一度はタイトルを耳にしたことはあるけど、じつは読んだことがない。あるいは、むかし読んだけど、内容を忘れてしまった――――
そんな、知っているようで知らない名作小説について、読んでいない者同士であれこれ語り合う新企画。読むってなんだろう? と考えるきっかけになれば幸いです。
「読まない読書会」の5箇条
1.読書会のはじめに、冒頭と結末の1ページを読む
2.すでに知っていることは話してもよい
3.間違ってても気にしない。自分の空想を語り合う
4.分からなくなったら司会にヒントをもらってもよい
5.楽しむ
◇参加者紹介◇
山田まる先生
アース・スターノベルより『おっさんがびじょ。』や『トカゲ主夫。』などの小説を発表しているライトノベル作家。読書会では「理想の吸血鬼カーミラ」として百合と耽美を掲げている。
『吸血鬼カーミラ』ついては、漫画『ガラスの仮面』に登場する作中劇で読んだことがあるという。
涼暮皐先生
最近では「失恋構文の人」としてSNS上で勇名を馳せるライトノベル作家。代表作は『やりなおし英雄の教育日誌』(HJ文庫)や『ワキヤくんの主役理論』(MF文庫J)など。
カーミラ? 『FGO』に出てきたのを知っています。というレベル。
ぱん太
パンタポルタのマスコットキャラクター。「なるほど、すごい!」「これ気になるなぁ」しか言ってない。
モーニングスター(司会)
この中で唯一、『吸血鬼カーミラ』を読んだことのある人。
目次
作者レ・ファニュと『吸血鬼カーミラ』
ジェセフ・シェリダン・レ・ファニュ(1814-1873 没58歳)
・アイルランド ダブリン出身。
・トリニティ・カレッジ卒 ブラム・ストーカーやオスカー・ワイルドも同大学卒。ストーカーは『吸血鬼カーミラ』に強い影響を受けて『吸血鬼ドラキュラ』を執筆している。
・31歳で結婚し2男2女をもうけるが、結婚15年にして夫人を亡くしている。
『吸血鬼カーミラ』は1871年から1872年にかけて雑誌『The Dark Blue』にて連載された。レ・ファニュ58歳の時の作品である。
冒頭と結末を読んでみた
注意
参加者は『カーミラ』(桜鈴堂訳)の冒頭と結末の1ページを読んでいますが、大人の事情により掲載することができません。気になる方は読んでみてください。
読書会の中で取り上げられた文章については適宜引用しておりますので、読んでいなくてもお楽しみいただけます。
読書会の中で取り上げられた文章については適宜引用しておりますので、読んでいなくてもお楽しみいただけます。
*****
ぱん太:なんだか、冒頭は延々と土地の描写が続いているね。
山田 :いかに自分の住んでる土地が寂しいかっていうのを。
ぱん太:結末に名前が出てくるマーカラって誰だろう。
吸血鬼の特徴の一つに、マーカラのほっそりした手は、斧を振り下ろした将軍の手首を鋼の万力のごとくに締めつけておったじゃろう?
結末、後ろから9行目(桜鈴堂訳)
山田 :カーミラのことだと思いますよ。吸血鬼の特徴はって書いてあるので。
ぱん太:じつは吸血鬼って何人かいるのかなって。吸血鬼複数人説!
山田 :あー、なるほど。たぶん、この女伯とマーカラとカーミラはつながりのある人物ではないかと。
卿はとある計画を練って、この地に旅して女伯の遺体を移す芝居を打ち、その墓を世間の目から完全に隠した。
結末、後ろから17行目(桜鈴堂訳)
吸血鬼について考えてみた
ぱん太:まずは、推理の糸口として小説の基本構造をヒントに考えてみよう。
――――5W1Hですね。
ぱん太:イエス!
5W1H
When……いつ
Where……どこで
Who……誰が
What……何を
Why……どうして
How……どうやって
When……いつ
Where……どこで
Who……誰が
What……何を
Why……どうして
How……どうやって
涼暮 :オーストリアの軍隊の話が出てきてるので、歴史に詳しい人はここから分かるんじゃないですかね。ボクは分からないですけど。
父はオーストリアの軍隊におりましたが、退役した後に軍人恩給と先代の遺産を元手に、この年代物のお城を周辺の敷地ともどもたいそうな安値で購入いたしました。
冒頭、前から9行目(桜鈴堂訳)
山田 :私も分からないです(笑)
ぱん太:ボクも。モーニングスター先輩は?
