【ホラー企画】
パンタポルタで大好評連載中の小説『竜殺しの称号、金貨何枚で買いますか?』に登場する主人公ヴァレリーさんから寄せられた怖い話です。
異世界に飛ばされてしまった彼女を待っていたのは、まさかの人物で……。
どうぞ本編とあわせてお楽しみください!
ええと……このたびは夏のホラー特集? ということで、わたしヴァレリーが冒険の途中で体験した不思議な出来事についてお話しようかと思います。
念のため自己紹介しておきますと、わたしはこう見えて熟練の冒険者でして、最近はもっぱら貴族の方からご依頼を受けて『ちょっとしたお仕事』をやっております。
おかげさまでそれなりに稼ぐことができているのですが……なにぶん常にご依頼があるわけではありませんので、ご縁に恵まれないと徐々に生活が苦しくなってくるんですよね。
というわけでたまに一人でふらっと、金策目的の冒険に出ることがあります。で、実を言うと今回お話する不思議な体験というのは、そのときに起こった出来事なんです。
当時のわたしは偶然にも、とある山奥で古代の遺跡を発見しまして。
そこはまだ冒険者が足を踏み入れていない――俗に『未踏破』と呼ばれるダンジョンでして、どんな魔物が生息しているかわからず危険ではあるものの、同時に財宝がすべて手つかずのまま残っているという、ハイリスクハイリターンなスポットなんです。
本来ならば一度ホームに帰還し、仲間を集めてから万全の状態で探索するというのがセオリーなのですが……やめておけばいいものを、わたしはちょっとした下見のつもりで入り口付近を探索してみることにしたわけです。
で、さっそく宝箱発見ですよ。
やはー!ってなりましたね。
今にして思うと通路のど真ん中にぽつんと置かれている時点でヤバい雰囲気バリバリだったのですが、欲に目がくらんだわたしは「やだな~。こわいな~」と思うことすらなく、トラップである可能性すら忘れて豪快に宝箱をオープンしてしまったのです。
※おおっと※
はい、テレポーターです。さすがにヒヤッとしました。
とはいえ不幸中の幸いでダンジョンの壁と同化することだけは免れましたが、空間転移のトラップに引っかかってしまったわたしは、自分がどこにいるのかさっぱりわかりません。
周囲の景色は一度も目にしたことのない――というより明らかに今までにいた世界とは別物でした。ガチガチに固められた灰色の道に、全身が金属で覆われた巨大な猪のような魔物たちが「ぶぅー!ぶぅー!」と鳴き声をあげながら猛然と走っているのですから。
わたしはあまりのことに呆然としながらも、これは冒険者の噂で囁かれている『テレポーターで稀に飛ばされる別次元の空間』では……? と思い至りまして。
見慣れぬ土地でおどおどしながらも道なりに進み、やがて元いた世界に雰囲気の近い田舎道にたどりつくと、わたしは異種族と会話を試みるときに用いる〈翻訳の巻物〉を取りだして農作業に従事してるっぽいおばさんに話しかけてみました。
「……なんだいアンタその格好、コスプレかい?」
「実をいうと道に迷っておりまして。ここはなんという土地でしょう」
「I市だよ。グンマのね」
やはり異世界。
そしてグンマという土地のようでした。
どうやったら元いた世界に戻れるのでしょう……?
