川や湖、池、沼などの水辺には、そこに棲む生物を支配する力を持った「主」が棲んでいます。今回はそんな「主」の中から、女郎蜘蛛の伝説をご紹介しましょう。
目次
女郎蜘蛛ってどんな蜘蛛?
- きれいな谷川の淵や滝壺に棲む。
- 水神の使者といわれる大蜘蛛で、絶世の美女に化けることができる。
- 近づいてきた人に糸を吐きかけ絡み取ってしまう。
女郎蜘蛛(絡新婦、ジョロウグモ)はきれいな谷川の淵や滝壺などに棲んでおり、水神の使者だと考えられています。
ふだんは大蜘蛛の姿をしていますが、時には美しい女性に化け、人々に近づくこともありました。
女郎蜘蛛は谷川の淵や滝壺に近づいてきた人に糸を吐きかけ、その身体を絡み取って命を奪ってしまいます。そこで地元の人たちは女郎蜘蛛がいる場所を「蜘蛛淵」などと呼び、決して近づかないよう注意していました。
しかし事情を知らない旅人などが蜘蛛淵に近寄ってしまい、命を狙われてしまうこともあったといいます。
蜘蛛淵はまた、「機織淵」と呼ばれることもあります。女郎蜘蛛が糸を吐きだして機を織る音が聞こえてくることがあるからです。
伊豆・浄蓮滝に棲む女郎蜘蛛の伝説
静岡県伊豆市にある浄蓮滝には、女郎蜘蛛にまつわる伝説が残されています。
【浄蓮滝に棲む女郎蜘蛛の伝説 まとめ】
・ある樵が浄蓮滝の滝壺に鉈を落としてしまう。
・滝壺の底から美女が上がってきて樵に鉈を返し、「自分に会ったことは秘密にしてほしい」と言う。
・しばらく後、樵はうっかり美女のことを他人に話してしまい、命を落としてしまった。
伊豆・天城山の麓にある浄蓮滝には、1匹の女郎蜘蛛が棲んでいました。
ある日、よそから木を切りにやって来た
慌てる樵の前に、滝壺の底から妖しげな美女が上がって来ました。見ると、その手には樵が落とした鉈を持っているではありませんか。
美女は樵に鉈を返すと、こんなことを言いました。
「今日ここで私と会ったことは秘密です。誰にも言ってはいけません。さもないと、あなたの命はありませんよ」
おかしなことを言う女性だなと思った樵は、里の人々に何気なく滝のことを尋ねました。すると、あの滝には女郎蜘蛛が棲んでいるというのです。
(さてはあの女性、女郎蜘蛛だな。)
樵は心の中でひとり納得すると、誰にも女性のことを話さずに暮らすことを決めました。
ところがしばらくして仲間と酒を飲んでいる時、どうしてもあの女性の美しさについて語りたくなってしまいます。
気持ちを抑えられなくなった樵は、思う存分、あの日出会った不思議な美女について話しました。そうして満足していい気持ちで寝てしまいましたが、そのままついに目を覚ますことはなかったということです。
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