―――さあ? では少しヒントを。この小説の舞台シュタイアーマルク州はオーストリアの東側なんですが、現在では州の一部がオーストリアじゃなくなっており、スロベニアになっています。東欧ですね。
山田 :耽美な匂いがしてくる。たしかドラキュラ伯爵もそうですよね。
ぱん太:その辺りは『図解 吸血鬼』に載ってるよ(宣伝)。あ、TIF(Truth In Fantasy)の『ヴァンパイア』にも! でも、吸血鬼伝説ってどうして東欧に多いんだろう。
涼暮 :ブラドとかの伝承も東欧でしたよね。狼男の伝承が下敷きになっているというのを昔調べたことがあるような。
山田 :吸血鬼と狼男は関り深いですね。
涼暮 :そうそう。人のふりをして潜んでる怪物って共通点が。
山田 :あとは、吸血鬼がペストの象徴とかって話も。
涼暮 :噛まれると眷属になってしまう、つまり病気がうつる。
ぱん太:なるほど! 2人とも詳しい。
山田 :あとは、吸血鬼っていっぱい制約ありますよね。流れる水を渡れなかったり、招かれないと家に入れなかったり。
――――おお、ストーリーに近い。
一同 :えっ。
――――招かれないと家に入れないってところです。
ぱん太:へー、設定が古典ぽい。
涼暮 :最近のライトノベルに出てくる吸血鬼は弱点とか気にしないですよね。そんなの言い伝えだけだぜ、ハハハって。
山田 :あー、たしかに(笑)。赤川次郎の吸血鬼シリーズでもトマトジュース飲んでた気がする!
卿は色仕掛けで丸め込まれた
ぱん太:ところで、『わたくしども』って誰なんだろう?
ここオーストリアのシュタイアーマルク州で、わたくしどもはとりわけ由緒ある一族というわけでもございませんが、こちらでは「シュロス」と呼ばれるお城に住んでおります。
冒頭、前から1行目(桜鈴堂訳)
涼暮 :お父さんと娘では。結末に『父はわたくしをイタリア旅行に連れて行って』と書いてあるから、二人暮らしなのかなと思います。使用人は当然いるだろうけど。
ぱん太:お城に住んでるくらいだもんね。この2人は何か被害を受けたのかなぁ。
山田:最後の段落で『カーミラの面影が忘れられない』、『足音が聞こえた気がする』ってフラグ立ててるから、何かは起きてると思います! この手記を書き終わったあとに、ドアの向こうで音がするやつ。
涼暮 :ホラーの定番パターンですね。
ぱん太:主人公は怖い目にあったけど、最終的に助かったってオチだ。
山田 :結末の話からすると、卿が何かをやらかして、その子孫がわたくしのピンチを助けてくれたって流れじゃないですか?
そして今、その遠い子孫の手によって、遅きに失したとはいえ、あの魔物のねぐらがついに暴かれたというわけじゃ。
結末、後ろから12行目(桜鈴堂訳)
ぱん太:マーカラに斧を振り下ろしてる将軍とか。
涼暮 :5キロ隣のお城に住んでる、シュピーゲル将軍だ。
「最寄りの人の住んでいる村落」と申しましたが、それは、西の方角、つまりシュピールスドルフ将軍のお城のある方角に五キロも行きますと、廃村が一つあるからでございます。
冒頭、前から25行目(桜鈴堂訳)
ぱん太:最初と最後に出てくるから、将軍は重要人物だよね。あと、この物語の時間軸がよく分からないや。卿が墓を移す芝居を打ったのはずいぶん前の話だと思うんだけど……。
山田 :たぶん、卿はかつてカーミラの味方をしていた人物だったんでしょうね。色仕掛けでまるめ込まれた。それでカーミラのねぐらを隠したけど、歳をとって反省したっていう。
卿は心をあらため、わしをあの墓の場所へと導いた地図やら文書やらを記し、自分の為した欺瞞を告白する手記を残した。
結末、後ろから15行目(桜鈴堂訳)
ぱん太:「やっちゃったー」と思って手記を残した。ちなみに、その手記の内容は本編にでてくるの?
