『ダンジョンズ&ドラゴンズ スターター・セット』に収録されている「ファンデルヴァーの失われた鉱山」とベーシック・ルールを組み合わせてD&Dを始める話を前回より続けていく。
いよいよセッションのテーブルでのことだ。もちろん、予習として読んで用意を充実させてもいい。
「スターター・セット」の内容については本連載の第19回を参照すると、より分かりやすいだろう。
ファンタジーRPGと地図
「ファンデルヴァーの失われた鉱山」P.5には、このアドベンチャーの舞台となる地域の地図が掲載されている。これはダンジョン・マスター用であるため、PCたちが冒険の中で探し出さなければならない各所の要衝にも印が入っている。そのためプレイヤーたちに見せたり、一緒に見たりしてはならない。
ネヴァーウィンター森が中央に広がるこの地域は、フォーゴトン・レルムにある大陸、フェイルーンの西海岸にあるソード・コースト地方だ。海岸線の中あたりに、フォーゴトン・レルムでも有数の大都市である「ネヴァーウィンター」がある。フォーゴトン・レルム最大と言われるこの都市が、広大な森や山々、その合間の平原や西の海洋などの中においては点でしかない。
この地図で色薄い線で描かれている六角形の区分けは、距離と位置を示すためのヘックスだ("hex"はギリシャ語の"6"の意の語からで六角形の意)。地図右上端にヘックスひとつが示す距離が5マイル(約8キロ)であることが示されている。
『プレイヤー用ベーシック・ルール』P.65「移動速度」に、非戦闘の通常時の移動のペースの説明がある。時間に対応した移動ができる距離や、装備の項目を合わせて参照し、必要な食糧をカウントすることもできる。たとえば依頼を受けてネヴァーウィンターからファンダリンへ向かう旅路について、何日分の食糧が必要だとか、パーティーで馬や馬車などを用意することを検討したりと、細かくプレイしたい場合もルールは用意されている。
また、ネヴァーウィンターから延びるハイ・ロード街道とファンダリンを結ぶ、枝街道のトライボア街道ではモンスターが出没する。「ファンデルヴァーの失われた鉱山」P.27の「屋外での遭遇」を参照して、モンスターに出会うかどうか、何と出会ったのかを決めて、戦闘遭遇を楽しんでも良い。
このような地味な部分からも「冒険する世界らしさ」を感じることができる。街道を行く危険だけでも、隊商などが護衛を欲しがる理由であり、PCたちのような存在への仕事となり、収入のあてになっているわけだ。
とはいえ、一緒に遊ぶメンバーに向かないとか、ランダムの戦闘遭遇を扱いきれないと思えば、距離に関する処理は持ち込まないのも選択の一つだ。本筋に注目して、途中の手間手間やランダム遭遇は扱わなくても構わない。
「ネヴァーウィンターからファンダリンへ移動しよう」とPCたちが行動を決めたら、「じゃあ到着に必要な日数をかけて、君たちはファンダリンに到着したよ」として、アドベンチャーを進めていこう(ただし、アドベンチャーで必要とされる遭遇は忘れないように!)。
それでも地図を見ることで、どんな場所で冒険が繰り広げられているのか、PCの周辺の人々がどのような地域に生きているのか、イマジネーションは大いに広がる。これは「ファンデルヴァーの失われた鉱山」P.17にある「ファンダリン」の街の地図についても同様だ。
なお、このファンダリンのマップは、プレイヤーが見ても大丈夫な地図となっている。
新米冒険者への依頼の場面
セッションは、PCたちがネヴァーウィンターの街で護衛の仕事を受けたところから始まる(「受けた」である。「受ける」ではないのが、DMの"コツ"のひとつだ)。その場面。
ネヴァーウィンターの街で、グンドレン・ロックシーカーという名のドワーフが皆さんに頼みを持ちかけてきました。荷車いっぱいの荷物をファンダリンという無法の開拓町に届けてほしい、そこはこの街から南東へ数日の場所にある、というのです。グンドレンは明らかに興奮していて、自分の旅のわけはちっとも話そうとせず、ただ「俺と俺の兄弟はすごいものを発見した」と言うばかり。そして荷物をファンダリンの交易所である“バーセンのよろず屋”まで無事届けてくれれば、1人あたり金貨10枚を支払うというのです。それから彼はシルダー・ホールウィンターという名の戦士を護衛に連れて、馬で先に出発しました。彼が言うには“仕事の都合で” どうしても先に行かねばならないということでした。
皆さんは数日かけてネヴァーウィンターからハイ・ロード大街道を南下し、そしてつい先ほど東へ向かうトライボア街道に入ったところ。今のところ何の問題も起こっていませんが、このあたり一帯は危険だといいます。この街道は山賊や無法者がうろついているので有名なのです。
引用部分は「ファンデルヴァーの失われた鉱山」P.6ページにある"読み上げ文"である。一字一句違えず読み上げろ、というものでもない。DM初心であれば、ゆっくりとそのまま読めば、雰囲気が出る文章だ。DMすることに慣れているなら、もっと雰囲気ありげに、言葉や文末「です。ます。」を「だ。である。」に置き換えて読んでもかまわない。
この読み上げの前後では、この場面についてのDM向けの説明や、セッションのテーブルで「プレイヤーたちに、PCたちの自己紹介をしてもらおう」など、セッション運営のアドバイスも書かれている。
このような仕事の依頼を受けて冒険が始まる場面は、剣と魔法のファンタジーにおいて冒険者生活を始めるシーンとしてスタンダードなものだ。「スターター・セット」の作成済みPCにしろ、ベーシック・ルールで作成したPCにしても、「らしいスタート」を果たすことができるだろう。
次回は、ホームタウンとなるファンダリンを紹介する。