ウォーターディープ二部作がもたらす新しい「場面」
『ウォーターディープ:ドラゴン金貨を追え』から『ウォーターディープ:狂える魔道士の迷宮』をプレイしていくことで、いままでのアドベンチャーでは見られなかった場面が体験できるキャンペーン・プレイになる、という話をしよう。
D&Dのアドベンチャーにおいて、つよくなったPCたちのパーティーが活躍する舞台は、敵の本拠地に接近すればするほど人里離れた地か、あるいは次元界など、PCや敵たちが力の限り暴れまわってもかまわない場所であることが多い。これはゲームデータとして強大なクリーチャーが一般人の暮らす市街地などにいた場合、影響と起きるであろう事象が多すぎて製品としてのアドベンチャーに収まらないことが理由のひとつだ。また、レベルが上がった各PCに繋がる人間関係は多岐になるはずで、インタラクティブなTRPGのデータとして網羅することは到底できない。
たとえば、D&D第5版でレベル11~16は「国の大英雄」である(DMG "ゲームの段階")。彼らが突然、市内に現れたり暮らし始めたりしたら、公開だろうが覆面だろうがウォーターディープの執政官たちは「彼らの目的はなんだ?」と勘繰り、支配力を駆使してPCたちを味方につけるか排除しようとするだろう。一方で、市井の人々は立ち代わり入れ替わりに、国の大英雄に頼ろう、すがろうとするだろうし、利用してやろうとか、単なる売り込みも激しいだろう。誰が関わってきて、何が起き、どうなるのかという可能性の幅が広すぎ、多くのDMとプレイヤーに、ある範囲内で共通する物語体験を提供しようとする市販のアドベンチャーの趣旨から離れてしまう(そのような、個々のPCたちを物語の本質的な主人公とするアドベンチャーを創るツールとしてDMGがある)。
それと、悪事は人気のないところで用意されるということが組み合わされ、高レベル・パーティーの探索行は人里離れていき、世界の果てにあるダンジョンで決戦に挑む、というアドベンチャーが多いのである。
今回のウォーターディープの2部作では、最終的にレベル20のPCパーティーがアンダーマウンテンから帰ってくることになる。「そのプレイ・グループのウォーターディープ」は、PCたちが度々アンダーマウンテンから戻ることにより「彼らを受け入れている都市」となる。舞台もPCたちに合わせ変化していくのだ。『ウォーターディープ:狂える魔道士の迷宮』のアンダーマウンテンもそうだ。
DMは、アドベンチャーに用意されている「地上へ戻るフック」を活かすほかにも、軽い話題としてPCたちについての評判や噂と言ったものを創りセッションで紹介すれば、世界の身近さはいや増すだろう。このようなギミックを持つアドベンチャーは、そうはない。
さらに英語では、Dungeon Masters Guildには、サイドストーリーとして接続することのできる、15本の短編的な"ウォーターディープ・アドベンチャー"が用意されている。
このような多層的なアドベンチャーのサポートは、第5版にてDungeon Masters Guildが設けられて広がった新しいスタイルだ。ハードカバーの設定&アドベンチャー1冊は、ただ一本の冒険にとどまらない。レベル1~20まで通して遊ぶのもよし、複数のPCを作って平行するアドベンチャーを網羅的に遊んでも良いし、DMを持ち回りでやっていく良い機会でもあるだろう。
第5版は、第4版よりも遊ぶ側に様々任せる構造だが、そのための材料はいままでのバージョンのD&Dのどれよりも増して豊富に用意されている。
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