――――出てきません。ただし、手記を持っている人は出てきます。
山田 :おー! 例の「遠い子孫」って方ですかね。うちのじいちゃんがアカンことしたからって、ずっとカーミラを追ってるのかもしれませんよ。
ぱん太:そして墓を暴き、みんなで退治しに行ったんだ。斧持って。
山田 :斧持って。殺意高い(笑)。ところで、私ひとつ気づいちゃったんですけど……これ、カーミラ倒してなくないですか? 暴いたって書いてあるけど、退治したとは書いてないし、最後で「足音が聞こえそう」って言ってるし。解決しないまま終わってるのかも。
ぱん太:それは考えてなかった! 将軍が斧を振り下ろした場面でどうなったか気になる。
涼暮 :その一撃は防がれてますけどね。吸血鬼だから、殺したけど生き返るって可能性もありますよ。
山田 :確殺できてないから、また蘇ってくるかもって余韻が残ってるわけだ。
涼暮 :あと、卿って女伯の身内なんですかね。墓を移すって、他人が出来ることではない気がする。旦那か父親か、くらいな。
ぱん太:たしかに! それはありそう。
礼拝堂には墓がある
山田 :『ガラスの仮面』の作中劇では、森の中で女の子が行き倒れているのを見つけて、自分の城に招くんですよ。そうしたら、夜な夜なおかしなことが起きて、主人公の体がどんどん弱っていって。あなたの連れてきた子は吸血鬼じゃないの? って展開です。
ぱん太:じゃあ、主人公の『わたくし』がカーミラを拾った感じなのかな。
――――今のところ、5W1Hの中でWhyが出てきてないですね。
山田 :なぜカーミラは血を吸うのか。
涼暮 :自分の若さを保ちたくて、若い女性の生き血を集めてるっていうのは。
山田 :それ、エリザベートバートリー。
涼暮 :が、元ネタの話じゃなかったでしたっけ。これ。
山田 :って言われてますよね。バートリーはいつの時代の人なんだろう?
――――えーと、中世だったと思いますけど。はい、1614年に死んでますね。
山・ぱ:え、古い。
涼暮 :この城がもともと誰のものだったのか、とか関係ありますかね。周りの敷地ごと安値で購入したって。
ぱん太:怪しげだよね。何で安かったんだろう。
山田 :もしかして、この城がもともとカーミラのねぐらだったのでは?
涼暮 :秘密の地下室があったり。これ、礼拝堂がねぐらだったってことかな。
ぱん太:あ、たしか結末に出てきたよね。「礼拝堂で見た」って。
それでも、今日この日にいたってもなお、カーミラの面影が――ある時は、お茶目で物憂げな、美しい少女の顔で、またある時は、あの礼拝堂跡で見ました、おぞましく歪んだ魔性の顔で――わたくしの心に蘇ってまいります。
結末、後ろから4行目(桜鈴堂訳)
涼暮 :礼拝堂跡って書いてあるから、跡地ですね。
山田 :冒頭に『小さな礼拝堂は今や屋根も落ち』って書いてありますね。この廃村に礼拝堂があって、そこにカーミラが潜んでたんですかね。
涼暮 :礼拝堂に墓があったとか。
ぱん太:ある! ぜったい墓あるよ!
山田 :結末の『墓を移す芝居』で、わざわざ死体をここに持ってきたってこと? 『この地に旅した』って書いてあるし。
涼暮 :というか、遺体を移す芝居がそのままの意味だったら、遺体は移されてないってことになりませんか? つまり、遺体の場所が分からなくなることはないですよね。
山田 :シュタイアーマルク州に旅をして死体を移すふりをしたってことは、ここにはカーミラさんの死体はないってことになりますもんね。
ぱん太:じゃあどっから来た!? この卿の告白のあたりについて、ヒントが欲しいね。モーニングスター先輩、なにかヒントちょうだい。
レ・ファニュさんはプロットが甘い
――――それでは、結末の前のページを読んでみますね。私の持っているのは創元推理文庫なので、翻訳が違いますが。
いろんなことから総合すると、どうも生前に自分の愛の偶像だった伯爵夫人が、吸血鬼としか考えられない節がある。そういう結論が出てきたわけだね。しかしたとえ死んだ自分の恋人が吸血鬼になっても、ああいうむごい死後の処置で死体を汚すというのは、さすがに恐ろしくてならない。(中略)そういうわけで、かれは昔愛したミラーカを、そういう境遇から救おうと決心したのだ。
(平井呈一訳)
山田 :つまり、死んだ恋人が吸血鬼になっちゃった。
涼暮 :不老不死だから、毎回自分が死んだことにして、別の名前で生き直してるのかも。
山田 :あと、キリスト教って死体を大事にする風習があるじゃないですか。死後復活することが前提にあるから、死体を汚すことに対して異様に拒否感をもつんですよ。だから卿にとっては、吸血鬼かもしれないけど自分の恋人だった人の死体をバラバラにしたりとか損壊するっていうのは耐えられなかったんでしょうね。
ぱん太:その気持ちはすごく分かる。
涼暮 :ほんとそうですね。
ぱん太:ってことは、当時の人たちは吸血鬼を倒す方法みたいのを知っていたのかな?
