する者や、開拓運動に参加して自分の土地を手に入れ、独立を果たす者も現れるようになりました。
またペストの蔓延で荘園の人口が減少したことも、農奴たちの待遇が向上した原因のひとつです。
この他、荘園をめぐる歴史の中では農具の改良が進んだり、新しい農業制度の普及で生産力が向上するなどの変化もありました。 こうした様々な要因が重なる中で農民たちは力をつけ、自治的な農村経営を行えるようになっていきます。
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荘園を管理していたのはどんな人?
荘園で労働していたのは農奴ですが、では農奴を管理し、荘園の運営を行っていたのはどんな人たちだったのでしょう? 領主から順にみていきましょう。「領主」は荘園の支配者ですが、各地の荘園を移動しながら生活しており、実際の管理は部下に任せていました。領主が気にしていたのは、滞りなく税金が支払われているかということと、荘園の運営が効率よくされているかという2点です。
「家令」は領主直属の配下で、各地の荘園を巡回しています。主な役割は各地の荘園を監督することと、荘園で行われる裁判を統括することでした。
「荘園差配人」や「代官」は荘園を実質的に支配していた者たちです。彼らは郷士や自由民の豪農の息子で、読み書きができる者の中から任命されました。荘園差配人は荘園にある領主の館に住み、農作業の管理や他の村との交渉、外敵からの村人の保護、村で生産できない生活必需品の調達などを行います。重要な役割でしたが、村人に労働を促し税金を取り立てるわけですから、あまり好かれてはいませんでした。
「農奴監督官」または「村役人」は村人たちから選出され、荘園差配人の下で働きます。彼らの仕事は農奴が仕事をサボったり盗みを働いたりしないよう監督することや、荘園差配人の代わりに地代を徴収すること、会計記録をつけることなどです。農奴監督官は読み書きができないことも多かったため、会計記録は棒に刻み目をつける方式で行われました。
家令や荘園差配人と異なり、農奴監督官には報酬はありませんでしたが、その代わりに賦役の免除などの優遇措置が与えられたといいます。 農奴監督官のさらに下には種子の管理や垣根の管理、エールの管理を行う者などが付いていました。
このように、荘園は多くの役人の管理の下に成り立っていたのです。
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ライターからひとこと
領主、家令、荘園差配人、農奴監督官……ずらりと並ぶ役人たちをみると、何だか現代の会社制度と似ている部分があるように感じます。いつの時代も組織を運営していくにはたくさんの人と制度が必要です。本書では今回ご紹介した荘園制度について、イラスト入りで説明されていますので、よりわかりやすくなっていますよ。