人類の歴史と切っても切れない関係にある石。漬物石や子供の玩具など、自然のままの形で使うこともあれば、建築物の土台や墓石など、加工して使用することもあります。石は現代でもさまざまな形で、人々の生活と密着している存在です。ではそんな石が何故、呪物崇拝の対象となったり、神の依り代と見られたりするようになったのでしょう。
『神秘の道具 日本編』(戸部民夫 著)では、絵馬や帯など古来より日本に存在する道具の神秘について紹介しています。今回はその中でも、石と依り代の関係についてお話します。
目次
石と依り代①-永遠の生命の象徴
石は呪物崇拝の対象として、古代から特別視されていました。石に対する信仰は複数存在し、そのひとつが「不死や永遠の生命の象徴」となっているという思想です。 石を不死とする考えは古事記や日本書紀などにも見られ、今でも伝えられています。
そのひとつが磐長姫命(いわながひめのみこと)の話です。
磐長姫命は、長く久しく変わることのない石の精霊の化身であり、永遠の生命を象徴する神さまである。 『神秘の道具 日本編』p.20磐長姫命は妹である木花咲耶姫命(このはなさくやひめのみこと)とともに、山の神の総帥である大山祗(おおやまずみ)神から、皇室の祖先にあたる邇邇芸尊(ににぎのみこと)へと贈られたとされています。しかし邇邇芸尊は美しい妹だけを娶り、姉を送り返しました。このため天皇家の命は、永遠ではなく花のように短いものになったという話です。
石の精霊である磐長姫命がこのような力を備えている話からも、石そのものに神霊の力を認める信仰があったことがうかがえますね。
石と依り代②-子授け、安産、縁結びの対象
石を不死と見なすのとは対照的に、石は生きているという考えもあります。石の中には霊魂があり、人間同様時間とともに成長し、子を産むというものです。これを生石(おいし)伝説と言います。生石伝説は日本各地に伝えられています。河原などで拾った小石を祀っていると、石が成長して大きくなるというものです。他にも神社や霊験あらたかな山などで拾ったという例もあります。
生石伝説の石は生命力の象徴と捕らえられています。主な呪力としては、子育て、安産、縁結びといった豊穣や子孫繁栄です。また石の形も特徴的です。
陰陽石(男根や女陰に似た自然石、またはそれをかたどって彫像した石)などはその代表的なもので、生命を生み出す根源的パワーを象徴する。 『神秘の道具 日本編』p.23同じ生命力に関わる考え方として、生石伝説は性神信仰とも結びつけられることもありました。
石と依り代③-人の世界と異界を繋ぐアイテム
石に対する特徴的な信仰として、石神信仰があります。道端に祀られている石仏や道祖神などが、この石神信仰になります。石神というのは、石自体に神霊がこもるとか、神の依り代であると考えて祀られている石の総称的な呼び名である。 『神秘の道具 日本編』p.21石神信仰では、石を人の世界と神のいる異界をつなぐアイテムとして考えています。つまり神を人の世界へと呼び込む布石、依り代となっているわけです。
呪力としては、防災、生産、治病など幅が広く、祀る石によっても力の強さが変わるとされているようです。特に奇妙な姿の岩石や石棒、円形、穴開きなど特徴的な形状をしているもの、石自体に赤や青など色がついているものなどが強い力を持つと言われています。
石と依り代④-異界から旅してきた神の休憩場所
石を異界から旅してきた神の休憩場所だと見なす考え方もあります。この機能を磐座(いわくら)と言います。磐座は依り代の一種で、神が宿る場とも考えられています。 磐座にも幾つか種類があります。神が石の上に出現し願いごとを聞く影向(ようごう)石、神が降りてくる降臨石、休憩するための腰掛け石、御座石、休石なども磐座となります。また神霊が降臨する聖域を示す、磐境(いわさか)の機能を持つ石もあります。こちらは異界から侵入しようとする邪神や悪霊の類を防ぐ、結界石としての役割を持っています。道祖神や地蔵信仰などは、この磐境としての機能を利用したものです。
本書で紹介している明日使える知識
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