作者:井戸正善
パンタポルタ連載小説『よろず道場のお師匠さん』(著:井戸正善)に登場するエルフの少女ルリによる武器コラム。
師匠から聞きかじった武器の知識を丁寧にわかりやすく教えてくれます。
隔週木曜日更新、全10回予定!
3.ショテル -盾の向こうに届く剣?-
――日本では手持ちの盾を使っての戦闘はあまり定着しませんでしたが、サーベルなどの片手剣や手斧、棍棒といった武器を片手に持ち、もう片方は盾を構えるという戦い方は多くの戦場で一般的なものでした。
騎乗で戦場へ赴く騎士も、右手にスピア(槍)、腰に剣を佩き、左手には盾を携えるスタイルが定着した時代もありました。
――戦場の、特に前線での興奮状態において、集団が激突した状態では引くことは容易ではありません。迂闊に下がれば槍が迫ってくるのですから、押し勝つのが最善手となります。
そこで、盾の押し付け合いの場面で、敵を攻撃するための武器が考案されたのです。
――ショテルの特徴は“内反り”に湾曲した刀身にあります。
エチオピアで使用されたもので、エチオピア地域に紀元前5世紀から紀元後1世紀ごろまで存在したアスクム王国の時代にはすでに存在していたとされています。 身分を表すものとして腰に提げることもあり、精鋭部隊の象徴的な武装であった時代もあり、美しい装飾が施されたショテルは美術品としても扱われました。
19世紀末の英国でも、ショテルを模倣した刀剣が作られた記録があります。 ユニークな形状ですが、実用的な武器としても観賞用としても、長い間人気がある刀剣なのです。
――内反りになっている刀身を盾に向けて振るうと、盾の向こうにいる敵に切っ先が届くようになっています。 上手く切っ先が相手に刺さらなくとも、両刃のため叩きつけた時と引いた時に怪我を負わせる可能性が高くなります。
――腕に怪我をした兵士は、盾を押さえておくことができません。
腕でなくとも、頭や首などに傷を負えば致命傷になりかねません。ショテルが活躍し始めた当時、まだ鎧は発展しておらず、最前線の兵士は簡素な兜や胸当て程度の装備で、顔や腕は露出しているのですから。
――小型の盾でも、正面の視界はかなり遮られてしまいます。 その向こう側からの斬撃は、避けようがなかったでしょう。ショテルを持った相手と対峙し、盾を突き合わせた膠着状態になるのは避けたかったはずです。
同様の形状をした剣は日本でも存在しており、『布都御魂剣(ふつのみたまのつるぎ)』と称される刀剣は内反りであったとされていますが、同じ発想からのものかはわかっていません。
――ショテルには鞘がありません。 携行するときは、ベルトへそのまま挟むか、チェーンなどで腰に吊るすなどしていました。当然ながら刃は剥き出しなので、取り扱いに神経を使います。
ただ、先述の通り美麗なショテルを持っていることが高貴な身分を誇示することにもなっていた時期があり、必ずしも悪いことだとは言えません。
――フック状の武器における共通の問題として、対象や対象が防御に使った盾などに斬りつけた時、引っかかってしまう可能性があります。
ショテルも同様で、鎧や服などに切っ先が取られてしまうかも知れません。鋭い武器ではありますが、それでも断ち切るのは難しいものです。 その代わり、熟達者が使用すれば、敵の足を払ったり敵の持つ盾を引きはがしたりといった使用も可能でしょう。
◇キャラクター紹介
【ルリ】
道場主である斎舟の一番弟子を自負するエルフの少女。
斎舟が居ない間は道場の留守を任されている。
生活のほとんどを稽古と研究に費やしているという努力家な一面も。
本名はイービルベアードといい、熊獣人に魔族の血が混じった大男。
“モノ溜まり”と呼ばれる場所に流れ着く、異世界からの漂流物を回収して売買することを生業としている。
2人の活躍する小説『よろず道場のお師匠さん』もよろしくね!
◇参考書籍
『武器と防具 西洋編』
著者:市川 定春
>Kindle で読む
*作者紹介*
井戸正善(いどまさよし)。HJノベルスより『呼び出された殺戮者』が1~9巻まで、Kラノベブックスより『王族に転生したから暴力を使ってでも専制政治を守り抜く! 』が発売中。佐賀市のエアガン飲み屋『NEST』の店主さんでもある。
井戸正善(いどまさよし)。HJノベルスより『呼び出された殺戮者』が1~9巻まで、Kラノベブックスより『王族に転生したから暴力を使ってでも専制政治を守り抜く! 』が発売中。佐賀市のエアガン飲み屋『NEST』の店主さんでもある。