第5版の前夜、“D&D NEXT”と店舗イベント
ダンジョンズ&ドラゴンズ第5版は、最もユーザーの意見を取り入れたD&Dだと言える。それは“D&D NEXT”として行われた公式の“Public open playtest”によるもので、連載10回で紹介した“D&D Game Day”からのイベントの展開が土台になっている。
アナログ・ゲームの面白さは、遊んでもらってこそ伝わる、ということを世界でも特に重要視している企業のひとつは、Wizards of the Coast(以後"WotC") だろう。カードゲーム“Magic: The Gathering(以後"MTG")”で急成長し、1997年、D&Dの権利元であるTSR社を買収、2000年にDungeons & Dragons第3版を発売したことは第8回でも書いた。
WotCはMTGのビジネスのなかで、お客がゲームを買って家へ持ち帰るだけでなく、カードゲームを店舗で遊んでもらう形態を、公式イベントとして設けた。
店舗は開催の予定(日時、人数など)をウィザーズ・プレイ・ネットワーク(以後“WPN”)に申請すると、予定に応じた開催用具が送付されてくる。それには開催の手引書や、参加の景品、上位入賞者への賞品が含まれる。この公式イベントでの参加プレイヤーの成績は集計され、プレイヤーは自分のランクを知ることができ、より強くなるために商品を買い足す。商品の流通展開と合わせて、この「店舗で遊ぶ」形はトレーディング・カード・ゲームのビジネス・モデルの一環として定着する。
WotCは、D&Dも店舗で遊んでもらうことを図り、その入口として“D&D Game Day”に始まる店舗イベントを展開した。ダンジョン・マスター(以降“DM”)の手配こそ店舗の店員か、常連客に頼む形であったが、アドベンチャー、マップ、キャラクターとミニチュアなどが開催キットとして用意される手厚い豪華なイベントである。この店舗イベントが“D&D Encounters”、“D&D Encounters”と変遷していく中で、新バージョン“D&D NEXT”のオープン・プレイテストも実施された。
まず、2012 Dungeons&Dragons Experience という公式イベントで500名の参加者を集め、新D&Dの話題としたのを皮切りに、この取り組みは New York Times 、Forbesといったメディアにも取り上げられ(*1 (*2 知名度を広げて、店舗でも催される運びとなった。WotCのウェブサイトでは、プレイの感想や意見を受け付け、数回のプレイテスト版リリースに反映されていく。
アドベンチャーの内容も過渡期であることに対応
その時期は、店舗イベントで遊ぶアドベンチャーの内容も、“D&D NEXT”のプレイテストに結びついていた。アドベンチャーは『D&D Encounters 殺戮のバルダーズ・ゲート』『D&D Encounters クリスタルシャードの影』『D&D Encounters Dead in Thay』。これらはマルチ・バージョン対応として第3.5版、第4版、NEXTとデータが用意され、これらのセッションの結果も店舗イベントの結果として報告され、一番多い結末が新たな歴史となるという形でユーザーの参加を促した。最も明確に実現したのは『D&D Encounters 殺戮のバルダーズ・ゲート』の結末が、『SWORD COAST ADVENTURER’S GUIDE Sourcebook for Players and DMs』(WotC 2015)の Chapter 2 “THE SWORD COAST AND THE NORTH”に収録された「BALDUR'S GATE」の項目中に記載されたことだ(*3。
もちろんルール部分も、WotCのD&Dサイトでの解説や意図の提示や、数度の改定によって洗練されていった。
商品の『殺戮のバルダーズ・ゲート』(原題:“MURDER IN BALDUR'S GATE SUNDERING ADVENTURE I” WotC 2013、ホビージャパン 2014)用の“MONSTER STATISTICS”に記載された“D&D NEXT”プレイ用のデータの中には、最終的に第5版には非採用となったルールが一部残っていて、当時の変化の速さ、激しさがうかがえる。
(*1:The New York Times Players Roll the Dice for Dungeons & Dragons Remake(JAN. 9, 2012)(英語)
(*2:Forbes “Gamers React To New Dungeons And Dragons”(JAN 9, 2012)(英語)
(*3:同書は、Chapter 1~2が第5版におけるフォーゴトン・レルムの地理・現在の状況の紹介で、公式アドベンチャーで舞台になることが多い、ソード・コースト周辺を重点的に紹介している。Chapter3~5はプレイヤー向けで、3章が種族、4章がクラス、5章が背景と、PC向けの追加要素がバランスよく収録されている。
※記事中の日付は記事公開時のものです。
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