日本における「鬼」は、節分で登場したり、昔話にもでてきたりと身近な存在ですよね。実は鬼にまつわる伝承は、日本だけでなく中国、インドなどにも数多く残されています。今回、『幻想世界の住人たちⅣ<日本編>』(多田克己 著)の中から取り上げるのは、日本と中国の鬼神観が混ざって生まれた人鬼の一人、「酒呑童子(しゅてんどうじ)」です。
目次
鬼ってどんなもの? 日本、中国、インドの鬼
『倭名類聚鈔』(わみょうるいじゅしょう)によると、平安時代のころまで日本では「鬼」を「おに」「もの」とも言い、「おに」は目に見えなくても実態の感じられる霊的な存在、「もの」は明確な形をとらず感覚的な霊的な存在を指していました。中国の道教では、あらゆるものに精霊の存在を認め、嵐や雷、疫病や火災など恐ろしい災いをもたらす超自然存在を鬼神と呼び、幽霊を鬼と呼んでいました。幽霊と言っても、怪談にでてくるような実態のない存在ではありません。古代中国における幽霊は生きている人間とあまり変わらず、食事をしたり、恋愛を楽しんだり、人との間に子供をもうけることさえできました。
インドの仏教においては、阿修羅(アシュラ)や迦楼羅(カルラ)などが鬼と考えられていました。現代まで日本に伝わっているさまざまな鬼たちは、仏教や道教の伝来などの歴史が大きく関係しています。子供のころから伝統行事や昔話で馴染みのある鬼ですが、その背景に海をまたいだ遠い国が関係していると思うと興味深いですよね。
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生き血をすする? 恐れられていた酒呑童子の姿
近年ゲームのキャラクターとしても活躍している酒呑童子 。それでは、古来より伝えられてきた酒呑童子とは、どのような姿をしていたのでしょうか。酒呑童子とは、平安時代、京都に現れた鬼神です。日中は、身長約3メートルもあり、切りたらした髪に赤ら顔、子どもが大きくなったような姿をしていたといわれています。しかし、日が沈むと正体を明らかにし、熊のような手足もち、逆立つ赤毛に角が生え、眉もひげも伸びっぱなしの姿で現れるといいます。
酒呑童子は、もともとは人間でした。夜の町に現れては金品を奪ったり、殺人をしたり、果ては貴族の娘を住処である丹波の大江山に連れ去って、酒池肉林の生活をしていたそうです。当時の人々には、酒呑童子は人肉を食べ、生き血をすすると恐れられていました。
酒呑童子はどうして鬼神になったのか
もとは人間だったといわれている酒呑童子は、越後の国の鍛冶屋の息子といわれています。酒呑童子は母親の胎内に16ヶ月いて、生まれると同時に5、6歳なみの子どものように話し、歩くことができたといいます。また、4歳にもなると16歳程度の知恵や腕力を持ち、周囲から鬼っ子とよばれ気味悪がられていました。『前太平記』によると、6歳の頃谷底へ捨てられたとあり、「捨て子童子」から「酒呑童子」に変化したとも言われています。そして、各地を旅していくうちに殺人を犯し、鬼神になっていきました。
酒呑童子は各地を旅し、一旦は比叡山に住み着きます。しかし、伝教大師(最澄)に追い出され、丹波の国の大江山へ逃げますが、弘法大師(空海)の法力でまたもや追い出されてしまいます。酒呑童子は、弘法大師の死を待ち山へ戻ると、玉のすだれをたらした瑠璃の宮殿を建て、鉄の塀、鉄の門で宮殿を囲みました。酒呑童子の住処は「鉄の御所」と呼ばれています。
酒呑童子のその後とは……誰に退治された?
『御伽草子』によると、酒呑童子は源頼光と四天王に退治されたとあります。詳しく見ていきましょう。酒呑童子が次々と娘をさらったことで、京の町では討伐隊が作られます。討伐隊のメンバーは、源頼光(みなもとのらいこう)、“四天王”と呼ばれた渡辺綱(わたなべのつな)、坂田公時(さかたのきんとき。「金時」とも書く)、碓井貞光(うすいさだみつ)、卜部季武(うらべすえたけ)、そして藤原保昌(ふじわらのやすまさ)の6名です。
討伐隊は山伏に変装し、住吉明神、石清水(いわしみず)八幡、熊野権現をお参りし、三人の老人に出会います。老人たちは討伐隊に“神便鬼毒酒”(しんべんきどくしゅ)という酒と、源頼光に兜を授けました。3人の老人は、実は住吉明神、石清水(いわしみず)八幡、熊野権現の化身だったのです。
討伐隊は酒呑童子を油断させ、“神便鬼毒酒”(しんべんきどくしゅ)を飲ますことに成功します。酒呑童子の寝所へ向かうと、ふたたび3人の老人が現れ、酒呑童子を退治することを手伝ってくれました。老人たちの助けを得て、頼光らは酒呑童子の首を落とすことに成功します。
討伐隊はとらわれていた娘たちを解放し、正暦元年(990)正月25日、京の都へ凱旋しました。 お酒を飲まされ退治されるというエピソードは、「酒呑童子」の名前にふさわしい最期なのではないでしょうか。
本書で紹介している明日使える知識
- 鬼女
- 天邪鬼
- ヒダル神
- 大百足
- 土蜘蛛
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