中世ヨーロッパといえば騎士の時代。騎士たちはどのような暮らしをし、何を見て何を考え、どんな人生を送っていたのでしょう?
このシリーズでは、1165年にフランスに誕生した架空の騎士ジェラールを案内人に、中世ヨーロッパと騎士の姿をわかりやすくご紹介していきます。
第11回目のテーマは、「城」です!
目次
城の中心的建物「ドンジョン」
ジェラールの父は修道院のそばに小さな館を建て、隠棲することになりました。父の城や領地は長兄が相続し、築城工事が続けられています。
今回は私の住む城を例に、中世の城の様子をご紹介しましょう
石造りの城が最初に造られたのは10世紀頃だといわれています。城は元々、木造でしたが、第1回十字軍(1096~1099年)で地中海東岸地域に赴き、石の防壁に固く守られた城を再発見した西欧諸侯や騎士たちによって、大規模な石造りの城が盛んに造られるようになります。
城の中心的建物が「ドンジョン」です。ドンジョンは城主一家の生活場所であり、戦争の際の最終避難場所でもありました。
ジェラールの暮らすドンジョンは、12~13世紀の頃によくある造りになっています。内部の様子を簡単にご紹介しましょう。
*地下
地下には井戸や食糧倉庫、葡萄酒蔵、地下牢などが設けられています。中でも井戸は城の大切な水源で、城の者たちは修復管理や水質管理に力を入れていました。井戸は地下の他、中庭に掘られている場合もあります。
*1階~2階
1階には台所や食料貯蔵庫、作業場、2階には客間と騎士やその従卒たちの寝室があります。
寝室は大部屋で、身分の高い者以外は雑魚寝です。プライバシーや防音などは考慮されていませんでした。
*3階
3階には大広間があり、宴会が行えるようになっています。壁には暖炉も設けられていました。
*4階
4階は城主一家の生活場所ですが、個室などはなく、梁にかけられた織物で仕切られています。12世紀頃になると王侯たちは夫婦それぞれの個室を持ちはじめますが、中小領主の城にはまだ個室を設けるゆとりはありませんでした。
城主夫婦はワラをつめた袋のマットの上に、寒い冬以外は全裸で寝ています。当時、修道士や勤番についている騎士・兵士以外は、身分に関係なく裸で寝ることが一般的でした。布団は羽毛布団や毛皮を裏打ちした上掛けを使用します。
窓が少ないので、ドンジョンの中はとにかく暗かったです。夜は暖炉の炎やロウソク、獣脂、松明の灯りが頼りでした。
家具はあまり多くなく、長く四角い箱(日本の「長持ち」のようなもの)が収納器具兼ベンチとして使われています。……タンス? 棚? 私のいた城にはありませんでした
家具はあまり多くなく、長く四角い箱(日本の「長持ち」のようなもの)が収納器具兼ベンチとして使われています。……タンス? 棚? 私のいた城にはありませんでした
ドンジョン以外の建物
ドンジョン以外に、城の中にあった建物をご紹介しましょう。
*礼拝堂・厩
中庭には礼拝堂や厩(うまや)があります。
礼拝堂は城主一家や騎士たちが祈りを捧げる場所で、城主の身内や関係者が司祭を務めていました。
厩は木と漆喰の壁、ワラ葺きの屋根でできています。
*鍛冶屋の仕事場
城主はお抱えの武器職人を連れています。彼らはこの仕事場で騎士たちのための武器を造る他、遠征にも帯同していました。
大領主の住む大きな城の場合は、他にもたくさんの建物がありました。ひとつの街のようになっていたところもあるんですよ
城を守る施設たち
ドンジョンや他の建物を守っているのは、周囲に設けられた城壁や城門です。
*城壁
城壁の中央部分には瓦礫や小石が詰められ、その周りをきれいに削られた巨石や煉瓦で覆われています。
城壁には兵士たちのための通路や「石落とし」、「はね出し狭間」などが設けられ、有事の際には敵を迎撃できるようになっていました。
*塔
城壁はところどころで塔につながっています。塔は城壁を支えるもので、防御の拠点としても使われていました。
ジェラールの時代(12世紀)には四角い角塔が中心でしたが、12世紀末~13世紀になると、より衝撃に強い円塔が建てられるようになります。
*門
門は外敵の侵入を許しやすい場所のため、櫓や塔、胸壁などで厳重に守られています。門の前には水堀や壕があり、跳ね橋が架けられていました。
ひとつの城の守備範囲は半径8~10kmぐらいです。領地がそれよりも広い場合は、木造か石造の小さな砦をあちこちに設けて守備を固めていました。ひとつの砦に詰める騎士は3人程度で、従者も含めると10名前後ですね
14世紀に大砲が発明されると、15世紀には盛んに城攻めに使われるようになり、いくら城の城壁を厚くしても対応できなくなっていきます。また15世紀頃からは国王の権力が強まり、戦争の数も減っていきました。
こうして要塞のような城は姿を消し、代わりに権力の象徴となるような美しい城が造られるようになりました。
ひとくちに中世ヨーロッパの城といっても、時代や地域によってその造りは様々です。どんな城でも共通するのは莫大な建築費用がかかること――うう、頭が痛いですね
次回は長兄夫婦が暮らす城を出て、いよいよ騎士の道を歩みはじめるジェラールの様子をお届けします。お楽しみに!
◎参考書籍
『中世騎士物語』
著者:須田 武郎
〉Kindle で読む
◎中世騎士物語シリーズ
騎士が生まれた日 ~中世ヨーロッパの開墾~
騎士が生まれた日 ~中世ヨーロッパの階級社会~