こちらの記事でもご紹介しましたが、世界にはわたしたちのイメージする可愛い妖精とはかけ離れた、恐ろしい妖精がたくさんいます。
迷惑なヤツからお役立ち生物まで、『幻想生物 西洋編』(山北篤 著)の中から、イギリスを中心に、あんまり可愛くない3種の妖精をご紹介します。今回は、映画でも有名な「グレムリン」も登場しますよ。
目次
魔女と錬金術師の使い「インプ」は、悪魔か妖精か?
「インプ」あるいは「インペット」と呼ばれる怪物は、時代や地域によって様々な言い伝えがあります。その見た目も確定されていませんが、彼らの基本的な姿を挙げてみましょう。【インプの見た目例】
・子どものように小さな人型の怪物
・コウモリのような羽根 ・角が生えている
・耳が尖っている
インプの正体については、妖精であるという説と小悪魔であるという説があります。これは時代や、その語を使う者の背景によっても大きく異なってきます。
まず、錬金術師にとって、インプはどういった存在だったのでしょう。錬金術師にとってのインプは、瓶や指輪に封じ込めたデーモンを意味します。閉じ込めた彼らを儀式魔術によって呼び出し、使役するのです。
16世紀の医師・錬金術師のパラケルススは、剣の水晶の柄頭(つかがしら)に、デーモンを封じていたと言われています。
ちなみに、この「デーモン」は、本来は悪魔という意味ではありません。 もともと異教の神や小神であったものが、キリスト教によって悪魔とされてしまったのです。 一方、魔女にとってのインプはどうでしょうか。
キリスト教による狂気の魔女狩りの時代、魔女と使い魔は悪魔の下僕と考えられていた。その(キリスト教による偏見によって描き出された)魔女にとって、インプとは使い魔である。 『幻想生物 西洋編』p.21そもそも魔女とは、キリスト以前の古い信仰体系の末裔で、その使い魔は、悪魔というより、妖精や精霊に近いものでした。
インプは普段、黒猫、ねずみ、虫、ヒキガエルなどの姿をしており、魔女の命令によって本来の姿を現し、他人を病気にしたり、家畜を殺したりと悪事を働きます。
そしてその代償に、魔女はインプに血を与えます。
キリスト教の影響でだいぶ印象が悪くなってしまったインプ(インペット)ですが、イギリスの民話『トム・ティット・トット』 に登場するインペットも、娘のかわりに働く代償に娘を自分のものにするように要求するなど、なかなかハードな代償を求めてくる一面があります。
このお話ではインペットは悪魔扱いされていますが、同系の話では妖精であるとされていて、どうやら元は妖精であったのが、時代を経るうちに悪魔にされてしまったようです。
小説では『ジキル博士とハイド氏』などで有名なスティーヴンソンの『南海千一夜物語』に、瓶詰めのインプが登場します。
何でも望みを叶えてくれますが、その瓶を持ったまま死ぬと地獄行きになってしまいます。しかもその瓶は、購入時の値段よりも安く売らないと、手放すことができません。
また、イギリスのリンカン市にある「リンカン大聖堂」には、2匹のインプの伝説も残っています。 悪さをする2匹のインプのうち、1匹が天使によって石に変えられてしまったのです。 石にされた1匹のインプは、今も見られるそうですよ。
なおこのインプはいかにも小悪魔といった感じで、みてくれはあまりよろしくありません。
機械にいたずらをする妖精「グレムリン」
20世紀になって登場した新しい妖精、「グレムリン」。1984年に一世風靡した同名映画で、その名を知る人も多いでしょう。
名前の由来は、古英語の gremian (イライラさせる)+ Goblin (ゴブリン)だとも言われています。
原因不明の機械の異常動作や停止は、彼らの仕業と言われています。
実際に、そういった原因不明のトラブルのことを「グレムリン効果」と呼ぶそうです。
グレムリンとはいったいどんな姿をした妖精なのでしょうか? 彼らの特徴を挙げてみましょう。
【グレムリンの見た目】
・飛行服を着ている
・小さく歪んだ人間
・トンカチ、のこぎり、手回しドリルを持っている
グレムリンのメインターゲットは、飛行機です。
最古のグレムリンの記録は、1929年4月10日、マルタ島・英国空軍の隊内誌で登場したとされています。
その後、第二次大戦中に王室空軍の間で噂が広まり、さらに同盟軍であるアメリカ空軍にもグレムリンの存在が広まりました。実際にグレムリンを見たパイロットはごくわずかしかいませんが、多くのパイロットが彼らの存在を信じていて、また、いずれパイロットの全員がグレムリンのいたずらに必ず遭うともいわれているそうです。
