【2017 ホラー企画】
パンタポルタでは、実際に恐ろしい体験をしたというMさん(仮名)にお話を伺うことができた。
今回はホラー企画として、Mさんの体験した恐怖体験の一部始終をお届けしよう。
◆
11歳の頃、私は近所の学習塾に通っていました。
とても人気のある塾で、1クラスは約30人。たくさんある教室は、いつも子供たちでいっぱいでした。
そんな賑やかな塾なので、近所迷惑にならないよう各教室の窓はすべて雨戸が閉められていたんです。
帰り際に先生たちがブレーカーを落とすと30センチ先も見えない真っ暗闇。忘れ物も取りに戻れないくらい暗くて怖かったのを覚えています。
その日は夏期講習で、教室には昼間からたくさんの子供たちがいました。
私は前のほうの壁際の席に座り、右側と後ろの席には同じ小学校の友達が並んで座っている状態です。
うるさい男子たちは後ろの方に陣取り、昼休みが始まるなり大はしゃぎで走り回っていました。
すると、不意に後ろから歌声が聞こえてきたんです。
かーごめーかごーめー
かーごのなーかのとーりーはー
その瞬間、なぜかはわかりませんが、もの凄く嫌な感じがして鳥肌が立ったんです。
寒くもないのに、なぜ?
いーつーいーつーでーやーるー
よーあーけーのばーんーにー
「やめてよ!!!」
金切り声をあげたのは、私の近くに座っていた他校の女子でした。
「それ歌ったら、幽霊が来るんだよ!?」
その子は本当に怖がっているようで、「やめて!ホントにやめて!」と叫びます。最初はふざけていた男子たちでしたが、次第にその剣幕におされ、各々の席に戻っていきました。
私が感じていた嫌な感じも消えて、教室内は徐々にいつもの昼休みの雰囲気を取り戻していました。
「かごめかごめ」が幽霊を呼ぶ歌だなんて初耳でしたが、そういえば何となく怖い歌詞です。私は、今あったことを早く忘れてしまおうと、友達とのおしゃべりに興じていました。
その時です。
バチン!!
突然、教室の電気が消えて、あたりは真っ暗。何も見えません。
男子がクスクス笑う声で、わざと電気を消したんだとわかりました。
そして、彼らはあの歌を歌ったんです。
かーごめーかごーめー
かーごのなーかのとーりーはー
いーつーいーつーでーやーるー
よーあーけーのばーんーにー
つーるとかーめがすーべったー
真っ暗闇の中、私は左側――教室の壁側に目を向けました。
何かいる。
うしろの正面、だーあれ?
「ヒッ……!?」
そこには、白いトレーナーを着た子供の肩がありました。
男の子だ。
顔が見えないにもかかわらず、直感的にそう思いました。
教室の机と壁の間には、10センチもすき間がありません。男の子の頭が壁の中にあるとしか思えない位置でした。
もう声を出すこともできません。
私はただ、ゆっくりと自分のほうに近づいてくる肩を見つめて、息をひそめていることしかできませんでした。
来ないで。来ないで。
それが私の肩にぶつかりそうなほど近づいた時、私は思わず下を向きました。
汗がにじむ両手を握りしめて、じっと。
ほんの2~3秒です。肩が通り過ぎるだけの時間を稼いで、私は顔を壁のほうに向けました。
「!!!!!!!!!!」
目の前に、男の子がいたんです。
横向きの肩と顔だけを壁から出した状態で、無表情に私を見つめていました。
その子の目は黄色っぽく変色していて、まるで生気が感じられません。真っ暗な中でも、なぜかその子だけがはっきりと見えるんです。
その直後、
「コラ、何やってんだ!!!」
先生の声とともに電気がつき、私の目の前の壁は、何の変哲もない白壁に戻っていました。
消えてくれた。
そう思った瞬間に恐怖がこみ上げてきて、隣の友達のほうを見ました。
彼女は何も見ていないようで、ケロッとした顔をしています。
しかし、
「……さっき、何か見えなかった?」
後ろの席の友達が、真っ青な顔で震えていました。
「何が? 怖いこと言わないでよー」
隣の友達は、本当に何も見ていないようでした。
彼女まで怖がらせたくなかった私は、思わず後ろの友達に嘘をついたんです。
「何もなかったよ。大丈夫?」
「うん……」
後ろの友達は納得がいかない様子でしたが、私は自分が見たものを思い出すまいという気持ちもあり、彼女に本当のことを言えませんでした。
何もなかったことにしよう。それが良いと思ったんです。
「怖がらせるのやめてよー。怖がりのくせにさ。さっき電気が消えた時も……」
隣の友達が、私に向かって笑いながら言いました。
「私の手、ずっと握ってたでしょ?」
ライターからのコメント
しばらくして、私は塾を辞めました。その4年後、300人以上の塾生を抱えていたはずのこの塾は、どういうわけか閉業してしまったそうです。
あの歌には本当に霊を呼ぶ力があったのか、それとも、何かの見間違いだったのか。今となってはわかりません。
ただ、あの男の子が本物の霊だったなら、私たちに何を伝えたかったんだろう……と、怖いような切ないような、不思議な気持ちになるのです。