黒魔術というと、遠い存在のように感じている方も少なくないでしょう。日本に生きていて日常的に黒魔術に触れている方は、それほど多くないと思います。しかし、民間レベルで行われていたものを含めれば、日本にも黒魔術は複数存在します。 もともと黒魔術自体は日本にも古くから存在していました。
この背景には、日本が古来より多くの海外文化、思想、宗教を取り入れてきたことが関係します。特に宗教は仏教、神道、陰陽道など様々なものが広まりました。中には単純に広まっただけではなく、日本独自の習慣、風土と結びつきながら枝分かれしたものもあります。こういった背景が日本での黒魔術の多様性にも繋がっていきました。今回は『図解 黒魔術』(草野巧 著)を参考にしながら、日本に存在する黒魔術の中でも、現代まで伝えられている黒魔術について紹介します。
目次
真夜中の丑三時に行われる黒魔術「丑の刻参り」
日本の民間で行われる黒魔術の代表例として、丑の刻参りがあります。これは深夜、現在で言う午前二時から二時半の間の「丑三時」に儀式が行われることから、丑の刻参りと呼ばれるようになりました。丑の刻参りは、真夜中の丑三時(午前2時~2時半ころ)に、密かに神社やお寺に参拝し、呪う相手に見立てた藁人形を、神木や鳥居などに釘で打ちつけ、呪いの成就を祈願する儀式である。『図解 黒魔術』p.122丑の刻参りが特に盛んだったのは江戸時代だと言われ、丑の刻参りを題材にした当時の浄瑠璃や浮世絵が現在にも伝わっています。
江戸中期の浮世絵師である鳥山石燕も、丑の刻参りを題材にした浮世絵を描いています。「丑時参(うしときまいり)」と命名されたこの作品では、儀式を行う人物が白装束を身にまとい、胸に鏡を携え、高下駄を履き、頭に五徳(鉄輪)を逆さに立て、3本の蝋燭を立てているところが窺えます。
丑の刻参りを行う際は、儀式を人に見られてはいけません。誰にも見られずに7日間丑の刻参りを行うことが条件です。白装束を身に纏い、誰にも見られないという条件を満たせば、丑の刻参り最終日にあたる7日目に、呪いの対象者は、儀式で使った人形に釘を刺した場所と同じところが痛み出し、やがて死亡するとされています。
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少彦名命の黒魔術「蔭針の法」
蔭針(かげはり)の法は、神道・古神道由来の呪法です。酒、医薬、まじないの神である少彦名命(すくなびこなのみこと)の秘伝とされるもので、針10本、畳2枚、人形(ひとがた)を道具として使用します。蔭針の法の特徴は道具に細かい規定があることです。針を10本も使用しますが、この針は全て同じ針というわけではありません。陽針1本、陰針1本、その他8本の合計10本です。針の材質は金、銀または鉄。長さは4寸8分、頭部の幅4分。干支の組み合わせである甲子の日の日の出の時刻に、清めた金床で作ることまで定められています。
畳2枚も同じものを用意するわけではありません。1枚は長さ8寸、幅5寸、厚さ1寸8分であるのに対し、もう1枚は長さ8寸、幅5寸、厚さ4分と厚みの異なる畳を使います。これは厚さ1寸8分の畳を下に置き、その上に人形を乗せ、更に厚さ4分の畳を重ねるという使い方をするためです。
この蔭針の法ですが、必ずしも黒魔術として使用されるとは限りません。
蔭針の法は神道・古神道の世界で少彦名命の秘伝とされる呪法で、人形を使った黒魔術として怨敵調伏に利用できるが、そのほかにも、病気治癒、厄除け、縁結び、縁切りなどにも効験があるとされるものである。『図解 黒魔術』p.124怨敵調伏、つまり恨みを持つ相手に対して使用する場合は、人形に「禁厭の一念を通す神の御針。怨敵調伏」と3度唱え、気迫を高め、人形の頭を貫くように畳の上から針を突き立てます。
犬の魂魄を使った黒魔術「犬神の呪法」
犬神の呪法とは、犬の霊を使った呪法です。呪法の中には他人を不幸にするものが多くありますが、犬神の呪法は他人に損害を与えるだけではなく、主人の家に金運をもたらすという効果もあります。これは犬神が対象に呪いをかけるものではなく、家に憑依する霊であるためです。犬神は家に憑依する霊であり、その家の者は代々にわたり犬神が満足するように神として祀らなければならない。そうする限り、犬神はその家に富をもたらすが、粗末に扱うことがあれば、その家の者に災厄をもたらすことになるのである。『図解 黒魔術』p.126先祖の誰かが犬神を操っていた場合、犬神が家に住み着いているということになります。
そのため同じ家に住む子孫、家族全ては犬神を操れるようになります。子孫、家族誰もが犬神によって金運の恩恵を受け、憎い相手を殺してもらうこともできるのです。
その代わりに、子々孫々と犬神を祀る義務が生じることも犬神の呪法の特徴と言えるでしょう。 犬神の呪法は、四国のいざなぎ流などに伝わっているものです。いざなぎ流とは、現在では民間宗教のひとつですが、古代の陰陽道の流れを汲んでいるとされています。
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