思わず呆然としてしまったわたしを見て、グンマのおばさんは、
「そういえばさっき、この辺を取材にきた人がいてねえ。その人を呼んできてやるべ」
と親切にも、トウキョウから来たという物知りな人を紹介してくださいました。
そしてしばし待つこと数十分、いかにも聡明そうな方がやってきまして、
「うわお! マジの! 異世界転移! しかも女冒険者ですやん!」
「……あの、はい。わたしヴァレリーといいます」
「ああ、すみません。実は私、出版社で編集を――」
と、その人はご丁寧に自己紹介してくださいました。
どういうわけか妙に興奮していらしたので、ヘンシュウと名乗ったその方がどんなお仕事をされているのかよくわからなかったのですが、モーニングスターがどうたらと言っておりましたので、たぶん武器の仲買人かなにかでしたのでしょう。
しばらくお話を聞いてみると「異世界の転移や転生には詳しいですよ!」と若干食いぎみにおっしゃられたので、わたしはこれもなにかのご縁だと思い、その方についていくことにしました。
「私がこうしてグンマにいるのは、夏のホラー特集で書く予定のネタを探しに来たわけでして。せっかくなのでヴァレリーさんもつきあってくれませんか?」
「はあ、今はとくに行くあてもないので大丈夫ですけど」
「それはよかった! なんとこの辺りの畑で妖怪クネクネが出るらしいんですっ!」
というわけで、わたしはヘンシュウさんとクネクネとやらを探すことになったのです。
獲物を探しながら詳しい話を聞いたところ、クネクネというのは白い帯状のかたちをしていて、見ただけで混乱状態を引きおこしてしまう魔物ということでした。
なにせここはグンマ――この世界の言葉で群れる魔、つまり『魔の満ちた領域=群魔圏』という意味ですから、魔物も多数生息しているのでしょう。
……え? ForceではなくてHorseなんですか?
まあそれはさておき、わたしたちは数時間ほど捜索を続けた結果、ゴボウ畑の真ん中に佇むクネクネを発見することに成功いたしました。
見るものを混乱状態に陥れるという伝承は正しかったようで、ゴボウの葉っぱが茂る畑でクネクネとダンスを踊る魔物を見た瞬間、ヘンシュウさんは、
「アア……ッ! ヴァレリーさん……見ナイホウガイイ……」
と、さっそく頭の上でピヨピヨとひよこが回っているようでした。
しかし見るなと言われると、余計に見たくなってしまうものです。
そのうえわたしは魔物退治を生業とする冒険者でもあるわけですから、勇気をふるってクネクネに近づいていきます。すると……。
『あれれ? ヴァレリーさん、こんなところで奇遇だね!』
と魔物みずから声をかけてくるではありませんか!
よく見てみれば、クネクネと踊るその魔物はなんとパンダの妖精でした。
『そう、ぼくはパン太だよ! 今日は天気がいいから畑で踊っていたところなんだ。あそこにいるのはヘンシュウさんかな。ぼくを見て幻覚だと思ったのかもしれないね!』
と、なんだかやけにカジュアルな感じで喋りつづけるパン太くん。
あまりのことにわたしが頭を抱えていると、
『うーん、ぼくの手違いで君がこっちの世界に来ちゃったみたいだね。パン太はまだ小さい妖精だから失敗することもあるけど、どうか生暖かい目で見守っていてほしいんだ!』
とのこと。
どうにも展開が茶番じみてきたところで、パン太くんはこう言いました。
『君をあまり長居させるとせっかくのファンタジーな世界観がブレブレになるし、ぼくが元いた世界に送り届けてあげるね。だからこのカンペに書かれた呪文を唱えてみて!』
はあ……。ええと……カンペを読めばいいんですね。
カンペを読めば。
「竜殺しの称号、金貨何枚で買いますか?』第四話は同サイトにて、金曜日に更新されます! わたしとロバート様によるバジリスク退治の行く末を、どうかその目で確かめてみてください! ではでは~」
……なんじゃそりゃ。
もしかしてここまでの話、ただの告知だったわけ?
と思わず白目になってしまうものの、教えてもらった呪文を唱えた瞬間。
わたしの身体は不思議な光に包まれていきます。しかし――。
『まだエネルギーが足りないみたい! どうかみんな、この下にあるリンクから【竜殺しの称号、金貨何枚で買いますか?】のページに飛んであげて! そうしたら魔力が増幅されて、ヴァレリーさんが元の世界に帰れるかも!』
ということらしいです。
まだの人はもちろん、すでに読んだ人も復習をかねて。
レッツ! ファンタジー世界にジャンプ!
↓↓↓
竜殺しの称号、金貨何枚で買いますか?