気配りのある作品造り
前回は第5版の公式アドベンチャーが、新しいフォローの仕方と体験をもたらしてくれるという話をした。今回はアドベンチャーの作りについて、新しい点をいくつか紹介しよう。
D&Dのアドベンチャー・シナリオは、「アドバンスド・ダンジョンズ&ドラゴンズ」の持つ「剣と魔法のファンタジー世界を再現し体験する」という趣旨から、早くから生態系や敵たちの事情などが考慮されたものが登場していた。
日本語版においても第3版用からコンバートされ『大口亭奇譚』のトップを飾る「地底の城砦」では、レベル1~2のPCたちのパーティーが対面する、小型ヒューマノイドふたつの種族は、それぞれ事情や理由でそこにいて、いがみ合い、戦闘状態にある。彼らのうちにはPCたちの相手をする戦士もいれば、おびえて逃げようとするだけの非戦闘員も、そこに暮らしている。戦闘用のデータは置き換わっているが、説明やフレーバーの地の文は、コンバート前の『地底の城砦』(原題:“The Sunless Citadel”WotC 2000、ホビージャパン 2003)そのままであるから、すでに敵の事情を考慮した造りだったわけだ。
そのような「敵の事情」(「敵の背景」としたいが、PCの要素としてルール用語の「背景」があるから事情とする)は、アドベンチャーの説得力の補強であり、PCに伝える機会がなくてもDMの楽しみでもあるし、プレイ後にプレイヤーに開陳するなどしていけば、セッションを遊んだ全員にとって、世界観の広がりを感じることのできる重要なフレーバーでもある。
そのような系譜は第5版用アドベンチャーでさらに追い求められたようで、『魂を喰らう墓』ではD&Dに影響を受けた人気アニメ『アドベンチャー・タイム』(Adventure Time CARTOON NETWORK 2010-2018)の原作・総監督ペンドルトン・ウォード、『ウォーターディープ:ドラゴン金貨を追え』には俳優でTVドラマ脚本家でもあるチャーリー・サンダースが、アドベンチャー作成に参画したことが前書きに述べられている。
小説や映像といった、固定された「観る作品」と、体験的でインタラクティブなTRPGとでは楽しいポイントが異なる。だが物語を制作、構築するにあたり、映像製作に関わっているスペシャリストの力を借り、物語を支える整合性を高めることは、内容を読んで用意するDMも楽しめるし、セッションの中でPCも知ることになればさらにプレイヤーをも楽しませる仕掛けとなる。
単純に例を上げると、『魂を喰らう墓』に登場するモンスターの一団においてボスと彼の副官、ボスのハーレムの女が三角関係にあり、副官と女の関係がボスに明らかになれば、ボスは2人の皮を剥いで殺すだろう、と書いてある。DMとして読むと面白いのだが、セッションの中でPC/プレイヤーに伝えるのは至難の業(戦闘で倒してしまう相手で終わってしまう可能性が高い)だろうと苦笑してしまう。
『ウォーターディープ:狂える魔道士の迷宮』では、共に魔術を学んでいる者たちが、まだ半人前だというのに競争心が行き過ぎてお互いを貶め、奸計に突き落とそうとしている。これも、DMが伝える機会を得られなければ、アフター・トークの中で「実は~だったんだよ」と舞台ウラ解説をするはめになるだろう。
このようなウラ設定は、DMがNPCをロールプレイするのに材料を提供し、様々な「ダンジョン(や、とある場所)にクリーチャーがいる理由」の整合性を作りだし、アドベンチャーの奥行きを深め、プレイも印象深くしてくれる。
このようにルールと並行して、アドベンチャーの創り方も進歩しているのである。
※記事中の日付は記事公開時のものです。
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