作者:井戸正善
パンタポルタ連載小説『よろず道場のお師匠さん』(著:井戸正善)に登場するエルフの少女ルリによる、聞きかじり防具コラムが連載スタート!
師匠から聞きかじった武器の知識を丁寧にわかりやすく教えてくれます。
隔週木曜日更新、全10回予定!
>鎧の話〈前編〉はこちら
全身鎧が“重くても使われた”理由と軽装備の利点
――もちろん、鎧に使うための素材の問題もあります。
貴重な金属を大量に使うことが難しかった点と、金属の加工技術が未熟だったという点です。
薄く頑丈に加工できるようになり、鋲などで金属パーツ同士を組み合わせる技術が発達したことで、全身鎧が作れるようになりました。
――もちろん、装甲の厚さやパーツの数や種類によって重量は変化しますが、一般的に全身鎧としてイメージされるプレート・アーマーは重く、25キロ以上あります。
一塊になっている物を背負ったり抱えたりするわけではなく、身体全体に負担がかかる形になるので、想像するよりはまともに動けますが。
しかし、全身に重りを付けていることには変わりないので、走ったりするにはかなりの筋力が必要です。
――実際に動いている時間が短いと言っても、やはり全身鎧で戦うのは体力の消耗が激しいものです。
もし互いが徒歩の状態であれば、機動力で有利な軽装備の兵の方が立ち回り次第で有利になってしまいます。
――逆に、馬上の人間は狙われやすいので、鎧でしっかりと防御を固めておく必要があるとも言えます。
集団の中で徒歩の兵たちとは頭一つどころか上半身が見えるほど高さが違う騎馬兵は、明らかに指揮官だとわかり、弓や弩などによる狙撃の対象となってしまうのです。
そして、接近戦でも不利な点があります。
――騎士はそれでも“目立つ”必要がありました。
戦場でどのように活躍したのかを記録してもらうことで、家名を広く知らしめること、力を誇示することが重要だったからです。
ですから、戦場でこそこそとしているわけにもいきません。どの家の誰なのかがすぐわかるようにしている必要がありました。
――現在の価値で言うと概ね300万円程度の金額となったらしいフルプレートの鎧ですが、それでも安い方で、現在の価値で一千万を超える特別な鎧もありました。
体格の変化によって手直しが必要で、鋲止めされたパーツごとに細かな手入れも欠かせません。錆びてしまっては、動けなくなりますから。
自分一人で着ることもできないので、手入れも含めて使用人を雇うだけの財力も求められるのです。購入だけでなく、ランニングコストも高いのがプレート・アーマーなのです。
――最大の欠点は重量ですが、他にプレート・アーマー特有の“視界の悪さ”があります。
プレート・アーマーで使われる兜は、多くの時代でバシネットと呼ばれる、庇を下ろして顔を守る構造のものが一般的でした。
顔全体を守れて頑丈な兜ですが、視界がかなり制限され、足元が見えないという弊害がありました。
また、耳も防がれてしまい音が聞こえにくくなるデメリットもあります。
前にも話したと思うけれど、兵士達は号令を聞いて突撃したり撤退したり、場合によっては浅い川を徒歩で横断したりするのよ?
重たい鎧を着て、前も良く見えないまま、イマイチ聞き取れない命令に耳を傾ける余裕なんてあるわけないでしょ。
重たい鎧を着て、前も良く見えないまま、イマイチ聞き取れない命令に耳を傾ける余裕なんてあるわけないでしょ。
――一般の歩兵たちは、戦場でとにかく走らされます。
集団で行動しなければならず、はぐれたらそこで敵にやられてしまう確率が跳ね上がるので、仲間にくっついて命令通りに動くことが求められるのです。
味方との連携は特に重要で、左右が全く見えなくなるような兜は、むしろ戦いの邪魔にすらなります。
つばがある帽子とかを被って稽古してみるとわかるわ。視界が制限されるってものすごくやり辛いの。
攻撃がきても鎧で受け止める前提ならまだわかるけれど、乱戦の中に放り込まれるなら、視界と聴覚は確保しておくにこしたことないってわかるわよ。
攻撃がきても鎧で受け止める前提ならまだわかるけれど、乱戦の中に放り込まれるなら、視界と聴覚は確保しておくにこしたことないってわかるわよ。
――兵士達は目立つ必要はありませんから、仲間たちと柔軟に連携してお互いをフォローし合うことで生存確率を上げていきます。
盾の項で説明した通り、鎧に頼らず盾を使った防御陣形を作ることも多かったことから、味方同士が密着することも想定されますが、金属鎧はこういう部分でも不向きでした。
兜の話
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「ルリちゃんの聞きかじり武器講座」 |
◇キャラクター紹介
【ルリ】
道場主である斎舟の一番弟子を自負するエルフの少女。
斎舟が居ない間は道場の留守を任されている。
生活のほとんどを稽古と研究に費やしているという努力家な一面も。
道場主である斎舟の一番弟子を自負するエルフの少女。
斎舟が居ない間は道場の留守を任されている。
生活のほとんどを稽古と研究に費やしているという努力家な一面も。
【熊公】
本名はイービルベアードといい、熊獣人に魔族の血が混じった大男。
“モノ溜まり”と呼ばれる場所に流れ着く、異世界からの漂流物を回収
して売買することを生業としている。
本名はイービルベアードといい、熊獣人に魔族の血が混じった大男。
“モノ溜まり”と呼ばれる場所に流れ着く、異世界からの漂流物を回収
して売買することを生業としている。
◇参考書籍
『図解 防具の歴史』
著者:高平鳴海
イラスト:福地貴子
>書籍はこちら
*作者紹介*
井戸正善(いどまさよし)。HJノベルスより『呼び出された殺戮者』が1~9巻まで発売中! コミックウォーカー及びニコニコ静画にて、コミカライズ版も掲載。また、Kラノベブックスより『王族に転生したから暴力を使ってでも専制政治を守り抜く! 』が発売中。佐賀市のエアガン飲み屋『NEST』の店主さんでもある。
井戸正善(いどまさよし)。HJノベルスより『呼び出された殺戮者』が1~9巻まで発売中! コミックウォーカー及びニコニコ静画にて、コミカライズ版も掲載。また、Kラノベブックスより『王族に転生したから暴力を使ってでも専制政治を守り抜く! 』が発売中。佐賀市のエアガン飲み屋『NEST』の店主さんでもある。