この世界はどのように成り立っていて、死後の世界はどんな場所なのか――
「あの世」と「この世」の仕組みは、いつの時代も根源的な疑問のひとつではないでしょうか。
その問いに答えるため、古来より神話や宗教はさまざまな解釈をしてきました。
この記事では、旧約聖書の世界におけるあの世とこの世について解説します。
目次
ノアの洪水の仕組みも!水に囲まれた旧約聖書の世界
まずは世界全体の成り立ちについて解説しましょう。
旧約聖書によれば、世界は「原初の海」と呼ばれる水に囲まれています。
神は原初の海の水の中に球形をした空間を作り、そこに世界を作り上げました。世界を囲む水は「上方の水」と「下方の水」に分けられ、下方の水は原初の海とつながっているともいわれます。
世界の天空は丸い天井のようで、太陽と月、星々が配置されています。天空には「天の窓」もしくは「天の水門」と呼ばれる穴が空いています。神が天の窓を開くと上方の水が地上へ降り注ぎ、雨となるのです。
対する地上には「深淵の源」と呼ばれる裂け目があり、神がこれを開くと下方の水が溢れ出て大地を潤します。
天の窓や深淵の源は、適度に開かれれば地上への恵みとなります。
しかし手加減なしに開きっぱなしになると、洪水の原因となります。
旧約聖書の『創世記』には、「ノアの方舟」と呼ばれる有名な物語が収められています。
地上に悪がはびこるのを嘆いた神は大洪水で人間を死滅させてしまおうと考え、心正しいノアにだけ洪水の到来を告げました。ノアは方舟を造って身近な人々と生き物たちを乗せ、大洪水を生き延びました。
この洪水も、神が天の窓と深淵の源を全開にしたために起きたのです。
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計測厳禁? 柱に支えられた旧約聖書の地上世界
旧約聖書によれば、地上世界は皿のように平板で、陸と海に分かれています。下方の水が集まってできたのが海で、その際に乾いたのが陸です。
地上世界は何本もの柱で支えられています。この柱は「地の基」または「地の柱」と呼ばれ、神が柱を揺るがすと地上世界には地震が起きます。
神は怒りによって、しばしば各国の陸を支える地の基を破壊しています。
ところで神は、どういうわけか天の高さと地の基の深さを測られるのを嫌っています。
もしそんなことをされたら、イスラエルの民を拒むとさえ宣言しているのです。
天空には神の国である天上の宮があり、地上世界の下には死の国である「陰府(シェオル)」があります。もしかすると、そうした世界の存在や仕組みを人々が知ることを、神が嫌がったのかもしれません。
旧約聖書の死の国 陰府(シェオル)と地獄(ゲヘナ)
いよいよ死後の世界を解説していきましょう。
旧約聖書では、死者は地下世界に行くと考えられていました。その地下世界が「陰府」です。
旧約聖書の『ヨブ記』などによれば、陰府は暗く埃っぽいところです。罪人を消し去る場所であり、人々を苦しめる深い淵があるということです。
『エノク書』ではさらにひどく、蛆虫が寝床となり、死者は虫に覆われるという解説があります。この恐ろしい陰府から逃れる方法は、神の力以外にありません。
陰府はときどき擬人化され、顎で罪人を飲み込むと表現されています。
中世以降の宗教画では、陰府や地獄の入り口としてレヴィアタン(リヴァイアサン)の顎が描かれることが多いようです。
旧約聖書には陰府のほかに「ゲヘナ」という場所も登場します。
エルサレム南端のヒンノム谷という谷間にある不浄の地のことで、『列王記下』で異教の神モロクのために子供たちが生贄に捧げられた場所でした。『エレミヤ書』では呪われた地とされています。そういった背景から、のちに「地獄」の別名として用いられるようになっていきます。
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陰府の仕組みを解説した旧約聖書の偽典『エノク書』
旧約聖書の中でも偽典とされる『エノク書』には、さらに詳しい陰府の解説があります。
『エノク書』によれば、陰府は西方の巨大な山と硬い岩に開いた4つの空洞です。審判の日が訪れるまで、死者の霊魂はこれらの空洞の中に納められるのです。4つの空洞は、それぞれ納められるべき霊魂が決まっています。
第1の空洞:心正しい義人たちの魂が納められる場所で、光り輝く水の泉があります。
第2の空洞:罪人の魂が納められる場所で、彼らは審判の日までこの場所で苦しみます。
第3の空洞:罪人によって命を絶たれた人々の魂が納められる場所で、彼らはここで自らの正当性を訴え続けます。
第4の空洞:不義な罪人の魂が納められる場所です。彼らは審判の日が来ても顧みられることなく、この場所に放置されるということです。
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ライターからひとこと
キリスト教会のフレスコ画などのイメージから、聖書における死後の世界というと天使が舞い踊る明るい世界を想像してしまいます。しかし旧約聖書に描かれている死後の世界はずいぶん寂しく殺風景な場所のようです。それにしても洪水を引き起こして生物を死滅させたり、地の基を壊して地震を起こしたりと、神の怒りはスケールが違いますね。