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時は人類が宇宙開拓時代を迎えた未来の世界。『ストーリーの作り方』の著者が、未来に生きるSF作家の姿を借りて贈る、著者ならではのメイキング解説を練り込んだSFパロディー。いま、人類が宇宙進出に至った知られざる真実が明かされる。
人類の進歩
作者:野村カイリ
ねじ曲がるエッフェル塔、ぽっきりと折れるビッグベン、粉々に四散する合衆国議会議事堂。巨大宇宙船による破壊が、SF映画の演出さながらに展開していった。結局のところ地球侵略は宇宙人のなすがままだった。
宇宙人の侵略だけではない。人類は、眼の前にある山ほどの災厄に抗する術を持っていなかった。
人類の進歩は、人類の都合に合わせて起こることはない。
これまでの歴史の中で、人類は数々の問題と危機に見舞われてきた。だがその度に新たな科学技術と社会変革を生み出しては難題を解決してきた。だからもっと人類の進歩というものに信頼を置いたほうがよいのかも知れない。それなりに犠牲を払ったとしても、人類は最後には辻褄を合わせてきたのだ。なんとか間に合わせてきたのだ。
いやいや、確かにいままではそうだったかも知れない。だがいつも間に合うとは限らない。たとえば日本がよい例だ。わたしの父方の祖国である日本国は、“エイタック”以前の数度の大地震とそれにつづく災厄によって多くの被害を受けていた。影響はいまでも残り、かつての国土の半分近くに人が住めなくなっている。日本は沈没することなしに実質的な意味で国土を半減させてしまっていた。人類の進歩は思うに任せられない。地震の予知は現在も出来ない。そして核のゴミは万年単位で残りつづけるままだ。
こんな、あからさまな書き方はしないものの、SF作家が持つ文明観は自身の作品に投影される。
“エイタック”までの数十年間というもの、人類はさまざまな災厄がもたらす事態に耐えてきた。なんとかならなかったからには、なんとかなるまで耐えるしかないのだ。宇宙人の攻撃であろうと同じことだった。