作者:井戸正善
パンタポルタ連載小説『よろず道場のお師匠さん』(著:井戸正善)に登場するエルフの少女ルリによる武器コラム。
師匠から聞きかじった武器の知識を丁寧にわかりやすく教えてくれます。
隔週木曜日更新、全10回予定!
9.マン・ゴーシュ - 守るための剣? -
――マン・ゴーシュ(パリーイング・ダガー)は、30センチ前後の刀身を持つナイフの一種です。
15世紀末頃に登場し、主にフランスやスペイン、イタリアなどで使用されました。当時多く行われた一対一の決闘において、防御の為に使用されたのです。
攻撃用として利き手にレイピアなどの片手剣を持ち、逆の手にマン・ゴーシュを持って戦うのが流行のスタイルとなりました。
――パリーイング・ダガーのパリー(パリィ)は受け流しを意味します。その名の通り、自分に向かってきた相手の攻撃を受け流すために、相手の武器に沿わせて逸らすことを目的とした武器というわけです。
鍔付近や刀身の峰部分に相手の剣を引っ掛けるためのフックがあるものも多く、熟練者が使用すれば、細い刀身ならへし折ることもできたでしょう。
――利き手ではない方で操るマン・ゴーシュは、扱いやすいように「軽くて短い」必要があり、尚且つ相手の武器を受け止められるように「頑丈である」必要もありました。
そのため、刃の部分は最低限に抑えられ、同時に拳を守れるようにキヨンを大きくしているのです。
――先述の通り、“パリー”は戦闘技術における受け流しを意味します。
マン・ゴーシュを掲げて相手の武器を止めるだけならばそう難しくはありませんが、相手の腕力次第では押し切られ、最悪の場合はマン・ゴーシュが破損してしまいます。 そこで、真正面から受け止めるのではなく、受け流す技術が重要となるのです。
――直線の攻撃に対して横からマン・ゴーシュを添えるようにして上下左右に逸らすように動かします。運動エネルギーを横から力を加えることで方向だけを変えるので、強い腕力も必要ありません。
これは日本刀などの技術にも見られるもので、フェンシングでは「パラード」「パレ」などと呼ばれる基本的な動きです。
――16世紀の終盤ごろからフランスを中心としたヨーロッパ地域にて決闘が流行した時代があり、男性はレイピアなどの片手剣と共にマン・ゴーシュを持ち歩くのが一般的になりました。それは護身の為でもありましたが、決闘になったときの武器という意味合いもありました。
トラブルがあれば決闘で決着をつけることが一般的となり、女性関係や名誉の回復など、様々な理由で1対1の命を賭けた戦いが行われたのです。
――勝負の判定方法は様々で、どちらかが命を落とすことも多かったようですが、正式な決闘では『どちらか一方が傷つけば終わり』という決まりがありました。立会人も複数用意され、白黒がはっきりするようになっていたのです。
もちろん、突発的な戦闘には適用されませんが、いずれにせよ、左手のマン・ゴーシュで剣を完全に押さえた状態で右手の剣を突きつければ、そこで終わりです。小さな傷をつけて終わる場合もあれば、降参して終わることもできます。
◎ルリちゃんの聞きかじり武器講座
第1回:サーベル
第2回:タック
第3回:ショテル
第4回:スピアー
第5回:ウォー・ハンマー
第6回:メイス
第7回:バグ・ナーク
第8回:ショート・ボウ
◇キャラクター紹介
【ルリ】
道場主である斎舟の一番弟子を自負するエルフの少女。
斎舟が居ない間は道場の留守を任されている。
生活のほとんどを稽古と研究に費やしているという努力家な一面も。
本名はイービルベアードといい、熊獣人に魔族の血が混じった大男。
“モノ溜まり”と呼ばれる場所に流れ着く、異世界からの漂流物を回収して売買することを生業としている。
2人の活躍する小説『よろず道場のお師匠さん』もよろしくね!
◇参考書籍
『武器と防具 西洋編』
著者:市川 定春
>Kindle で読む
*作者紹介*
井戸正善(いどまさよし)。HJノベルスより『呼び出された殺戮者』が1~9巻まで、Kラノベブックスより『王族に転生したから暴力を使ってでも専制政治を守り抜く! 』が発売中。佐賀市のエアガン飲み屋『NEST』の店主さんでもある。
井戸正善(いどまさよし)。HJノベルスより『呼び出された殺戮者』が1~9巻まで、Kラノベブックスより『王族に転生したから暴力を使ってでも専制政治を守り抜く! 』が発売中。佐賀市のエアガン飲み屋『NEST』の店主さんでもある。