前回ヒルダ女史に依頼したマンドラゴラの記事はいかがだったであろうか?
彼女は一風変わったところはあるものの、植物に関する知見については本物。今後も折を見て寄稿を依頼する故、だんだんと慣れて頂ければ幸いである。
さて、今回取り上げるのはコカトリス。主に山岳地帯に生息する、雄鶏の身体に蛇の尾を持った鳥系の魔物である。
成長したの個体でもせいぜい
その理由はコカトリスが持つ「石化能力」にある。コカトリスの「視線」と「吐息」には極めて強力な毒性があり、コカトリスに見つめられたり息を浴びせられたりするだけでたちまち身体が石と化してしまうのだ。
駆け出し程度の実力では返り討ちにあうことは必定。中堅冒険者にとっても決して油断ならない獲物である。
ちなみに、同様の石化能力を有する魔物に蛇の姿をしたバジリスクがいるのだが、コカトリスはこのバジリスクから進化した魔物と言われている。
バジリスクには雄鶏の鳴き声を聞くと本能的な恐怖のあまり身動きが取れなくなってしまうという弱点がある。これを克服しようとしたバジリスクが命と引き換えに憎き雄鶏の体内へ卵を産み付けて誕生したのがコカトリスであるいうのが通説だ。
コカトリスが棲息しているのは主に険しい山の中腹である。森林や草原の中の一角にぽっかりと開いた岩場に巣を構えていることが多い。コカトリスが岩場を好むというよりも、コカトリスが棲みつくことで周囲の動植物が石化してしまい「岩場になってしまう」と言った方が正しいようだ。
即ち、冒険の道中において山腹に妙に開けた岩場があったら充分に注意しなければならない。石像になりたくなければ、迂回することが望ましいといえよう。
このように危険なコカトリスではあるが、グルメ冒険者や好事家の間では非常に人気が高い。その理由は単純、コカトリスが「極上の味わい」だからだ。
コカトリスの身のつき方そのものは、尾の部分を除けば鶏肉と大きく異なることはない。しかし、その味わいは絶品の一言。引き締まったコカトリスの身肉には野趣あふれる旨味がギュッと詰まっている。狭い鶏舎の中で育った鶏との差はまさに歴然だ。
さらに特筆すべきは「卵」である。やや褐色がかった殻を割ると、そこから現れるのは濃い黄色の卵黄。一般的な鶏卵よりも大きく盛り上がり、指先でつまみ上げることができるほどしっかりとしている。卵全体に占める卵黄の割合も多く、料理に使えばその濃厚なコクのある旨さを思う存分堪能できるというものだ。
サンダーバードがグルメ冒険者にとっての登竜門的位置づけとすれば、コカトリスはさらなる高みを目指す者たちへの大いなる試練と言える。歴戦の冒険者ですら足元を掬われる危険がある相手ではあるが、正しい対処法さえ理解していれば過度に怖がる必要はない。
自己の力を冷静に信じられる冒険者の諸君には、ぜひこの難敵に挑んでいただきたい。
■収穫方法
コカトリスを捕獲する前には必ずやっておかなければならない準備がある。それが「ヘンルーダ」を事前に採集することだ。
ヘンルーダは小さく可憐な黄色の花をつける草の一種であり、主に日当たりや水はけのよい場所に生えている。このヘンルーダ、コカトリスの石化に対して非常に強い耐性を持っており、コカトリスと対峙する前に服用しておくと視線や吐息の毒から身を守ってくれるという優れものだ。
しかも、コカトリスの巣の近くにはほぼ確実にヘンルーダが群生している。
その理由は諸説考えられているが、植物に詳しいヒルダ女史によると「ヘンルーダが無かったらコカトリスが獲物に近づいただけで石化しちゃうから、餌が無くなっちゃうんじゃない?」とのことであった。なるほど、それもまた一つの真理なのかもしれぬ。
いずれにせよコカトリスの巣のありかに目星をつけたら、近くにあるヘンルーダの群生地を先に探すことが必要だ。無事にヘンルーダを見つけたら、あとはコカトリスに挑む直前に服用すれば一安心……なのだが、ここで一つだけ問題がある。それは「ヘンルーダはとても不味い」ということだ。
