世界各地の神話には神々や人間と一緒に、動物の姿もよく登場します。自然界に宿る精霊を崇拝したケルト人にとっても、動物たちは神話の神々のよき友であり使者、時には神そのものでした。
今回はそんなケルトの人々と深いつながりのあった動物をご紹介しましょう。
目次
神聖な森の主・雄鹿
最初にご紹介するのは、ケルトの人々から特に崇拝されていた生き物・雄鹿です。
【ケルト人にとって「雄鹿」とは?】
①神聖な森の主
誇り高く雄大な姿をした雄鹿は、機敏で勇猛な森の主として崇拝されています。
また、雄鹿の大きな角は森の木々の象徴であり、その成長と脱落はめぐる季節や豊穣を表すものとして神聖視されていました。
②狩りの貴重な獲物・生贄
雄鹿は狩りの獲物になった他、生贄としても珍重されました。フランスやイングランドなど各地の祭祀場跡から、雄鹿が生贄として捧げられた痕跡が見つかっています。
③異界と狩人を結びつける魔法的存在
アイルランドやウェールズでは、鹿は異界と狩人を結びつける魔法的存在とされています。
たとえばアイルランドの戦争の女神モリガンは雄鹿に変身し、狩人や英雄を異界へと導くと考えられていました。
宴会のごちそうだった猪・豚
勇猛さと不屈さを持つ猪もまた、ケルト人から崇拝された動物です。
【ケルト人にとって「猪・豚」とは?】
①戦争のシンボル
猪が狩人に反撃する姿を見たケルト人たちは、不屈と獰猛さを持つ猪こそ戦争のシンボルにふさわしいと考えるようになりました。タキトゥスの『ゲルマニア』には、ケルトのアエスティ族が猪を戦争のお守りにしていたことが書かれています。
②宴会のメインディッシュ
狩猟の獲物でもある猪や豚は、ケルト人の大好物として宴会でよく振舞われていました。
宴会の肉を切り分けるのは、出席者の中で最も勇敢な戦士です。神話の中では、アイルランドの英雄クー・ホリンや、彼の養い親コナル・ケルナッハなどがこの役目を与えられています。
生贄にもなった雄牛
美しく屈強な雄牛もまた、ケルト人から愛された動物です。
【ケルト人にとって「雄牛」とは?】
①崇拝の対象
雄牛は農耕の労働力になり、生殖能力も高いことから、豊かさや強い力の象徴として崇拝されるようになりました。
プリニウスはその著書の中で、ケルト人たちが不妊治療のためにヤドリギを採取する際に、雄牛を生贄に捧げていたことを記しています。これは雄牛の持つ生殖能力に期待したためでした。
②神と関係のある動物
雄牛は神と関係のある動物だとも考えられています。
英雄クー・ホリンとコナハトの女王メイヴの戦いを描いた「クアルンゲの牛捕り」では、ドン・クアルンゲとフィンドヴェナハという2頭の雄牛が戦いの原因になりました。
またタラの地で王を決める儀式を行う際などにも、生贄として神聖な雄牛が捧げられたということです。
悪の象徴で財宝の守り手・蛇
独特な姿を持ち脱皮も行う蛇は、特殊な存在として扱われていました。
【ケルト人にとって「蛇」とは?】
①水と財宝の守護者
ケルト神話の中で、フィアナ騎士団団長のフィン・マックールや、英雄クー・ホリンの養い親コナル・ケルナッハは、水中に棲む大蛇を倒し財宝を得ています。このように、蛇は水と関係があり、財宝を守っている生き物として描かれていました。
②死や脅威、悪の象徴
ケルト人たちは神話の中で、蛇に悪の要素も見出しています。
戦女神モリガンの息子メフの心臓には、アイルランドを食い尽くすという3匹の蛇が巣食っていました。そのため彼は医療神ディアン・ケフトにより殺害されてしまいます。
蛇はこの他、脱皮することから死や再生を表すとされたり、卵を多く生むことから豊穣のシンボルだとも考えられるなど、多くのイメージを持たれた特殊な存在でした。
知恵に長けた存在・鮭
アイルランドやウェールズでは、鮭は知恵と知識の象徴とされています。
【ケルト人にとって「鮭」とは?】
①知恵と知識の象徴
ケルトの伝承の中で、鮭は知恵に長けた存在として登場します。
たとえばフィアナ騎士団の団長フィン・マックールは、親指についた知恵の鮭フィンタンの脂を舐めたことがきっかけで、素晴らしい知恵を得ることができました。
またマンスター王クー・ロイは、魔法の鮭の中に自分の魂を隠していたといいます。
戦場や死、異界の象徴だった鴉
鳥たちもまた、ケルトの神話によく描かれる存在です。
【ケルト人にとって「鴉」とは?】
①アイルランドでは、戦場と死の象徴
鴉は戦場で死肉を漁り、風変わりな鳴き声をあげます。そこでアイルランドでは、鴉は戦場や死を象徴する生き物だと考えられるようになりました。
戦女神モリガンも、鴉の姿で戦場を飛び回り、死肉を漁ったり死の宣告を行うとされています。
②ウェールズでは、異界の象徴
アイルランドとは違い、ウェールズでは鴉は女神リアンノンの連れる鳥であり、異界の人間が変身した姿だとされていました。
今回ご紹介した以外にも、ケルト神話には犬や熊、ネズミ、水鳥などたくさんの動物が登場します。好きな動物に着目して神話を調べてみるのも面白そうですね。
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