ケルトの戦士といえば、ケルト神話に登場するフィアナ騎士団やその団長のフィン・マックールなどが有名ですが、実際のケルト人戦士はどのような人たちだったのでしょうか。
『図解 ケルト神話』(池上良太 著)は、ケルト神話の世界に興味をお持ちの方への入門編として、フィアナ騎士団をはじめとする神話の登場人物やエピソードから、実際のケルト戦士の戦闘風景までを、幅広く丁寧に紹介しています。
今回はその中から、ケルト人の戦闘について取り上げてまいります。ケルト戦士たちはほんとうに神話の登場人物たちのように勇敢だったのでしょうか。また、大陸ケルトのガリア軍と、当時ヨーロッパで勢力を広げていたローマ軍とではどちらが強かったのでしょう。
目次
ケルト人の戦闘①武器は長剣と長槍が主役
ケルト人にとって武器、防具は成人の証であり身分の象徴であった。彼らが愛用した主な武器としては剣、槍、投石器、弓矢などが挙げられる。『図解 ケルト神話』p.232ケルト人の使用した主な武器は剣と槍でした。
初期の剣は折れ曲がりやすく、敵を突き刺すには向いていなかったのですが、次第に技術が洗練され、鋭い切っ先を持つようになりました。主流は長剣で、ケルト人たちは戦いの時以外でも腰にベルトをつけ剣を吊り下げていました。また、呪術的な意味で鞘がとても重要視されていました。彼らの残した遺跡からは凝った装飾の鞘が発掘されています。
槍は長槍と短槍の両方が用いられていました。戦いの際はまず遠くから短槍を投げ、その後の白兵戦で長槍を使用したといいます。槍の穂先は敵を切り裂くために長く幅広に加工されていました。剣も槍も鉄製のものが主流でしたが、中には狩猟用の木槍などもありました。クー・ホリンの魔槍ゲイ・ボルグや赤枝騎士団の所有するルーインなど、ケルト神話にも槍は多く登場します。
この他、投石器もまた戦闘に使用されていました。飛び道具としては他に弓もありましたが、こちらはあまり好んでは使われなかったようです。
ケルト人の戦闘②鎖帷子を考案したのはケルト人
兜は主に身分の高い人々に用いられた。宗教的な儀式に用いられることもあり、兜には様々な装飾が施されている。頭頂部に象徴的な動物の彫像がついたものも多い。『図解 ケルト神話』p.232ケルト人の中でも身分の高い人々は、装飾の施された兜と鎖帷子、肩当てなどを身に着け戦闘に赴きました。鎖帷子は小さな鉄の輪を連ねて服の形に仕立てた鎧の一種で、ケルト文化圏で誕生した防具です。ケルトからローマ、その後ヨーロッパ中へと広まり、中世の時代まで長く使用されることとなりました。チェインメイルという名前でご存じの方も多いかもしれません。
このように、ケルト人は小さな防具の部品も製造できるような高い技術力を持っていましたが、一般には防具を身につけず戦うことが勇敢だと考えられ、好まれていました。ケルト人戦士たちは刺青を入れた上半身をわざと敵に見せつけ、威嚇していたのです。
ケルト人たちに広く用いられていた防具は盾である。『図解 ケルト神話』p.232剣や槍などの武器は鉄製のものが中心でしたが、盾の多くは木製でした。縦長の形をしており、背面中央に縦に張られた木の棒を持って、敵の攻撃から身体をガードしていました。
ローマでは身体全体が隠れるほどの大きくて重い盾が使われていましたが、ケルトの盾はそれほど大きくも重くもなく、手で持って使用できるサイズでした。
ケルト人の戦闘③ガリア軍VSローマ軍
ケルト人の戦闘において特に重要なのが戦車だった。彼らは早い段階から小型の馬に引かせた2頭立ての戦車を用いており、その威力は周辺諸国を恐れさせたという。 『図解 ケルト神話』p.232ケルト人の戦闘では戦車が活躍していました。御者と戦士がペアを組み、短槍を敵に投げつけたり投石器で石を投げたりしながら戦場を駆けまわりました。飛び道具がなくなると戦士たちは戦車を降り、長槍や長剣での白兵戦がはじまります。彼らの得物はリーチが長かったこともあり、戦いは個人戦が中心でした。
このような戦闘スタイルはローマ軍を大いに驚かせました。集団戦を得意とするローマ軍とはまるで違う戦い方だったからです。
大陸ケルトのガリア軍とローマ軍の戦いは、この戦術のおかげではじめはガリア軍が優勢でしたが、戦いを重ねるごとにローマ軍が勝利するようになりました。ガリア軍は常備軍ではなく、戦士階級から招集された者たちによる即席の部隊だったため、統率力が低かったのです。またローマ軍の武器や防具も改良され、ケルト人の個人戦に対処しやすくなったことも勝因となりました。
こうしてガリア軍とローマ軍の戦いはローマ軍の勝利に終わり、ガリアが平定されると、大陸ケルト人はローマ人やゲルマン人としだいに同化することとなったのです。
大陸ケルト人は姿を消してしまいましたが、槍や鎖帷子といった武器防具、勇敢な戦い方はローマ人を通じて今日まで広く知られることとなりました。彼らは神話の英雄たちと同じように勇壮で、立派に戦っていたのです。
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ライターからひとこと
スカアハやメイヴ、ディルムッドなど、ケルト神話にはたくさんの魅力的で勇敢なキャラクターが登場し、現在では創作物のモチーフとしても非常に人気があります。本書では彼らの生涯や家族、魔法の武器なども網羅的に解説しています。さらにケルト人とは何かといった根本的な内容も丁寧に説明されていますので、読むだけでも面白く、ためになると感じました。もちろん、創作物を考察する際の辞典的な使い方もできそうです。