山田 :きっと。心臓に杭を打ち込むとか、死体をバラバラにして灰にするとか。そもそもカーミラさんはどのタイプの吸血鬼なんですかね。さっき涼暮先生が言ったように、不老不死の存在なのか、死体が動き回るほうのグール的な吸血鬼なのか。
――――えっとですね……。レ・ファニュさんという方は、すごくプロットが甘いと言われている人でして。
山田 :そこまで設定を作り込んでいなかった!?
――――はい。この本のあとがきによると、プロットに緊密性がない、登場人物の性格づけが甘い、興味本位に枝葉の筋をひろげすぎて収集がつかなくなっている……という評価の方でございます。
涼暮 :ひどい言われようだ。
山田 :死んだあとにそんなこと書かれたくない!! それこそ化けてでますよ。
――――ざっくり言うと、カーミラさん長生きです。
ぱん太:不老不死のほうだ! 本当に老けないのかな。
涼暮 :バートリーで言うと、老いていくのが嫌だから若い女性の血を集めてることになりますよね。
――――動機が出てきましたね。
ぱん太:もし動機がそれなら、狙われるのは若い女の子だけだね。誰か被害にあってるのかしら。
涼暮 :過去にはきっと。『わたくし』に会ってから以降はそもそも人が周りにいないので、バッタバッタ人が死んでいくタイプのパニックホラーではなく、狙われたけど間一髪で助かったって話だと思います。
山田 :もしかして、カーミラさんが食い散らかしたから周りに人がいなくなったとか。
涼暮 :あり得ますね。卿と同じように将軍もたらし込まれていて、カーミラは将軍にバレないように礼拝堂まで来て、吸血的なサムシングをしているって話かも。
山・ぱ:サムシング(笑)
男爵は恐らくジョースター家
涼暮 :さっき読んでもらったところで、また別の名前が出てきましたね。
ぱん太:ミラーカ!
山田 :カーミラとマーカラとミラーカが出てきてますねー。完全に別の名前だと分からなくなっちゃうから、似た名前にしてるんでしょうね。
涼暮 :結末にちょっと登場するバンパイアハンターっぽい男爵が「将軍、あんたの嫁さん吸血鬼やで」って。
ぱん太:なんか吸血鬼に詳しそうだもんね、男爵。『吸血鬼の特徴の一つに』とか語ってるし。
涼暮 :吸血鬼って、ある一族とこんこんと戦い続けているイメージ。悪魔城ドラキュラとか、ジョジョもそうですよね。
山田 :たしかに、吸血鬼とヴァンパイアハンターって大体セット!
涼暮 :男爵がおそらくジョースター家(ではないけど)。
山田 :もしかして卿の血筋なんですかね、この男爵。
涼暮 :あるかもしれないですね。もともと別のところに住んでいた卿が遺体を移す芝居を打ってそのまま住み着いたとしたら。
山田 :となると、最初に出てきた将軍が子孫の可能性もある。
涼暮 :逆にわたくしが遠い子孫ってことありますかね? 父がイギリス人ってことは出てきてますけど。
一同悩み
タイトルがネタバレだよね
山田 :これって、何ページくらいの本なんですか?
