中世ヨーロッパといえば騎士の時代。騎士たちはどのような暮らしをし、何を見て何を考え、どんな人生を送っていたのでしょう?
このシリーズでは、1165年にフランスに誕生した架空の騎士ジェラールを案内人に、中世ヨーロッパと騎士の姿をわかりやすくご紹介していきます。
第9回目のテーマは、「領地」です!
目次
領地を構成するもの①森
ジェラールは13歳になりました。来年にはパリの王宮に出仕することも決まっています。騎士になった長兄は結婚し、父の住む城とは別に領地に館を建て、父を助けて何度も一緒に出陣していました。
今回は父から教わった領地の話をしましょう
中世ヨーロッパの領地は、広大な森でできています。ジェラールや彼の父が生まれる前、9世紀頃のヨーロッパは深い森だらけで、人々は森の中にぽつんとある空き地で暮らしていました。
森は人々に様々な恵みをもたらします。
*ナラやブナの木
ナラ(英語ではオーク)もブナも広葉落葉樹で、高さ25~30mほどに成長します。
ナラは「森の王様」とも呼ばれ、加工しやすく、家具材などに打ってつけです。穀物が十分でない時代には、ナラの実(ドングリ)は人間の食糧にもなりました。
ナラやブナの実は豚の飼料にも使われました。農民たちは11月になると家畜の豚を森に連れ出し、ナラやブナの実を食べさせて肥えさせます。その後、豚は冬を越すための食糧として年末には塩漬けにされました。
私の時代(12世紀)でも、豚を塩漬けにする作業は毎年欠かせない大切な仕事です
*その他の木々
森にはニレ、ハシバミ、シナノキ、モミなどもみられます。こうした木々は伐採され、薪になったり、家や納屋、防壁などを造る際に使われました。
領地を構成するもの②畑
10世紀半ば~13世紀になると、森は盛んに開墾され、領地には畑が増えていきます。
鉄を使った伐採器具や農機具が普及し、それらをつくる鍛冶屋も村に定住するようになりました
どんな器具が使われていたのか、簡単にご紹介しましょう。
*重量有輪
ヨーロッパの土地は北にいくほど土が固いため、地面を深く耕すことは容易ではありません。それまでは木製の犂が使われていましたが、重い金属板の刃のついた犂が普及したことで、畑を深く掘り、土の養分を活用できるようになりました。
この新しい犂は重くて大きかったため、扱いやすいよう、車輪も取り付けられています。
*有輪ゲルマン犂
10世紀頃に登場したこの犂にも、大きな車輪が付いています。犂刀が固い土を切り裂き、その後ろに取り付けられた
犂を引くのは主に牡牛ですが、11~13世紀になり、馬の蹄に蹄鉄が打たれたり、馬の飼料である
こうした鉄製農機具が普及したおかげで、穀物を多く生産できるようになり、11世紀初頭~14世紀初頭までに西欧の人口は3倍に増えたといわれています
穀物生産量が増えると、領地には短時間で大量の製粉が行える「水車」や「風車」も造られるようになりました。
水車や風車、パン焼き釜などは領主の持ち物です。農民たちは収穫した穀物の2割ほどを地租として納める他、穀物を製粉したりパンを焼く時にもこうした施設の利用税を払わなくてはなりません。
酷いですか? でも、領地経営を行う上ではいずれも大事な収入源なのです
酷いですか? でも、領地経営を行う上ではいずれも大事な収入源なのです
簡素だった城の様子
最後に、領地に建てられた城の様子も簡単にご紹介しましょう
城主一家の住む城は、戦争のための拠点であり、また領地を支配するための役所でもあります。
9~11世紀頃までの城は、城壁も建物も木で造られたとても簡素なものでした。
*城外
城の周囲には深い壕が掘られ、掘り出された土を内側に盛った
城の入口は1~2ヶ所で、入口の門の前には木製の橋が架けられています。戦争の際にはこの橋は焼き払われるか破壊され、城内に逃げ込めなかった者は深い森の中へと避難していました。
*城内
セーヌ川からフランスへと侵入し、後にイングランドも征服したノルマン人(ヴィーキング、バイキング)たちは、城内をふたつの区画に分ける設計を考案しました。
この設計方式は「モット・アンド・ベーリー方式」と呼ばれています。
・モット(小さな円形の丘)……角塔の形をしたドンジョン(避難場所、天守)が建てられています。ドンジョンは城主の館を兼ねることもありました。
・ベーリー……住居や納屋、倉庫などが建てられている場所です。
祖父の代までは、こうした木製の簡素な城が多かったようです。石造りの城は父の代から工事が始まりました。お金もかかるので、私の子ども時代は少しずつずっと工事をしていましたよ
城の庭には加工途中の石などが置かれ、城は少しずつ石造りのものへと改装されていきました。
そんな場所で大人へと成長していったジェラール。彼の今後の活躍をお楽しみに!
◎参考書籍
『中世騎士物語』
著者:須田 武郎
〉Kindle で読む
◎中世騎士物語シリーズ
騎士が生まれた日 ~中世ヨーロッパの階級社会~
騎士が生まれた日 ~修道院~