魔女裁判が盛んだった15~18世紀のヨーロッパでは、異端審問官が大勢の魔女を火炙りにしました。
しかし、一般人に紛れた魔女を見分けるにはどうすればいいのでしょう?
実は魔女には、それとわかる「印」があるのです。
今回は、いつ異端審問官になっても困らないよう、魔女の見分けかたを覚えましょう。
目次
魔女の印を知る前に! 魔女の基礎知識から
「魔女」という言葉によって誤解されがちですが、魔女には女性だけでなく男性もいます。彼らは本来、太古の信仰とつながる呪術者・シャーマンのような存在で、世界中に存在していました。
ヨーロッパに限っていえば、伝統的な魔女は、古代ローマのディアナ女神に代表されるような地母神崇拝やゲルマン世界の古い森林信仰の系統に属し、自分の意志で善いことも悪いこともしていました。民衆はこのような魔女を恐れながら、特別な知識を持った賢者として信仰していたのです。
しかし、魔女狩りの時代になると、魔女の概念は大きく変化していきます。魔女は契約によって悪魔の手先となった者で、異端をはびこらせ、さまざまな悪事をはたらくと考えられました。
キリスト教会最大の神学者の一人、13世紀のトマス・アクィナスは、魔女術の核になる5つの概念をあげています。
魔女術の核になる5つの概念
・悪魔との性交渉
・空中移動
・動物への変身
・荒天術
・不妊術
・悪魔との性交渉
・空中移動
・動物への変身
・荒天術
・不妊術
のちの魔女狩り時代の悪魔学者たちは、こうした偉大な神学者や聖書の記述をもとに、悪魔の手先としての魔女のイメージを固めていったのです。
ホクロは悪魔と契約した証?
それでは、魔女の見分け方をお教えしましょう。
悪魔と契約して悪事をなす魔女には、身体に必ず「魔女の印」や「魔王の印」があると考えられていました。
魔女の印はイボやホクロのような、身体にある小さな突起物です。これは余分な乳首と考えられていて、魔女が飼育している使い魔たちが、その乳首から魔女の血を吸うのです。
使い魔とは、契約した悪魔から与えられて魔女に仕える低級な悪魔です。これら使い魔は犬、猫、山羊、牡牛、ヒキガエル、フクロウ、ネズミなどどこにいてもおかしくない動物の姿をして、魔女に入れ知恵をしたり、魔女の命令で殺人などの悪事を働いたりします。
魔女は必ず使い魔を持つと考えられたため、使い魔の有無は魔女裁判で重要な判定基準になります。魔女と疑われた人物が犬や猫を飼っていれば、それが使い魔だとされました。もし動物を飼っていない場合は、近づいてきたハエやゴキブリが使い魔ということになります。
17世紀の魔女裁判の記録には、小指ほどの大きさで長さが指の半分ほどの乳首を持つ魔女、舌の先に乳首があった魔女、陰部に二つの乳首を備えていた女性の魔女など、さまざまな事例が記載されています。これらはすべて魔女の印です。
一方、魔王の印は傷跡、アザ、魚の目、刺青、色素沈着のようなものを指します。16~17世紀の悪魔学では、悪魔は契約の証として、爪や熱した鉄などで魔女の身体に悪魔の印を残すと考えられていたのです。
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魔女の印や魔王の印には感覚がなく、針を刺しても痛くない・出血しないと考えられていました。そのため魔女の容疑者は、身体のあちこちを針で刺されて検査されることになります。
また、魔女の印はしばしば外から見えないような部位にあるといわれます。たとえばまぶたの裏、脇の下、髪の毛や体毛の下、陰部などです。それゆえ魔女かどうかを審査する場合、容疑者は髪の毛をはじめ体毛をすべて剃り落とされることになっていました。
魔女狩りの時代には魔女探索人が各地を回って何人もの容疑者の身体に針を刺し、魔女を見つけては報酬を得ていたそうです。
専用の道具として、魔女発見用の針も存在しました。中には刺すと先端が引っ込む魔女発見用針もあり、もちろん刺しても痛くありませんから、これを使えば誰でも魔女にすることができたのです。
魔女狩りで狙われたのは伝統的な魔女ばかりではなく、社会的弱者や金持ちなども対象となりました。異端審問官たちが大勢の魔女を逮捕し火炙りにした裏には、魔女を見分けるためのこのような仕組みがあったのでした。
魔女の印を持つ者と交わる悪魔 インクブスとスクブス
こうして発見される魔女たちは、さまざまな悪事を働いているとみなされました。
特に、魔女は必ずインクブス(インキュバス)やスクブス(サキュバス)と呼ばれる悪魔と、性的関係を結んでいると考えられたのです。また魔女がインクブスやスクブスを操って人間の男女と性的関係を持たせることもありました。
インクブスは人間の男性の姿をしており、女性を誘惑する悪魔です。スクブスはその逆で、女性の姿で人間の男性と交わります。悪魔たちとの性行為は夢の中で行われることが多かったので、両方まとめて夢魔(メアまたはナイトメア)と呼ばれることもあります。
インクブスやスクブスという悪魔たちが存在するという考えは、非常に古くからありました。4世紀の教父アウグスティヌスは、インクブスやスクブスという悪魔がいることを否定するのは恥知らずだと言っています。
ところで悪魔は物質的な肉体を持たないとされているので、人間と交わることもできないはずですが、インクブスなどは人間の女性を実際に妊娠させることがあると信じられていました。
これについては、悪魔が人間に憑依しているのだとか、何かの材料を混ぜ合わせて肉体を作り、その身体で性交するのだとか説明されました。
トマス・アクィナスは、インクブスが女性を妊娠させるのは自分の精液によってではなく、まずスクブスとして男性から精液を奪い、次にインクブスとなって奪った精液を使うからだと述べています。
このようにインクブスやスクブスの存在が信じられていた理由は簡単です。禁欲的な聖職者や修道士たちは、性的なことがらに大いに悩まされていたのでした。
果てしなく広がる人間の想像力に、悪魔も驚いているかもしれません。
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