私も火を通してみたり、乾燥させてから煎じてみたりと様々に試したのだが、正直どの方法も上手くいかなかった。良薬は口に苦しと覚悟して、一気に飲み下すしかないようだ。
ヘンルーダを服用すれば、あとは普通の鳥を捕まえるのと大きくは変わらない。とはいえ、コカトリスは極めて俊敏であり、鋭い嘴や爪による攻撃は決して侮ることはできない。石化能力が無かったとしても、その強さはサンダーバードよりも上。
さらに、尾の蛇の部分で噛みつかれてしまうと、石化とは別の麻痺毒に侵されてしまう。この麻痺毒はヘンルーダでは中和ができないため、くれぐれも油断は禁物である。
■食材への加工・保存
コカトリスを捕獲して最初に行うことはヘンルーダでの燻蒸による「毒抜き」である。生のヘンルーダを焚火の中に入れると大量の白い煙が出てくるので、その中でコカトリスを燻していく。
10分ほど燻せば十分に毒抜きができるのだが、この時あまり火に近づけすぎて熱が入ってしまうと一気に鮮度が悪くなるので注意されたい。燻製にするのではなく、あくまでも「煙を当てる」ことが重要だ。
燻蒸を終えたら、次に尾を切り離す。この際、先に尾の先端部分、すなわち『蛇の頭』の部分を先に落としておくのが良い。蛇の頭の部分には麻痺毒がたまっている腺があるため食べることはできない。先述したようにこの麻痺毒にはヘンルーダの効力も及ばない。さすがに捨てるほかはないのである。
尾を切り離した後は通常の雄鶏と同じように解体すれば、食肉として利用できる状態となる。もちろん身肉を取った骨、すなわち「コカトリスのガラ」を捨てることも厳禁。軽くあぶってスープを取れば、数多の美食家を虜にした極上のブイヨンを取ることができるのだ。
■調理例(レシピ)
「極上の鶏肉」として例えられるコカトリスの身肉は、どのような料理にも合う。シンプルに【塩焼き】にするだけで、その身肉から溢れる濃厚なうまみを思う存分楽しむことができる。もちろん、衣をつけて揚げても良いし、手羽などはじっくりと煮込んでポトフやスープとしても堪能できる。料理人に言わせれば「その魅力を引き出すためにとことん追求したくなる食材」、それがコカトリスだ。
そんな中で私がぜひ紹介したいのは【熾火炙りの親子とじ】。希少なコカトリスの卵を得られた時だけ食すことができる一品である。
用意するのはコカトリスの中でも最も美味と言われているもも肉の部分。それに新鮮なコカトリスの卵、玉ねぎ、粉チーズ、塩こしょう。コカトリスのガラで取ったダブルブイヨンもあるとベストだ。
まず食べやすい大きさに切ったもも肉を串に刺して炙るのだが、この時炎が立った焚火ではなく「熾火」を使うのが最初のポイント。肉が硬くならないよう熾火のじんわりとした放射熱でゆっくりと熱を加えるとともに、熾から上る香ばしい香りをつけることが狙いである。
もも肉に7割ほど火が入ったら、温めたフライパンに移して刻んだ玉ねぎとともに軽く炒める。そこにダブルブイヨンと塩こしょうを合わせたコカトリスの溶き卵を流し入れたら、ふたをして火からおろしてしまう。
これが第二のポイント、余熱でじっくりと熱を通すことで、とろとろ半熟の仕上がりとなるのだ。5分から10分ほど待ってふたを開ければ、コカトリス卵の濃厚な良い香りが鼻をくすぐることであろう。最後に粉チーズをパラりとかければ完成だ。
ちなみに、出来上がった親子とじは皿に盛りつけて食べても良いのだが、私としてはぜひライスの上に載せて食べることをお勧めする。はるか東方の地域で「ドン」と呼ばれている食べ方だ。
噛みごたえのある肉から弾ける旨味とトロトロになった濃厚な半熟卵がライスと一体となることで、その旨味が口の中で「ドン」と爆発する。コカトリスのうまさを存分に味わうのであれば、ぜひ「ドン」を試していただきたい。
