本コラムは『現代知識チートマニュアル』(山北篤 著)をひもとき、もし明日異世界に転生したとしても生き残れるよう、「チート」知識を身につけるためのコラムである。
前回のコラムでは、洗濯板と砂糖を作って当座の資金を稼ぐための「チート」を紹介した。だが、それだけでは、まだまだ異世界で成功したとは言い切れない。砂糖を求めて貴族や王族が訪ねてくる可能性もないではないが、そうならなかった場合に備えて、まだまだ力を蓄えていきたい。そこで今回は、さらにいくつかの金策チートを紹介しよう。
目次
狙うは地元の名産品! 砂糖漬けで価格も保存性もアップ
まずは、『現代知識チートマニュアル』の157ページを参考に、ビーツを取り出した砂糖を使って、保存食である砂糖漬けを作ってみよう。砂糖漬けと聞いてまず思い浮かぶのは、りんごや柑橘類など、フルーツの砂糖漬けだ。砂糖漬けは、フルーツと同量程度の砂糖を少量の水で煮込むか、高濃度の砂糖水で漬け込むことで作ることができる。煮込んだ後に乾燥させれば、ドライフルーツの完成だ。
こうして作られた砂糖漬けは、保存性も高く、強い甘みを持っている。嗜好品としてかなりの売り上げが見込めることだろう。
ある程度の量を生産できるようになったら、瓶詰めや缶詰などへの展開も視野に入る。そうなれば長期間の保存が可能となり、うまくいけば地方の特産品レベルにまで昇華することが可能かもしれない。だが、瓶詰めや缶詰の作成にはある程度の機材や技術が必要になるので、もう少し財力と人脈を蓄えてから考えたほうが良いだろう。
おやつの次は娯楽を提供――チェス、囲碁、オセロ
次に紹介するのは、頭脳労働だ。食品や道具の「チート」ももちろん素晴らしいが、やはり効率においては頭脳労働にかなわない。なんといっても、原資がかからないのが最大の魅力だ。
頭脳労働といってもさまざまな種類があるが、今回は『現代知識チートマニュアル』163、164ページにある娯楽に注目してみよう。ここで紹介されているのは「チェス」「囲碁」「オセロ」という3つのゲームだ。どのゲームも、一度はプレイしたことがあるのではないだろうか。
このうち、「チェス」と「囲碁」は長い歴史を誇る人気ゲームで、転生先の世界にも似たようなゲームがあるかもしれない。だが、「オセロ」は20世紀に入ってから日本で考案されたゲームであり、類似ゲームが存在しない可能性も高い。ルールも3ゲームの中では一番覚えやすいので、まずは「オセロ」の普及を目指そう。
普及させる方法はいくつか考えられるが、まずは砂糖漬けや洗濯板などの商品と絡めて、「お得な『オセロ』キャンペーン」として展開させてみるのはどうだろうか。
つまり、オセロのルールを顧客に説明して「このオセロというゲームで自分に勝利したら、割引や増量などのサービスを行う」キャンペーンを展開するのだ。そうすれば、単純なルールながらも奥が深いオセロに、村人みんながドはまりするのは間違いない。
その後は定期的にキャンペーンを打ちながら、オセロセットの販売を行えばいい。また、人気が出てきた頃を見計らって、参加費を取って上位入賞者には賞金を出す大会を運営する、などの方法も考えられる。
オセロが一通り普及したら、次はチェス、囲碁と新たな娯楽を展開していけばいいだろう。そのために、日々こうしたゲームの定跡や棋譜を勉強するのも欠かさないように。
教育は社会の基本――子どもたちに算数を教えよう
頭脳を使った「チート」でもう一つ思いつくのが、教育関連だ。現代日本は教育レベルが高く、中高生にもなれば四則演算問題なら簡単に解くことができる。一方中世ヨーロッパでは、成人であっても小学生レベルの計算問題が解けないことが多かったという。
『現代知識チートマニュアル』331ページから始まる13章「数学チート」の項目では、さまざまな数学の知識、道具が紹介されている。だが、そもそも知識のない人に、難解な知識を教えるのは難しい。
そこで今回は、あくまで近所に住んでいる村人を対象に、簡単な算数を教えることを考えてみよう。一桁の足し算と引き算なら、簡単に教えることができそうだ。果物やパンなど、まずは簡単に覚えられるように、生徒たちの身近な物で教えるのが良いだろう。
だが、何度か物品とジェスチャーで教えた後は、きちんと数式として教えることが重要だ。なぜなら、「計算」という概念を覚える前は、「3つあるりんごから1つを食べる」と「牛3頭から1頭を肉にする」が同じように計算できると認識できないからだ。種類が違うとわからなくなってしまうというのは、始めて計算を習った子どもがよく引っかかるポイントである。それを数式化し、数の増減はすべて数字のやりとりで計算できるとわかれば、物の種類で戸惑うことも無くなるだろう。
加減算がある程度行えるようになったら、九九を教えるのもいいかもしれない。日本の九九が優れているのは、調子をつけて覚えられる点だ。毎日九九を暗唱していれば、まるで歌の歌詞を覚えるように、自然に覚えることができる。いっそのこと、本当にメロディをつけて教えるというのも手だ。陽気なメロディに乗せれば、子どもたちにも楽しく覚えてもらうことができる。
ただ、商品の開発・販売や娯楽の提供に比べると、教育でお金を取るのは少し難しいかもしれない。中世では子どもといっても重要な労働力であり、教育の優先順位は低い。また、現在働いている大人たちも、娯楽や嗜好品ならともかく、楽しくもない勉強を好んでやるかというと、いささか疑問である。
そのためには、やはり異世界の生活レベルを押し上げ、教育を行うゆとりを産む必要がある。次回は、その辺りを中心に紹介したい。
『現代知識チートマニュアル』