――――創元推理文庫だと100ページちょっとですね。中短編集の一編です。
ぱん太:いま考えた話だと数ページで終わっちゃうね。もっといろいろ起こってるはず。
山田 :私なら、『わたくしが友達だと思ってる人は本当に友達なのか、それとも化け物なのか』って悩んで神経衰弱していく様をふくらませてページ数をかせぎますね。
ぱん太:それおもしろそう! ところで、主人公はどの段階でカーミラが吸血鬼だって分かるんだろう。
涼暮 :時代的に写真もないだろうし、カーミラを吸血鬼だと確定させるために、わたくしが囮になった可能性もありますよね。
山田 :男爵的な人がベッドとの下に隠れてたりして。
――――ちなみに、吸血鬼だって確証を得るのは起承転結の中でも結のあたりです。
山田 :雑誌連載だったから、正体が分かるまで引っぱったんだ。『以下、次号! ついに正体が明らかに!?』を繰り返す!
ぱん太:すぐに分かっちゃったらつまんないもんね。
涼暮 :でもこれタイトル『吸血鬼カーミラ』ですよ。ぜったい分からないわけない(笑)。
山・ぱ:たしかに!!
涼暮 :主人公は気づいてないかもしれないけど。友達として仲良くしてるところに男爵が来て「ここに吸血鬼の墓があるはずなんじゃ」っていう話の構成なのかなーと。「軽やかな足音が聞こえた気がして」って終わり方も、恐ろしいというより、親しみを感じますし。
ぱん太:涼暮先生するどい。
山田 :これ、わたくしが手記を書いてる年齢が気になりますね。老婦人になって少女時代のことを思い出しながら書いてるときに、記憶の中の美しい少女のままのカーミラが訪ねてきたらエモいなと思いました!
ぱん太:あー! 素敵、美しい。個人的には男爵と将軍も気になるなあ。
涼暮 :男爵は旅の吸血鬼ハンター。映画っぽく見るんだったら、怪しげなフードの人物が序盤ずっと街を歩いてて、ピンチで助けに来てくれたのがフードのおじさんで味方だったパターン。
山田 :最初に、このフードの男こそ吸血鬼かなって見せておく。
涼暮 :そうそう。ミスリードしておいて。
ぱん太:うわー! むしろその話が読みたい。
名前つけるのが面倒くさくなった
ぱん太:けっこう推理してきたけど、いくらか当たってるのかな?
――――当たってますね。けっこう当たってますけど、レ・ファニュよりちゃんとしてます。
一同 :ひどい(笑)
涼暮 :ところで、カーミラって変身する系の吸血鬼だったりします? 結末の『おぞましく歪んだ顔』が表情のことだけじゃないとしたら、跡地とはいえ礼拝堂だと吸血鬼の正体を隠せないのかも。
ぱん太:最終決戦の地っぽいね。弱体化させてやっつける!
山田 :やっぱり、わたくしは囮になったのかな。完全に私の中では百合な話になってます。
ぱん太:最後、カーミラが訪ねてくるもんね。涼暮先生がこの話を書くならヴァンパイアハンターのバトルもの?
涼暮 :百合でもいいですよ。その場合、『わたくし』のほうが本当は化け物みたいな話がいい。
山田 :なんでそんな業が深い展開にしちゃうんですか!
涼暮 :わたくしは人間だけど、カーミラよりも人間のほうが怖いみたいな。化け物と分かっててカーミラを匿う話。男爵を罠にはめて殺すくらいの。
山・ぱ:やー。こわい!