最後にもう一つ。もし「孵化直前のコカトリス卵」を手に入れることが出来たら、それは大変な幸運である。その卵はそのまま茹でるだけで極上の『まろやか鶏スープ』へと早変わりするのだ。好事家たちの間では五本の指の一つに入る珍味と言われており、一生に一度食すことができるかどうかという大変貴重なものである。
ただし、これを食べる前には必ず先に「ヘンルーダ」を食しておくこと。さもなくば、その茹で卵があなたの「最後の晩餐」となってしまうからである。
「極上の鶏肉」として例えられるコカトリスの身肉は、どのような料理にも合う。シンプルに【塩焼き】にするだけで、その身肉から溢れる濃厚なうまみを思う存分楽しむことができる。もちろん、衣をつけて揚げても良いし、手羽などはじっくりと煮込んでポトフやスープとしても堪能できる。料理人に言わせれば「その魅力を引き出すためにとことん追求したくなる食材」、それがコカトリスだ。
そんな中で私がぜひ紹介したいのは【熾火炙りの親子とじ】。希少なコカトリスの卵を得られた時だけ食すことができる一品である。
用意するのはコカトリスの中でも最も美味と言われているもも肉の部分。それに新鮮なコカトリスの卵、玉ねぎ、粉チーズ、塩こしょう。コカトリスのガラで取ったダブルブイヨンもあるとベストだ。
まず食べやすい大きさに切ったもも肉を串に刺して炙るのだが、この時炎が立った焚火ではなく「熾火」を使うのが最初のポイント。肉が硬くならないよう熾火のじんわりとした放射熱でゆっくりと熱を加えるとともに、熾から上る香ばしい香りをつけることが狙いである。
もも肉に7割ほど火が入ったら、温めたフライパンに移して刻んだ玉ねぎとともに軽く炒める。そこにダブルブイヨンと塩こしょうを合わせたコカトリスの溶き卵を流し入れたら、ふたをして火からおろしてしまう。
これが第二のポイント、余熱でじっくりと熱を通すことで、とろとろ半熟の仕上がりとなるのだ。5分から10分ほど待ってふたを開ければ、コカトリス卵の濃厚な良い香りが鼻をくすぐることであろう。最後に粉チーズをパラりとかければ完成だ。
ちなみに、出来上がった親子とじは皿に盛りつけて食べても良いのだが、私としてはぜひライスの上に載せて食べることをお勧めする。はるか東方の地域で「ドン」と呼ばれている食べ方だ。
噛みごたえのある肉から弾ける旨味とトロトロになった濃厚な半熟卵がライスと一体となることで、その旨味が口の中で「ドン」と爆発する。コカトリスのうまさを存分に味わうのであれば、ぜひ「ドン」を試していただきたい。
最後にもう一つ。もし「孵化直前のコカトリス卵」を手に入れることが出来たら、それは大変な幸運である。その卵はそのまま茹でるだけで極上の『まろやか鶏スープ』へと早変わりするのだ。好事家たちの間では五本の指の一つに入る珍味と言われており、一生に一度食すことができるかどうかという大変貴重なものである。
ただし、これを食べる前には必ず先に「ヘンルーダ」を食しておくこと。さもなくば、その茹で卵があなたの「最後の晩餐」となってしまうからである。
著者注) ヘンルーダは実在する植物でもあり、観賞用ハーブとしても一般に販売されていますが、有毒成分を含むため食用できません。また、葉や茎の汁に触れるとかぶれることもあるようです。現実界にコカトリスはいないので、さわやかな香りと可憐な花を愛でることでお楽しみください。虫除けや猫除けとしても有効とのことです。
◎『若き冒険者に捧げる「食」の手引き』
参考書籍:『モンスターランド』(草野巧 著)
第1回:サンダーバード
第2回:クラーケン
第3回:コダマネズミ
第4回:アクリス
第5回:スライム
第6回:マンドラゴラ
作者:Swind(@swind_prv)
メシモノ系物書き兼名古屋めし専門料理研究家。*宝島社より小説『異世界駅舎の喫茶店』1~2巻発売中。
*KADOKAWA MFCよりコミックス1~2巻も発売中!
・別名義にて、宝島社より『大須裏路地おかまい帖』が発売中!
*ナゴレコにて「名古屋めし」レシピも紹介しています。