中世の騎士伝説の英雄といえば、アーサー王の物語に登場するラーンスロット卿と、そしてガウェインが有名ではないでしょうか。ガウェインはアーサー王の甥にあたり、円卓の騎士のリーダーでもありました。
今回は『英雄列伝』(鏡たか子 著)より、騎士ガウェインについてご紹介します。
目次
太陽のような騎士! アーサー王に愛されたガウェイン
ガウェインは、アーサー王の異父姉モルゴースと、オークニー国のロット王との間に生まれた、アーサー王の甥っ子です。 賢明で雄弁家であり、腕前も強く勇気がある。そんなガウェインは、アーサー王にとっての懐刀でした。彼の面白い特質といえば、太陽との関係です。
彼は太陽と同じく、日の出から正午にかけて力を輝かせ、午後にはその力を陰らせてゆきます。
つまり、ガウェインは午前九時から正午までの三時間だけ、三倍の力を発揮できるのですが、正午を過ぎると本来の力に戻ってしまうのです。
王はガウェインのことをとても大切にしていました。それがよくわかるエピソードもあります。
アーサー王はたびたび馬上試合を催していました。自ら試合に参加することもありましたが、観覧席で観戦する際には、ガウェインをなるべく試合に出さないようにしていました。
なぜかというと、ラーンスロット卿とガウェインが戦ってしまえば、ガウェインに分がないと考えたからなのです。アーサー王はガウェインの名誉を、決して傷つけたくなかったのです。
また、太陽のように力を変化させる特質を知っているのも、アーサー王ただ一人でした。 アーサー王はガウェインのために、馬上試合などの数々の試合を午前中に執り行ったともいわれています。
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さすが騎士様! 男性にも女性にも誠実なガウェイン
アーサー王の物語には、騎士道とともにロマンスもたくさん描かれており、それぞれの騎士がどう女性を扱うのかを垣間見ることができます。『ガウェイン卿と緑の騎士』という物語は、クリスマスの宴に緑の装束に身を包んだ騎士が現れる話ですが、この話では、騎士らしく男同士の約束に忠実であり、女性に対しては紳士的であるガウェインの姿が描かれています。
宴にやってきた緑の騎士は、アーサー王や円卓の騎士たちに向かって、以下のようなことを言います。
「勇気がある者は、わが首をこの斧で一撃のもとに打ち落としてみるがよい。ただし、王様が、その者へのお返しの一撃を拙者にお与えくださるならばの話だが……」
この挑戦に立ち上がろうとしたアーサー王を制し、ガウェインが名乗り出ます。
そして緑の騎士の首をはねるのですが、騎士は自分の首を小脇にかけて、一年後に緑の礼拝堂で約束を果たせてもらうと言い置いて去っていきます。
一年後が近づくと、ガウェインは緑の礼拝堂を目指します。
その道すがら森の中の小高い丘に城を見つけ、城主から三日間もてなしを受けるようにと勧められます。
ガウェインはもてなしを受け容れるのですが、ただし、城主はひとつだけ、こんな約束をさせたのでした。
「拙者は毎日森での狩りで得た獲物は、すべてあなたに差しあげよう。そのかわり、どうぞあなたも、その日得たものを私にお与えくださるように」 『英雄列伝』p.133城主には美しい奥方がいました。主人が朝早くから狩りに出ていくと、奥方はガウェインを誘惑します。
しかしガウェインは丁重に誘惑をかわし、接吻だけを受けました。
城主は狩りから戻ると、その日に得た鹿をガウェインに与えます。これに対し、ガウェインは城主に接吻を与えました。
そして同様のことが三日間続き、ガウェインは城主との約束を守りきったのでした。
この話には続きがあり、この後ガウェインは緑の礼拝堂で緑の騎士と対峙するのですが、今回はガウェインの誠実さがわかるエピソードだけをご紹介しました。続きが気になる方は、ぜひ本書をあたってみてください。
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実は粘着質? ガウェインの復讐劇
ここまでは男として完璧な印象のガウェインですが、サー・トーマス・マロリー著『アーサー王の死』の後半で描かれるラーンスロット卿への態度から、復讐心が強いといわれることもあります。事の発端は、弟アグラウェイン卿や、モルドレッド卿が、ラーンスロット卿を陥れる計画を企てたことからでした。
ガウェインはなんとか止めさせようと説得していたのですが、しかし弟ガヘリス卿とガレス卿が、ラーンスロット卿に斬り殺されたと聞くと、態度を一転させます。
彼は、殺すか殺されるかするまでは、七つの王国をかけめぐってでもラーンスロット卿を追い、戦い続けると誓うのです。
ガウェインは、弟アグラウェイン卿がラーンスロット卿に殺されても、企てに対して忠告をしたのに聞き入れなかった本人の責任だとして、仇を打つ気はないとアーサー王に告げています。
しかしガヘリス卿やガレス卿が殺されたときは、二人がラーンスロット卿をあれほど慕っていたにもかかわらず、彼に切り捨てられたことが絶対に許せなかったのです。
こうして、ガウェインはラーンスロット卿と戦い、傷を受け、それがもとで死ぬことになります。
しかし最期には自分の短気と強情を悔いて、愛するアーサー王のために国に戻って戦ってくれるようにと、ラーンスロット卿に手紙を書き、息絶えるのでした。
このガウェインの復讐劇は、弟たちへの深い愛情のためともいえます。
またどんな場合にも筋を通すという、騎士らしい性格によるものでもあるのかもしれません。
以上、円卓の騎士のリーダー、ガウェインについて簡単にご紹介しました。
本書で紹介している明日使える知識
- ラーンスロット
- ギャラハッド
- オルペウス
- ダビデ
- etc...
ライターからひとこと
すこし気になるのが、『ガウェイン卿と緑の騎士』で、ガウェインが城主の奥方から接吻以上のものを受け取っていたとしたら、まさかそれまで城主にお返ししたのでしょうか……。なんだかちょっと危険な薫りがしますね。――それはさておき、この物語に登場する緑の騎士ですが、アメリカのワシントン・アーヴィングの小説、『スリーピー・ホローの伝説』に登場する騎士と似ています。こちらの記事にありますので、ぜひ読んでみてください。