ぱん太:あれ、そういえば男爵はカーミラをマーカラとして知ってるのかな。
涼暮 :そうですね。卿の時代はミラーカだと思います。段々名前つけるのがめんどくさくなった感じしますね。
山田 :アナグラムで入れ替えればいいだろうみたいな。偽名をつくるときって、あまりにも違う名前だと反応できないから、似た名前がいいって聞いたことある。
5W1Hでまとめてみた
――――1時間15分経ちました。ほかに気になることはありませんか。
涼暮 :あと考えられるとすれば、カーミラがなぜ吸血鬼になったのかってところ。
山田 :さっき読んでもらったところで『死んだ妻が吸血鬼になった』って言い方してたから、死体が突然変異したのかな。
ぱん太:スパイダーマン的な感じで、蝙蝠に噛まれたのかも……。もしくは一定確率で死体が吸血鬼になっちゃう。
涼暮 :そんなTRPGみたいな(笑)ミラーカたまたまファンブルしたんですかね。
ぱん太:もし、もともと人間だったならカーミラにも人間的な感情があってもおかしくないね。
山田 :けっきょく百合に。
――――そろそろ5W1Hでまとめてみましょうか。
一同 :はーい。
5W1H
when……1871年くらい(書かれた年)
where……オーストリアの辺鄙な城
who……わたくし
what……カーミラというお友達ができた
why……友達のカーミラが人を襲うのは若返りのため
how……将軍と男爵に助けを求めて解決した
when……1871年くらい(書かれた年)
where……オーストリアの辺鄙な城
who……わたくし
what……カーミラというお友達ができた
why……友達のカーミラが人を襲うのは若返りのため
how……将軍と男爵に助けを求めて解決した
** * 数日後 ***
推理の正否が気になった我々は、各自で『吸血鬼カーミラ』を読み感想をまとめることにした。
『吸血鬼カーミラ』読んじゃった
※※※以下、本編のネタバレを含みます※※※
◇山田まる先生のコメント
わりとまるたちの予想あってましたね!!!!
ただちょっと意外だったのが、将軍がカーミラ退治に乗り出した理由でした。
主人公の父親が助けを求めた結果なのかな、と予測していましたが、思っていたよりもちゃんとした理由でしたね。
姪がますカーミラの犠牲になっていて、その敵を取るために将軍はカーミラを探していたのですね。
またその「姪の死」が将軍がカーミラを倒す理由としてだけではなく、主人公が同じ年頃のカーミラに惹かれていく理由にもなっているのが上手いと思いました。
孤独な少女の元に現れる美しい謎めいた少女……。
そしてまるは座談会でも言っていたのですが、主人公とカーミラの百合を推してたんですが本当にそうでしたね!
どちらかというとカーミラは獲物に恋心を錯覚させる、というような描き方をされていましたが、物憂げな顔というのが恋した相手を喰わずにはいられない己のサガに対するものでも面白いな、と思いました。
つい行間を読んでしまいがちなオタクです。
ただちょっと意外だったのが、将軍がカーミラ退治に乗り出した理由でした。
主人公の父親が助けを求めた結果なのかな、と予測していましたが、思っていたよりもちゃんとした理由でしたね。
姪がますカーミラの犠牲になっていて、その敵を取るために将軍はカーミラを探していたのですね。
またその「姪の死」が将軍がカーミラを倒す理由としてだけではなく、主人公が同じ年頃のカーミラに惹かれていく理由にもなっているのが上手いと思いました。
孤独な少女の元に現れる美しい謎めいた少女……。
そしてまるは座談会でも言っていたのですが、主人公とカーミラの百合を推してたんですが本当にそうでしたね!
どちらかというとカーミラは獲物に恋心を錯覚させる、というような描き方をされていましたが、物憂げな顔というのが恋した相手を喰わずにはいられない己のサガに対するものでも面白いな、と思いました。
つい行間を読んでしまいがちなオタクです。
◇涼暮皐先生のコメント
企画後。私は一路、オーストリアを目指した。
シュタイアーマルクの豊かな自然。そこに、あの死と退廃で彩られた愛の面影は見受けられない。
だがなぜか。私は少女たちの楽しげな声を感じずにはいられない。空想の惨劇と、その裏にて誤った形で発露された――けれど決して間違いではない愛を夢想する。
いるのだ。ここに彼女が。
すみません、そこの麗しきレディ。ちょっとお訊ねしたいことが……え、献血? ああ、別に構いませんけれど、あの、なんで口を開い――あっ、
――これは、死と退廃とを孕んだ愛。
みたいなところで、いやお前に愛の何がわかるの? とか訊かれると答えに窮しつつもすっと『吸血鬼カーミラ』を差し出していくことにします。
