名剣エクスカリバーを手に、円卓の騎士を率いて数々の伝説を残したアーサー王。
理想の騎士、理想の王であった彼ですが、実は姉たちに憎まれ地位や命を狙われているという悩みを抱えていました。
今回はアーサー王にたびたび攻撃をしかけたという異父姉、妖妃モーガンについてお話しましょう。
目次
モーガンの憎悪の原因とは? アーサー王出生の秘密
アーサー王には父親の違う姉が3人いました。上からモルゴース、エレイン、モーガンといいます。
彼女たちはアーサー王とその父ウーサー・ペンドラゴンを激しく憎んでいました。特にモルゴースとモーガンはことあるごとに奸計を弄し、夫や愛人、息子まで使ってアーサー王の地位や生命を脅かそうとします。
彼女たちがこれほどの憎悪を抱いたのには理由がありました。
かつてウーサー・ペンドラゴンは、コーンウォール公の妻イグレーンを見初めて彼女の寝所に忍び込み、息子を産ませました。その時、コーンウォール公はウーサー・ペンドラゴンに反抗して殺害されてしまいます。
モーガンら3姉妹はコーンウォール公の娘です。そして、ウーサー・ペンドラゴンがイグレーンに産ませた息子こそがアーサー王でした。
モーガンたちにとってウーサー・ペンドラゴンは両親の仇であり、奪われた母と仇の子であるアーサー王もまた、憎悪の対象となったのです。
アーサー王は姉たちからの憎悪に戸惑いながらも、なんとか肉親としての愛情を伝え、許しを得ることができないかと試み続けました。
……しかし両者の間の溝が埋まることはなく、やがてアーサー王は姉たちの怒りを受け入れ、その陰謀に甘んじて屈するようになっていきます。
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憎悪は愛情の裏返し!? 妖妃モーガンの屈折と孤独
コーンウォール公の末娘モーガンは、ゴアの王ユリエンスの妻で、後に円卓の騎士となるユーウェイン卿の母でもありました。
彼女はまた魔術の使い手でもあり、そのためモーガン・ル・フェイ(妖妃モーガン)と呼ばれていました。彼女に魔術を教えたのは大魔術師マーリンであるともいわれ、また実は彼女は湖の妖精の一人だという説もあります。
姉たち同様にアーサー王を憎んだモーガンですが、その裏には屈折した愛情がありました。
父の仇の息子であるアーサーは、自らの生まれの呪いなど知らぬかのような純粋で誠実な少年王で、王としての度量に優れ、騎士としても勇猛。モーガンがアーサー王を憎しみの目で見るたびに、その魅力をも思い知らざるを得なかったのです。
こうしてモーガンはアーサー王に対する思慕の情を募らせ、許されぬ想いへの苛立ちや愛情の裏返しとしての憎悪を抱くようになります。
人々がアーサー王を愛することが、モーガンは気に入りません。自分は定められた憎しみゆえに彼への愛を認められないのだから、他人にもそれを許したくないというわけです。
夫ユリエンスがアーサー王と和解したことが許せず、激情のあまり夫を刺殺しようとしたこともあります。これは息子のユーウェインによって食い止められましたが、その結果、モーガンは息子の信頼までも失ってしまうのです。
夫も息子もアーサー王を慕い、モーガンは孤独でした。
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モーガンのアーサー攻撃作戦
政治的手腕に長けた姉のモルゴースは、アーサーの王国で貴婦人としての地位を維持しながら反アーサー勢力の取りまとめに精を出しましたが、モーガンはより積極的にアーサー王を害しようとしました。
モーガンの作戦
・身につけると炎と化して着用者を焼き殺す上着を贈る
・自分の恋人に王者の剣エクスカリバーとその鞘を盗ませる
・魔法で騎士ガウェインを陥れる
・深い森の中に魔法の力で囲まれた楽園を作って、多くの騎士たちを閉じ込める
→この罠は女性に対して不実をはたらいたことのない騎士でなければ解くことのできないものだったが、王妃への愛を貫くランスロット卿によって破られてしまう。
モーガンはランスロット卿が王妃グィネヴィアを愛していることを知ると、その不倫を暴露して王妃とランスロットを別れさせようと試み、さらに王妃とアーサー王の間にも破局をもたらそうとします。
しかしこの計画もうまくいかず、モーガンの努力は、結果的に姉モルゴースの陰謀に利用されることになります。
モーガンの一途な愛が叶うとき――アーサー王の最期
このようにアーサー王を苦しめ続けたモーガンですが、彼女は自分の屈折した愛情と陰険な性格を自覚していたようです。アーサー王を陥れるために利用した騎士がモーガンのために戦って死ぬと、彼女は嘆き悲しみ犠牲者を丁重に葬りました。
アーサー王への陰謀がすべて失敗するのも、心の底ではモーガンが彼を愛しており、憎しみが鈍るからでもありました。
しかし長い年月を孤独と嫉妬とに費やしたモーガンは、最後の最後にようやく願望を遂げることになります。
ランスロットとグィネヴィアの不倫がついに発覚し、アーサーの王国は分裂。さらに姉モルゴースとアーサー王の間に生まれた息子モードレッドの反乱が起き、モーガンらコーンウォール公の娘たちが願ってやまなかった復讐は成就しました。度重なるモーガンの陰謀が円卓の騎士たちの間に不安を育ませ、この事件を修復不可能な破局へと至らせたのです。
最後の戦いでアーサー王がモードレッドと相打ちになったとき、瀕死の重傷を負った彼を妖精の国アヴァロンへと連れて行ったのは、他ならぬモーガンでした。死にゆくアーサー王の傍らに座り、その肩を抱いて血まみれの頬に手を添わせたモーガンの気持ちは、どのようなものだったのでしょうか。
こうしてモーガンは、ついにアーサー王を手に入れたのです。