2018年4月から第6シリーズが始まった『ゲゲゲの鬼太郎』。ねこ娘をはじめとする可愛らしいキャラクターや現代風のストーリーが話題になっていますね。
『幻想世界の住人たちⅣ』(多田 克己著)では、日本の主要な妖怪たちを多数のイラストや江戸時代の図版とともに紹介しています。
今回はその中から、ろくろ首とその仲間の妖怪についてご紹介します。
目次
ろくろ首と仲間の妖怪たち①ろくろ首
ろくろ首は普段は普通の人間ですが、寝ると気がゆるんで異常に首が伸びてしまいます。その首筋には横皺や紫筋があることが特徴です。
ろくろ首はどういうわけか女性ばかりのようで、母から娘へと遺伝するともいわれています。ろくろ首は妖怪だと考える人の他、生まれつきの異常体質の人間だと考える人もいました。
伴蒿蹊の『閑田耕筆』には、江戸新吉原の芸妓の首が、夜中客と一緒に寝ているときに1尺(約30センチメートル)ほども伸びて垂れたという目撃談が紹介されています。伴蒿蹊はこの芸妓について、寝て心がゆるむと首が伸びる性質の人間だったのではないかと考察しました。
ろくろ首について、魂が肉体から離れる離魂病の一種だと考えた人もいます。
橘春暉の『北窓瑣談』には、越前国(福井県)敦賀のとある家に雇われた下女の話が掲載されています。
この下女は持病で痰が強く、夜更けになるとよくうめき声をあげました。ある夜、主の妻はうめき声で目を覚まし、隣にあった下女の寝室を見に行きます。すると下女の枕元にあった小屏風の下に、何か丸いものが蠢いているではありませんか。灯りを近づけてよく見てみると、それは下女の首で、屏風を登ろうとしては落ち、また登ろうとしているところだったのです。
この話について作者の橘春暉は、下女が離魂病の一種に罹っているのだと述べています。下女の首が本当に体を離れたわけではなく、痰の多い人は魂が体から出てしまい、首の形を作るのだというのです。
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ろくろ首と仲間の妖怪たち②抜け首
ろくろ首の仲間には、頭がすっぽりと抜けて周囲をさまよう「抜け首」という妖怪もいました。
小川白山の『蕉斎筆記』には、抜け首病に罹った人物の話が記されています。
ある寺の住職が寝苦しくて夜中に目を覚ますと、胸のあたりに人の頭らしきものが乗っていました。住職は寝ぼけていたので気にもせず、そのまま取って投げ捨ててしまいます。 すると翌朝、住職のもとに下総(千葉県北部)出身の下男がやって来て、暇がほしいと言い出しました。住職が理由を聞くと、昨夜、胸に乗っていたのは自分の首で、腹立たしいことがあるとどうしても夜中に首が抜けてしまうのだというのです。
話を聞いた住職は、下総には抜け首病がよくあると聞いていたので納得したということです。
抜け首の中には人を襲うものもあると考えられていました。昼間は普通の人間ですが、夜中になると首が抜けて群れをなし、外を飛び廻るのです。この時、もし抜け首に見つかると襲われてしまいます。
首は朝になると体に戻りますが、自分の体が見つからないと朝方過ぎには死んでしまうということです。
ろくろ首と仲間の妖怪たち③飛頭蛮
ろくろ首の仲間をもうひとつご紹介しましょう。
「飛頭蛮(ひとうばん)」という、もとは中国で知られた妖怪です。
『和漢三才図絵』で引用されている唐代の書物『南方異物志』には、嶺南(中国南部の広東、広西、安南)の地に飛頭蛮という種族が棲んでいたとあります。彼らは夜になると頭が抜け、耳を翼にして飛び廻り、朝まで虫などを食べたということです。
東晋の頃に書かれた小説集『捜神記』にも飛頭蛮が登場します。
呉の将軍朱桓の下女の頭は、毎晩眠った後に体から抜けてあたりを飛び廻り、明け方になると戻って来るということを繰り返していました。 ある晩、同室の下女がふと目覚めた時に布団がずれていることに気づき、首のない体に布団をぴったりとかけてしまいます。すると、明け方になって戻って来た首は布団に遮られて胴体に戻ることができず、大変に苦しみました。そこで布団を取り去ると首は体に戻り、落ち着いたということです。
飛頭蛮のうなじには痕跡があるとされています。この痕跡が、日本のろくろ首に横皺や筋があると伝承された由来ではないかと考えられています。
飛頭蛮や抜け首、ろくろ首。夜中に他の人の布団をめくるのはやめた方がいいかもしれませんね。もしかすると首が伸びたり、体から抜け出してどこかを飛び廻っているかもしれませんから。
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