ランスロットと並び円卓を代表する騎士ガウェイン卿には、ガヘリス、アグラヴェイン、ガレスという3人の弟がいます。
アーサー王の物語の中で、ガウェインは父の仇ペリノアを、ガヘリスは実の母を斃し、アグラヴェインはランスロットと王妃グィネヴィアの不倫を暴き王国を崩壊に導くなど、兄弟は争いと血に塗れた人生を送りました。
そんな中、兄弟でただひとり純朴で誠実な円卓の騎士として生きたのが末弟のガレスです。
今回は『アーサー王』(佐藤 俊之著)を参考に、ガレスのたどった運命をご紹介しましょう。
目次
ガレス、キャメロットの厨房で修業する
4人兄弟の末弟として生まれたガレスは、母親に溺愛されて育ち、兄たちが騎士となるためにキャメロットの城に出掛けてからも、まだ幼いという理由で田舎から出ることを許されませんでした。
しかしランスロットに憧れていたガレスは、ある日とうとう母親の目を盗んでキャメロットへと旅に出ます。
兄たちに知られ故郷に連れ戻されてしまうことを恐れた彼は、キャメロットに着いてからも決して自分の名を名乗ろうとはしませんでした。幸い、兄のガウェインも長い間会っていなかったため、ガレスの顔を見ても自分の弟だとは気付きません。
ガレスはアーサー王に、3つの願いを聞き入れてほしいと頼みました。そのひとつめの願いは「1年間キャメロットで養ってほしい」という内容で、残る2つの願いは1年後に言うといいます。
アーサー王はこれを認めると、厨房長のケイ卿にガレスを託すことにしました。
ケイ卿はガレスにボーマン(白い手)という呼び名を付けると、彼を台所に住まわせ粗末な食事を与えました。名前を名乗ろうともしない少年など、もてなす必要などないと考えたのです。
ガレスはこの仕打ちに怒ることなく、1年間黙々と厨房の手伝いなどをして過ごしました。
◎関連記事
超入門! アーサー王と円卓の騎士団の物語
騎士道と恋心の板ばさみ! “アーサー王伝説” ランスロットの生涯
憧れの試練と円卓の騎士
1年後、聖霊降臨祭(復活祭の後の第7日曜日)の日に、どこからともなくひとりの乙女が現れました。彼女はリネットと名乗ると、姉がある城の領主を務めていること、とある戦士に戦いを挑まれており、助けてくれる騎士を探していることを話します。
これを聞いたガレスは、ぜひ自分に任せてほしいと申し出ました。そしてアーサー王に、まだ告げていなかった残るふたつの望みとして、憧れのランスロットから騎士に叙任されること、自分にリネットの助けをさせてほしいことを伝えます。
アーサー王はこれを了承しましたが、リネットは「ただの台所の従卒にすぎぬガレスを差し出すなんて!」と激怒し、宮廷を去ってしまいました。
ケイ卿とランスロット卿はガレスと一騎打ちを行い、彼の素質を認めて騎士に任じます。
こうして晴れて騎士となったガレスは、リネットを追って旅に出ました。
ガレスがリネットに追いついた後も、彼女は道中しきりにガレスのことを蔑み続けます。ガレスは屈辱を感じましたが、これも一人前になるための試練だと己を鼓舞し、ひたすらに耐え続けました。
そうしてついにふたりはリネットの姉リオネスの城を包囲していた騎士アイアンサイド卿のもとにたどり着きました。ガレスはこの騎士に一騎打ちを挑みます。
戦いはとても激しく、なかなか決着がつきません。それでもガレスより経験に勝るアイアンサイドは、最後にガレスの兜を飛ばすと、彼の首に剣を突き付け、降伏を勧告しました。
その時です。リネットは「城の窓を見よ!」とガレスに叫びました。ガレスが窓を見ると、リネットの姉リオネスが涙をにじませながらこちらを見つめているではありませんか。
ガレスは初めて女性の応援を受けていることに感激し、最後の力を振り絞ってアイアンサイド卿に反撃しました。
こうして戦いはガレスの勝利に終わります。功績を認められた彼は円卓の騎士の一員となりました。リオネスの願いを受けさらに1年間の試練に耐えた後、ふたりは結婚します。ガレスはついに、幼い頃から憧れていた立派な円卓の騎士となったのです。
ガレスの最期
おとぎ話なら、ここでめでたしめでたしとなるのでしょうが、ガレスの物語にはまだ続きがあります。彼の最期にまつわる物語です。
アーサー王の王妃グィネヴィアには、ガレスが憧れていたランスロットと不倫しているのではないかという疑惑がありました。ある日、ガレスの兄アグラヴェインは周囲の反対を押し切り、この疑惑を暴いてしまいます。
グィネヴィアは不倫の罪で死刑を宣告され、刑場へと引き立てられました。ランスロットは彼女を助けようとその場に駆けつけますが、彼女を想うあまり、周囲にいた騎士たちに次々に斬りかかってしまいます。
丸腰だったガレスと兄のガヘリスは、こうして亡くなってしまいました。弟たちを愛していた長兄のガウェインはこの事件をきっかけにランスロットに復讐を誓い、アーサー王を説得してランスロットとの戦いに向かいます。
円卓の絆と王国の平和はこうして破壊されてしまいました。幼い頃からランスロットに憧れていたガレスは、まさにその憧れの騎士によって命を奪われたのです。
◎関連記事
【アーサー王】王妃グィネヴィア 愛と苦悩の三角関係
アーサー王に信頼された男! 円卓の騎士「ガウェイン」