中世ヨーロッパといえば騎士の時代。騎士たちはどのような暮らしをし、何を見て何を考え、どんな人生を送っていたのでしょう?
このシリーズでは、1165年にフランスに誕生した架空の騎士ジェラールを案内人に、中世ヨーロッパと騎士の姿をわかりやすくご紹介していきます。
第3回目のテーマは、「中世ヨーロッパの階級社会」です!
目次
戦う人・祈る人・働く人
今回はジェラールの父親をご紹介しましょう。彼は城主クラスの領主で、小さいながら自分の城を持ち、領地とそこに住む領民たちを治めていました。
父上は中の下ぐらいの貴族ですね。え? “現代”とやらには貴族なんて階級は無い? 一体どういうことですか
この時代の人々は大きく3種類に分けられます。
・戦う人:王、諸侯、騎士
・祈る人:修道士、聖職者
・働く人:農民、商人、職人
このうち、「戦う人」と「祈る人」のことをまとめて「貴族」と呼びます。貴族とはつまり、働かない人(農民、商人、職人以外の人)のことを指す言葉です。
中世ヨーロッパの社会は、この3種類の人々によって構成されるピラミッド型の階級社会でした。
実は階級ピラミッドは2つに分かれています。王を頂点に俗界での身分を表すピラミッドと、「祈る人」を中心とした信仰生活(聖界)でのピラミッドです
それぞれのピラミッドにはどんな人々がいるのか、次項からご紹介しましょう。
俗界のピラミッド
俗界での身分を表すピラミッドは、「戦う人」が上、「働く人」が下という構造になっています。「祈る人」は本来階級外ですが、宗教的権威や多くの領地を持つことから、俗界では領主層とみなされていました。
俗界のピラミッドを上から順にみていきましょう。一番上は「王」で、その下に「諸侯」「城主」「騎士」「農民・商人・職人」と続きます。
*「諸侯」
伯や公といった大領主のことをまとめて「諸侯」といいます。王もまた自分の領地(王領地)を治める大領主のひとりです。
*「城主」
「城主」は王や諸侯から城をあずかり、城の周辺を領地としています。王や諸侯が戦争する際には領地から参戦するのも大事な仕事です。
ジェラールの父親もこの「城主」にあたります。
*「騎士」
「騎士」は王や諸侯、城主、修道院や教会の部下として戦う代わりに、土地やお金をもらい生活しています。諸侯や城主は上位の騎士でもあります。
下級騎士の中には財産もなく、身分も不自由な者もいました。そのような騎士は貴族とは呼びません
*「農民・商人・職人」
これらの人々のうち、農民は「自由農民」と「農奴」に分けられます。
・「自由農民」:税金を納め、賦役(領主のためのタダ働き)を行う以外は自由に暮らせる農民。自分の土地を持つ者と、土地を持たず「小作人」として他の人の畑を耕し、収穫の分け前をもらって暮らす人がいる。
・「農奴」:領主の持ち物のような存在。持ち物なので、勝手に他の領主の土地に引っ越すことは禁止されたし、他の領主の領民と結婚する際もお金を支払い領主の許可を得なければならなかった。
農民の大多数は「農奴」です。彼らの働きが、私のような貴族の生活を支えているんですよ
信仰生活(聖界)のピラミッド
続いて、もうひとつのピラミッドもみていきましょう。
こちらは身分を表すものではなく、信仰の中での指導的立場の順番を示すもので、上から順に「教皇」「司教・修道院長」「司祭・修道士」「信徒」となっています。
王や諸侯、農民も全て同じ「信徒」です。とはいえ、もちろん王侯や城主たちはそれなりの敬意を払われていました。その分多くの喜捨もしているんですよ
俗界のピラミッドの頂点に立つ「王」と、信仰生活(聖界)のピラミッドの頂点に立つ「教皇」。両者は互いに譲らず、機会があれば相手の上に立とうとしたため、度々争いが起こることとなります。
代々のフランス王は聖職者として、キリスト教会を守ることも求められました。ですが王は自分に得がない仕事はしたくないですし、むしろキリスト教会を押さえつけたいと考えることもあります。それで王はしばしば破門され、信徒から外されました
「戦う人」が貴族になるまで
最後に、ジェラールの父親をはじめとする「戦う人」がなぜ貴族となったのか、歴史の流れをご説明しましょう。
はるか昔、人々がまだ小さなグループで狩猟採集生活を送っていた頃には、グループの人々は全て生産者であり、戦士でした。
やがて放牧や耕作をするようになると、人々はより大きなグループを作って生活するようになります。家畜や食料を財産として蓄えるだけの余裕も生まれ、そうした余剰生産物をもらう代わりにグループをまとめる「統率者」が現れました。
大きくなったグループには、「派閥」が生まれます。同じ祖先を持ち、血のつながった者同士がひとつの派閥、つまり一族として団結するようになったのです。
一族の族長や長老には、当初、実力を持つ者が選ばれました。しかし時代とともに限られた者たちだけが族長や長老職を独占するようになります。こうして血統の原理が誕生し、「貴族」という概念が生まれます。
ところで、昔の人々は他の部族との揉め事が起きると、話し合いではなく戦いで決着をつけていました。初めは部族全員で戦っていましたが、やがて戦いに長けた者たちが「戦士」として専業化するようになります。
戦士たちの働きは部族に大きな戦利品をもたらしたため、その地位はどんどん上がっていきました。こうして「戦士貴族」が誕生します。
大きな軍事力を持った戦士貴族の中でいちばん強い者が王となりました。この頃になると領地経営のシステムが登場し、王は戦士たちに領地を与える代わりに軍役の義務を課すようになります。こうして戦士たちは「領主」となり、ピラミッド型の階級社会が誕生したのです
城主の息子として、生まれながら「貴族」の一員だったジェラール。彼の人生はこの後どうなっていくのでしょう? 次回をお楽しみに!
◎中世騎士物語
騎士が生まれた日 ~中世時代の暦~
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