なにせ愛って情動は不思議なもので、こいつは自分の裡から湧き上がってくるモノでありながら、決してひとりでは生み出せないモノでもあります。少なくともぼくにとっては。
喜怒哀楽程度なら、なにぶん不安定な情緒がひとりでもしれっと育んじゃうというか、むしろひとりってそれだけで割とアレじゃないですか、みたいな……だけど誰かといるとひとりになりたくなったりもして……拗らせ……。
そういう、こう、感情の向きみたいなのって自分ではどうしようもなかったりするものです。
吸血鬼のカーミラさんも、そんな、なんか自分ではどうしようもない情動みたいなものと向き合ってたのかな、と考えてみたりして。いやカーミラさん、結構あなたローラちゃんのこと好きでしょう、っていう。これはリリー。
けれど結局、出し方を間違った他者愛は、やがて自己愛に堕すのです。
死を前提しなけらばならない吸血鬼が、娘にしてあげられたことがそれしかなかったように。
自分の中にある気持ちが、自分ではない誰かに向いたとき、それをどう制御するかっていうのが人間として考えなければならないことなんだと思いますね。伝えるか、伝えないか。伝えるとして、その方法をどうするのか。
一方的に感情を押しつけ、それを誤った方法で発露してしまう存在。
それを指して、我々は《怪物》と呼びました。
愛を、愛し方を、その方法と伝え方を怪物はひとつしか知らない。ゆえに怪物は、最後には倒される。
しかしそんな怪物(カーミラ)にも、紐解いてみれば、たったひとつ大事にしていた想いというものがあったんですね。
わかるよ。わかんなかったんだよな。それしか知らなかったから。
でも、そいつはやっぱり間違いで、彼女が怪物であったことに違いはなく。
だとしても、きっと彼女が抱いていただろう気持ちは嘘ではない、と思いたいところですね。失恋モンスターとしては。
いや誰が失恋モンスター?
そんな感じで、『吸血鬼カーミラ』でした。
まったく感想文になってないぞぅ……おかしいな……。
シュタイアーマルクの豊かな自然。そこに、あの死と退廃で彩られた愛の面影は見受けられない。
だがなぜか。私は少女たちの楽しげな声を感じずにはいられない。空想の惨劇と、その裏にて誤った形で発露された――けれど決して間違いではない愛を夢想する。
いるのだ。ここに彼女が。
すみません、そこの麗しきレディ。ちょっとお訊ねしたいことが……え、献血? ああ、別に構いませんけれど、あの、なんで口を開い――あっ、
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以下、涼暮先生がオマケでくれました。
――これは、死と退廃とを孕んだ愛。
みたいなところで、いやお前に愛の何がわかるの? とか訊かれると答えに窮しつつもすっと『吸血鬼カーミラ』を差し出していくことにします。
なにせ愛って情動は不思議なもので、こいつは自分の裡から湧き上がってくるモノでありながら、決してひとりでは生み出せないモノでもあります。少なくともぼくにとっては。
喜怒哀楽程度なら、なにぶん不安定な情緒がひとりでもしれっと育んじゃうというか、むしろひとりってそれだけで割とアレじゃないですか、みたいな……だけど誰かといるとひとりになりたくなったりもして……拗らせ……。
そういう、こう、感情の向きみたいなのって自分ではどうしようもなかったりするものです。
吸血鬼のカーミラさんも、そんな、なんか自分ではどうしようもない情動みたいなものと向き合ってたのかな、と考えてみたりして。いやカーミラさん、結構あなたローラちゃんのこと好きでしょう、っていう。これはリリー。
けれど結局、出し方を間違った他者愛は、やがて自己愛に堕すのです。
死を前提しなけらばならない吸血鬼が、娘にしてあげられたことがそれしかなかったように。
自分の中にある気持ちが、自分ではない誰かに向いたとき、それをどう制御するかっていうのが人間として考えなければならないことなんだと思いますね。伝えるか、伝えないか。伝えるとして、その方法をどうするのか。
一方的に感情を押しつけ、それを誤った方法で発露してしまう存在。
それを指して、我々は《怪物》と呼びました。
愛を、愛し方を、その方法と伝え方を怪物はひとつしか知らない。ゆえに怪物は、最後には倒される。
しかしそんな怪物(カーミラ)にも、紐解いてみれば、たったひとつ大事にしていた想いというものがあったんですね。
わかるよ。わかんなかったんだよな。それしか知らなかったから。
でも、そいつはやっぱり間違いで、彼女が怪物であったことに違いはなく。
だとしても、きっと彼女が抱いていただろう気持ちは嘘ではない、と思いたいところですね。失恋モンスターとしては。
いや誰が失恋モンスター?
そんな感じで、『吸血鬼カーミラ』でした。
まったく感想文になってないぞぅ……おかしいな……。