ルリちゃんの聞きかじり武器講座　第５回：ウォー・ハンマー

パンタポルタ連載小説『よろず道場のお師匠さん』（著：井戸正善）に登場するエルフの少女ルリによる武器コラム。

師匠から聞きかじった武器の知識を丁寧にわかりやすく教えてくれます。

隔週木曜日更新、全10回予定！

５．ウォー・ハンマー　－攻撃に刃はいらない？－

――50センチから２メートルほどの長さを持つウォー・ハンマーは、13世紀ごろに登場し、中世まで非常に有効な武器として使われました。
当初は歩兵用として長いものが使われていましたが、騎乗でも片手で使えるようにと次第に短くなっていきました。
先端は現在でも工具として使われる金鎚の形ですが、槌の反対側が尖っているピック状のものが多く作られました。




――ウォー・ハンマーが最も活躍したのは百年戦争（1337～1453）の頃だと考えられています。
ハンマーは鎧の上から強い衝撃を与えて落馬させたり気絶させたりするためのもので、ピックは鎧の隙間やチェーン・メイルの上から突き立てて止めを刺すために使われました。




――ウォー・ハンマーは騎士の装備として使用され、 馬上槍試合 （ トーナメント ） でも、ジョストと呼ばれる個人競技にて使用されました。
騎乗で槍を構えて衝突し、相手を落馬させれば勝利というルールですが、勝負がつかなければ馬上もしくは下馬してウォー・ハンマーやバトル・アックス（戦斧）で殴り合うのです。
こうして、ウォー・ハンマーは騎士の武器として定着していきます。




――斬る、突くといった攻撃とは違う“殴る”という攻撃は、相手の防具が頑丈であっても、あるいは頑丈であるからこそ振動などでダメージを与えられるという利点があります。
その代わり、刃物と違って攻撃に速度が必要で、大きなダメージを与えるためには武器そのものに一定の重量がなければダメージになりません。




――特に頭部となると、ハンマーが少しでも逸れれば十分な力は伝わらず、甲冑のカーブに沿って逸れてしまいます。
もっとも大きなダメージを与える方法は、頭部の中心から放射状に伸ばした線をイメージして、その線に沿って叩き込むことですが、地面に置いたボールを動かさないようにまっすぐ上から棒で叩くようなもので、相当な技量を要します。




――ウォー・ハンマーは振動によるダメージを与える武器ですが、その振動は当然ながら使用者の方にも響きます。
現代でも剣術や杖術などで堅いものを叩いて稽古をすることはありますが、あまり長くやらないようにしています。打撃による振動で、殴っている方も内臓や三半規管へのダメージがあるからです。




――16世紀ごろになると、メインで使用する部分がハンマーからピックへと変化していきました。
ピックは相手の鎧を貫いてダメージを与える目的で使用します。
ハンマーと同様に勢いをつけて当てるのですが、平らなハンマーと違って鋭利な先端は鎧を突き破り、勢いのほとんどが相手へ伝わります。




――50～60センチメートルのウォー・ハンマーには、取り落とさないように柄の先端に布製の輪が付いたものも多くありました。
相手に刺したピックが抜けなくなると、この輪が逆に仇となるのです。
金属鎧に対して非常に強力な武器であるピックは、相手を引っかけるという使い方もできるのですが、そんな欠点もあるのです。




――もちろん、力自慢でハンマー部分で金属プレートのつなぎ目を破壊してみせる騎士もいました。
剣や槍の刃を真正面からぶつけることで弾いたり逸らしたりすることができるのも、金属の塊であるウォー・ハンマーの利点でした。
強烈な一撃は細い剣なら叩き折れる威力があり、防具ごと頭蓋骨や腕の骨を破壊できます。盾の向こうから叩きつける振動は、腕が痺れるほどだったはずです。
戦場におけるウォー・ハンマーは、馬上から騎士が振り下ろす恐ろしい武器として、徒歩の兵からはとても恐ろしく見えたことでしょう。




◎ルリちゃんの聞きかじり武器講座
第１回：サーベル
第２回：タック
第３回：ショテル
第４回：スピアー

◇キャラクター紹介

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◇参考書籍

『武器と防具　西洋編』
著者：市川 定春

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