悪戯の内容は、飛行機の計器が動かなくなったり、奇妙な値を指し示したりと、まともに動かなくなるなどです。ただし、そのいたずらはパイロットの生命をおびやかすほどのものではないそうです。
『チョコレート工場の秘密』などで有名なイギリスの作家、ロアルド・ダールの絵本『The Gremlins』(1943)には、 ドリルで翼に穴を開けるグレムリンの姿が描かれています。 この絵本によって、パイロット以外の一般人にもグレムリンの存在が知られるようになりました。
基本的にはパイロットを死に至らしめるほどの悪戯はしないとはいえ、命がけの飛行中、ヒヤヒヤさせられるのは困りますね。
現在ではグレムリンの興味は飛行機だけに留まらず、地上にある機械にも及んでいるといいます。
お役立ちの妖精、小さいおじさん「ピクシー」
最後にご紹介するのは、とっても役に立つ妖精の「ピクシー」です。イギリスの南西、コーンウォール半島などで広く知られています。
見た目はあんまり可愛くないですが、彼らにだけは会ってもいいかなという気になります。
ピクシーは、基本的に人間より小さいとう共通点はあるのですが、地方ごとに姿や大きさが異なります。
イギリス各地のピクシーの特徴を地域ごとに挙げてみましょう。
【サマーセット地方】
・赤毛
・反り返った鼻
・やぶにらみ(斜視)
・大きな口
・垢抜けない中年男
・人間サイズにも変身可
【デヴォン地方】
・色白でほっそり
・服を着ていない
【コーンウォール地方】
・名前が「ピスキー」
・緑のぼろ服
・老人
彼らの出生について、『幻想生物 西洋編』では以下のように紹介しています。
彼らは、洗礼を受けずに死んだ子供の霊だとか、キリスト出現以前に死んだドルイド僧の霊だなどと言われる。いずれも、天国には入れないが、さりとて地獄に行くような悪事を犯しているわけでもないので、地上でピクシーになったのだという。 『幻想生物 西洋編』p.38ピクシーたちは悪戯好きですが、基本的には人間を助けてくれる存在です。
【ある百姓家のお話】
誰も居ないはずの納屋から、麦の穂から身を落とす、麦打ちの音が聞こえます。
ピクシーの仕業だと思った百姓は、音が止んでから、そっと扉を開けてみます。
すると、脱穀の済んだ麦の山と、束ねられた麦わらが分けられていました。百姓は感謝のしるしに、チーズパンを置きました。
その後、毎日チーズパンを置いておくと、翌日には麦が脱穀されていました。やがてすべての麦が処理済みになったので、もうピクシーは来ないだろうと思っていると、なんと翌日には、空っぽになったはずの納屋から再び麦打ちの音がして、麦の山と麦わらの束が出現していました。魔法の小麦を持ってきて、脱穀してくれたのです。
その後もたっぷりのお礼のチーズパンを置いた百姓の納屋には、毎日麦が現れるので、その家は大変お金持ちになりました。
「ピクシー、ぜひ我が家にも!」 そう思った方もいらっしゃるでしょう。ただしお礼の品を間違えると、彼らはヘソを曲げてしまいます。
別の百姓の家でも、麦打ちをしてくれたピクシーがいたのですが、その百姓はこっそりとピクシーの仕事を盗み見てしまいました。
そのピクシーの服がボロボロなことに気づいた百姓は、感謝のしるしに、新しい小さい服を作ってあげました。
するとピクシーは、「こいつはいいや、もう働くことはありゃしない」と言って、二度と現れなかったそうです。
彼らに服をあげると二度と現れないという話は、多くの民話に共通しています。 服に無頓着なのか、それともプライドがあるのか、わかりませんが、お礼はとにかく食べ物でないといけないようです。
彼らの悪戯はというと、「ピクシーの惑わし」といって、道に迷わせたり、同じところをぐるぐる回らせたりするそうです。
ちょっとした迷惑程度かと思いきや、これが乱暴者 の酒乱男を、底なし沼に誘導し沈めてしまった、という話もあるそうですよ。お役立ちの小さいおじさんは、昔気質の正義の味方なのかもしれませんね。
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ライターからひとこと
妖精は、どちらかといえば綺麗で可愛らしい容姿をしたものの方が、少ないのかもしれません。ピクシーに至っては中年だったり老人だったりするうえに、服を着ていない種類もいますから、出くわしたら衝撃です。しかし「ブサ可愛い」ということばもあるくらいです。この3種は見る人によっては、たまらなく可愛く見えるのかもしれません。本書にはご紹介した以外にも、ファンタジー作品に登場するおなじみ生物がたくさん書かれています。元ネタ探しも楽しいので、ぜひご覧ください。