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日本語で触れることのできる代表的なD&D世界を紹介していこう。
ミスタラ ― 赤箱からのファンに知られた世界 ―
黎明期のD&DからAD&Dにかけては、冒険を繰り広げる世界の設定をDMやプレイ・グループがそれぞれ独自に創り出すことまでを含む遊びであった。
製品においては、シナリオであるモジュールにおいて、そのアドベンチャーの舞台の説明がされ、連作のモジュールをプレイしていくとその地域の設定もわかるという形が主流であった。
日本においてはTRPG以前にゲームブックの流行があり、冒険の舞台が作品ごと、冒険ごとに異なるのは特殊なことではなかった。さらに、説明につかう会話型記述形式をイラストと組み合わせ、読み物である「誌上リプレイ」の形式で掲載した雑誌連載により、TRPGを知らしめ、ノベライズはファンタジー・ノベルの金字塔となった「ロードス島戦記」が、"ロードス島という名の島"というオリジナルの舞台を使ったため、より「自作世界で遊ぶ」傾向は強かったと考えられる。
D&Dに話を戻すと、『ダンジョンズ&ドラゴンズ セット1:ベーシックルールセット』(以降"赤箱"、原題:Dungeons & Dragons Set 1: Basic Rules TSR 1983(4th)、新和 1985)のラインからは、「ミスタラ(Mystara)」が展開された。
「ミスタラ」は、『GAZ1 カラメイコス大公国』(原題:"GAZ1 The Grand Duchy of Karameikos" TSR 1987、新和 1988)に始まる世界設定サプリメントのシリーズ「ガゼッタ」で紹介され、日本語版でも主要なものが刊行された。
日本製のアーケードゲーム『ダンジョンズ&ドラゴンズ シャドー オーバー ミスタラ』(カプコン 1996)、『ダンジョンズ&ドラゴンズ タワー オブ ドゥーム』(カプコン 1999)、1994年のメディアワークス刊行の「D&Dルールサイクロペディア」シリーズの公式世界でもあり、ミスタラを舞台するシナリオ集も翻訳刊行された。
また日本独自のリプレイ「ミスタラ黙示録」シリーズ(『ミスタラ黙示録―D&Dリプレイ (1)』メディアワークス 1995 他)も、タイトルにあるようにミスタラが舞台である。この日本語版は当時、ルールブック、シナリオとも文庫形式で、ミスタラを舞台としたD&D小説も翻訳された。『竜剣物語〈1〉ペンハリゴンの騎士』(※1 メディアワークス 1994)に始まるシリーズがそれで、日本語版のイラストは現在「機動戦士ガンダム THE ORIGN」で知られる安彦良和が描いており、『竜剣物語〈第4巻〉開かれた魔法の門』(メディアワークス 1995)にかけて表紙を飾った。
※1:Penhaligon シリーズの原書は、"The Tainted Sword" (TSR 1992)、"The Dragon's Tomb" (TSR 1992)、"The Fall of Magic" (TSR 1993)の全3巻を、メディアワークス刊行の日本語版は全4巻に再編している。
グレイホーク ― RPGの父による世界 ―
前述したように、冒険の舞台となるダンジョンや地域を含めた冒険世界を自作することが盛んだったD&Dにおいて、D&Dの父ともいえるゲイリー・ガイギャックス(Ernest Gary Gygax 1938-2008)が、自身のキャンペーンをプレイするのに用意した世界が"グレイホーク"である。D&Dのセッションで探検する場所として「グレイホーク城」を創り出し、1972年のD&D発売以降はドラゴン誌の記事でガイギャックス自身が紹介し、TSRからグレイホークを舞台としたアドベンチャー・シナリオが刊行された。
この世界がワールドガイド式の製品としてまとめられたのは、"Gygax's The World of Greyhawk"(TSR 1980)という製品まで待つことになった。
1990年代には、グレイホークを舞台とした公式イベントでのセッションや、それ用に提供されたアドベンチャー・シナリオをプレイした結果を報告し合い、グレイホークの世界情勢へ反映する"Living Greyhawk"という、日本でのプレイ・バイ・メールに似た遊び方が、WotCのRPGA部門によってサービスされた。このサービスでは、実際の1年ごとにグレイホークの時代設定も1年進める方式で、2001年~2008年にかけて運営された。
D&D日本語版でグレイホークは、第3版『グレイホーク・ワールドガイド』日本語版(原題:"Living Greyhawk Gazetteer" WotC, 2000、ホビージャパン 2003)により、第3.5版にかけての公式世界として人気を博した。日本語で読める作品には『ホワイトプルームマウンテン』(原題:"White Plume Mountain" WotC, 1999、アスキー 2006)がある。アドベンチャー・モジュール"S2 White Plume Mountain"(TSR 1979)をノベライズした本作は、作中での呪文の扱いやアイテムの使い方、罠の仕組みと突破方法などがゲーム・システムを踏まえた描写で工夫されており、小説としての面白さだけでなくD&Dフリークの評価も高い。
グレイホークはその来歴と長さから、愛着を持つユーザー、クリエイターも多く、以後のD&D世界へ取り入れられている設定も多数ある(ほかの世界の多神の中にグレイホークの神がいたり、呪文名にグレイホークの人物名が含まれていたり、同一のアイテムが登場したり、次元を超えてやってくるキャラクターやモンスターがいたり等々)。
ドラゴンランス ― 個性的なキャラクターたちによる物語で人気を誇る ―
< 日本でも爆発的な人気を得た"ドラゴンランス"は、小説として知る人も多いだろう(原題:"Dragonlance Chronicles" 全3巻 1984- Random House、「ドラゴンランス戦記」全6巻他 1984- 富士見書房、「ドラゴンランス」全6巻他 エンターブレイン 2002、「ドラゴンランス」 アスキー・メディアワークス 2009-)。
惑星クリンのアンサロン大陸を主な舞台するこの地は、剣と魔法の世界ながら神が不在で、魔法や神の恩寵が弱いハードなファンタジー世界だ。そもそも本作は、ドラゴンをテーマにした連作のAD&D用シナリオ・モジュールの企画開発からスタートし、そのアドベンチャー・モジュール(AD&D "Dragons of Despair" TSR 1984)の紹介を目的に、セッションのプレイ内容をノベライズしたものだ。
日本でもこの翻訳小説の人気は凄まじく、剣と魔法の物語のブームを切り開いたうちの1作となり、イラストや判型を変えてたびたび再刊行されてきた。もっとも広く読まれた「ドラゴンランス戦記」の魅力はもちろんだが、小説として執筆されたシリーズ作品も、戦記につながったり、戦記のあとにいかにも起こりそうなエピソードがつづられ、特に「完結編」とうたわれた「ドラゴンランス 魂の戦争」シリーズは、竜と神々と時間による物語の構造と、キャラクターたちの行く末が白眉で、剣、魔法、竜のファンタジーかつSFとしても、面白さ満載の物語となっている(小説シリーズとしては以後も「ドラゴンランス 秘史」シリーズが刊行されている)。
ゲームに目を向けると、D&D第5版が"D&D NEXT"としてプレイテストを実施している期間にも、公式世界としてサポートが欲しいと、ファンから声が上がっていた。
残念ながらゲームにおいては、前述のAD&D用、AD&D 2nd用(AD&D 2nd"Dragonlance Adventures" TSR 1987)、第3.5版用("Dragonlance Campaign Setting" WotC, 2003)ともゲーム製品の翻訳はされていない(原書では各バージョンに世界設定以外にも多数の製品がある)。
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