妖精といえば「エルフ」や「フェアリー」、なかでも女の姿をしたものが印象強いですよね。 ファンタジー作品に登場する彼女たちは、可憐で美しく、高貴で繊細……そんな印象ではありませんか? 一度は会ってみたいな、なんて思う方もいるのではないでしょうか。
しかし、同じ女の妖精でも、まったくお会いしたくない方々がいます。今回は『幻想生物 西洋編』(山北篤 著)から、怖ろしい女妖精を2種、ご紹介します。
目次
いきなり血を浴びせてくる首ナシ女妖精「デュラハン」
デュラハンは、ケルトの「アンシーリー・コート」と呼ばれる妖精の一種です。アンシーリー:祝福されざる、神聖でない
コート:妖精
この意味からもわかるように、アンシーリー・コートとは、人間たちを憎み、害を及ぼす妖精の総称です。
【デュラハンの見た目】
・女の姿
・首がない(もしくは小脇に首を抱えている)
・首なしの黒馬が引く馬車、コシュタ・バワーに乗っている
・馬車には棺を積んでいる
デュラハンが抱える首は、怖ろしい笑みを浮かべ、口は耳まで裂けています。
馬車には虫食いだらけの黒いビロードがかかっていて、持ち手や車輪のスポーク は、人骨でできています。
そして頭蓋骨を提灯代わりにして、夜道を照らしているのです。 一部の人には支持されそうですが、常識で考えれば、悪趣味としか言いようがありません。
【デュラハンの役目】
・死者が現れることを予言するために出現
・まず辺りを走り回る
・死者の出る家の前に止まって扉をノックする
・家人が出てくると、たらいいっぱいの血を浴びせて去っていく
デュラハンがやってくるのを避けようと思っても、それは無理です。鍵を掛けたり、門を閉じたりしても、勝手に開いてしまいます。
これから死者が出るというだけで悲しい話ですが、走り回る騒音に加えて、たらいいっぱいの血を浴びせられるなんて、あんまりですよね。
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デュラハンの別の顔! 彷徨える騎士やアーサー王伝説
ちょっと迷惑な女デュラハンの伝説とは別の、ディラハンを首のない騎士だとする言い伝えもあります。映画にもなったアメリカのワシントン・アーヴィングの小説、『スリーピー・ホローの伝説』の影響もあり、現代のわたしたちに馴染み深いのは、こちらのほうかもしれません。
伝説では、アメリカに移住してきたドイツ人の騎士である。首を斬られて死んだために、他の人間の首も斬ってやろうと、 森の中で待ち構えているという。 『幻想生物 西洋編』p.33これはもともとニューヨークの都市伝説で、実際にニューヨーク州には、スリーピー・ホローという名の土地がたくさんあります。
ちなみに、アーヴィングの小説では、アメリカ独立戦争のときに大砲の弾丸に頭を吹っ飛ばされて、夜な夜な戦場を駆って首を探しているドイツ出身の騎兵ということになっています。
首なし騎士の伝説としては、他にも14世紀に書かれた長編叙情詩『サー・ガウェインと緑の騎士』に、全身が緑色の首なし騎士が登場します。この叙情詩は「アーサー王伝説」にからんだもので、のちに『指輪物語』でおなじみのJ・R・R・トールキンが、古英語から現代英語に書き直したことで、有名になりました。
女と男では、かなり印象の異なるデュラハン。奇抜な女デュラハンよりも、どこか哀愁のある男性のほうが、知名度も好感度も高そうですね。
泣きすぎて目が真っ赤、女妖精「バンシー」
その名もずばり、女妖精という名を持つ「バンシー」。ゲール語(アイルランドやスコットランドに残る古い言語)で、「bean sídhe」と書きます。beanは「妻」もしくは「女」を意味していて、sídheは「妖精」を表します。
まさに女の妖精という意味ですね。
彼女にもいろいろな姿があり、 アイルランドでは美しい女の姿で、スコットランドでは醜い姿をしています。
【バンシーの見た目】
・長い髪
・緑の服に灰色のマント
・泣き続けたため目が真っ赤 バンシーは祖先の霊だとする説もあり、 17世紀のファンショー夫人という人の目撃例では、白い服、赤い髪、青白い顔をした女の幽霊だったそうです。
【バンシーの役目】
・人徳がある人が死ぬときに、お知らせのために泣く
・身内の者に死が訪れることを知らせるために、美しい声で歌う
・もうすぐ死者の出る家の窓の下で、家人の死を予言する のバンシーの泣き方は、泣き声というより、金切り声や、悲鳴に近いといいます。
美しい歌声をもつバンシーは、オスカー・ワイルドの母、ワイルド夫人が著書に残している伝承です。こちらは、妖精ではなく先祖の霊という説をとっていて、若くして死んだその家の処女の姿をしているといいます。
歌で死を知らせるほかに、アルゼンチンの作家、ホルヘ・ルイス・ボルヘスの『幻獣辞典』では、家の窓の下にいてまもなく訪れる死を予言する存在として登場します。
逆転ラッキーを狙え! 洗い女ver.の妖精バンシー
見た目はちょっと怖そうなバンシーですが、誰かさんと違って、人に酷いことをするような性格ではありません。それどころか、上手くいけば、逆にとってもラッキーなことを起こしてくれます。
スコットランドのバンシーの一種、洗い女の「ベン・ニーァ」は、洗濯をする妖精です。
【ベン・ニーァの見た目】
・小柄
・緑の服
・水かきのある赤い足
【ベン・ニーァの役目】
・人里離れた小川のほとりで、まもなく死ぬ人の衣服を洗う
ベン・ニーァに服を洗われてしまうと、もうその人の死は避けられません。
しかし、「やっぱりおまえも死を予言するのか!」と、がっかりするのは、まだ早いです。 なんと、彼女が服を洗う前に、彼女と小川の間に立ちふさがって邪魔をすれば、「3つの願い」が叶えられるというのです。ベン・ニーァに出くわすのはリスキーではありますが、上手くいけば逆転ラッキーを掴めるというわけです。
とはいえ、やっぱりこのような方々には、できればお会いしたくないのが正直なところですね。
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- エルフ
- フェアリー
- ガーゴイル
- ゴーレム
- ドッペルゲンガー
- etc...
ライターからひとこと
多くの人が妖精と聞いて思い出すのは、ジェームス・マシュー・バリーの『ピーターパンとウェンディ』の「ティンカー・ベル」、そしてJ・R・R・トールキンの『指輪物語』の「エルフ」ではないでしょうか。他にも本書には、機械に悪戯する「グレムリン」や、小さい悪戯ばかりをする「ゴブリン」など、あらゆる妖精が紹介されています。そもそもわたしは、この本を読むまで、彼らが妖精であることを知りませんでした。ファンタジー初心者はもちろん、ファンタジー作品を書く方や、映画が好きな方、ぜひこの本で知識を広げてみてはいかがでしょうか。