「好きな人に振り向いて欲しい」「お金持ちになりたい」など人間にはさまざまな欲望がありますよね。それは昔の人も現代の人も変わりません。中世のヨーロッパでは、欲望を叶えるために魔導書を利用して魔術の儀式を行う者もいました。
それでは、どのような人々が魔導書を利用していたのでしょうか。今回は『図解 魔導書』(草野巧 著)を参考にしながら、中世ヨーロッパで魔導書を利用していた人々についてお話します。
目次
だれが魔導書を利用する? ~ 利用者の広がり~
魔導書が多くつくられたヘレニズム時代のアレキサンドリアでは、学術研究所も図書館も発達していため、一般の人でも手軽に魔導書を読むことができました。しかし3世紀以降、中世ヨーロッパにおける魔導書の利用は、聖職者に独占されてしまいます。この時代に文字の読み書きができたのは、社会的地位のある修道士などの聖職者くらいだったことが理由です。そのため中世ヨーロッパにおいては、魔導書を置いている図書館のようなものも修道院くらいしかありませんでした。
12世紀ごろから、ヨーロッパでは多くの大学が作られ、読み書きができる人も増えていきました。教師や学生も修道士の仲間に加わり、中には魔導書を写本して作成する者もいたといいます。
16世紀に入ると、質の高い教育を受けた人々が、教師や医師、法律家、軍人などの専門的な職業に就くようになります 。そして、こういった職業に就いた人々の中でも魔導書を使う人が増えていきました。さらに時代が下り近代に入ると、印刷技術の発達により魔導書が印刷されるようになり 、魔術を使う人の裾野は字の読み書きのできる熟練工や商人にまで広がっていきました。
魔術師には魔導書が必要なの? ~さまざまな魔術師~
文字の読めない魔術師が多かった中世ヨーロッパの村には、口伝えで伝えられた伝統魔術を行う民間の魔術師がいました。またフィチーノ、アグリッパ、ピコ・デラ・ミンドラなどが活躍したルネサンス時代は、魔術の知的探求が盛んでしたが、それは自然界にやどる魔術や星の影響を探求するための魔術でした。したがって、中世のヨーロッパの村やルネサンス時代のこういった魔術師に、魔導書は必要ありませんでした。では、魔導書はどのような魔術師に利用されていたのでしょうか。
魔導書はコンジュレーションとよばれる魔術の実践者に不可欠でした。
コンジュレーションは儀式魔術とも呼ばれ、儀式を行い、古い時代から信じられていた超自然的な精霊を呼び出すことで、その力を自分の欲望の実現に利用する魔術のことです。 儀式魔術そのものは古くからあるものでしたが、ルネサンス期の魔術思想の影響を受けて、それ以降は盛んになります。そして『ソロモン王の鍵』、『ホノリウス教皇の魔導書』、『オカルト哲学 第4の書』など様々な魔導書が作られました。
こうして登場した魔導書が人々の間に広がるにつれて、多くの自称魔術師が誕生していくことになります。
手書き写本で魔力を得る ! 魔導書の秘密
たとえ字の読み書きができなくても ~ 魔導書の利用法~
魔導書には断食や祈りの儀式の方法が書かれていたほかに、儀式に必要な魔法円、呪文、聖水、ロウソク、剣、魔法杖、メダルなどの使い方についても書かれていました。魔導書は読めなくては意味がないと思われるかもしれませんが、そうとも限りませんでした。
字の読めない魔術師にとっては、怪しい雰囲気を出す小道具として魔導書が役に立っていました。いかにも怪しげな魔導書が置いてあるだけで、 魔術を依頼に来た人たちを圧倒させたのかもしれません。
また魔導書を読めない女性の間では、記号をそのまま書き写すことでお守りのように身に着けて利用されました。
書かれている内容だけでなく、魔導書そのものが魔術師にとっては大切なアイテムだったのかもしれませんね。
本書で紹介している明日使える知識
- 魔導書とは何か?
- ソロモン王の名を持つ古代の魔導書
- ソロモン王
- 聖キプリアヌス
- ファウスト博士
- etc...
ライターからひとこと
映画やゲームにも度々登場し、世界でも大人気の魔術師。魔術師といえば、魔導書を片手に不思議な呪文を唱えるというイメージがありますよね。しかし、魔導書はコンジュレーションとよばれる魔術を行う者に不可欠なものでしたが、口伝えで伝わる伝統魔術や自然魔術、天体魔術を行う者に必要のないものでした。魔導書が一般の人々に読まれるようになるのは、高度な教育を受け、魔導書を作成できる者が増えてからのこと。それまでは、ごく一部の人間が魔導書を利用しているにすぎませんでした。本書は、映画やゲームが好きな人だけでなく、ファンタジー小説を書く方やヨーロッパの歴史が好きな人にも楽しめる内容になっています。