16世紀半ばの5月4日、フランスで1冊の本が出版されました。『百詩篇』という名のその本の作者は医師・占星術師ノストラダムス――そう、『百詩篇』とは、かつて日本で大きな話題となったノストラダムスの予言がおさめられている本です。
今回は、古今東西の予言者(預言者)のキャラクターカタログである『予言者』(高平 鳴海著)を参考に、ノストラダムスの予言について改めて検証していきます。
目次
1999年7月に人類滅亡?! ノストラダムスの予言
ノストラダムスの予言をご存知ない・忘れてしまったという方のために、まずは『百詩篇』の中から、かつて日本で話題となった予言の内容をご紹介しましょう。
「1999年、7の月、
恐怖の大王が天より姿を現すだろう、
アンゴルモアの大王を蘇生させ、
その前後に火星が幸せに支配するために」
1970年代にこの四行詩が日本で紹介されると、「1999年7月に人類が滅亡する」という意味なのではないかと解釈されたために大きな話題となり、テレビで特集が組まれたり映画も制作されるなど社会にも影響を与えました。
当時、「恐怖の大王」の正体については隕石や核兵器など様々な説が唱えられましたが、結局1999年に大きな事件は起こらず、予言は外れたとされています。
ノストラダムスの予言の謎①「恐怖の大王」とは誰か?
では、ノストラダムスの予言は本当に「1999年7月に人類が滅亡する」という意味だったのでしょうか?
ノストラダムスは16世紀のフランスに生きた人間です。当時の人々はキリスト教の世界観に支配されており、彼もまた敬虔なキリスト教徒でした。つまり、ノストラダムスの予言の解釈にあたってはキリスト教の世界観を理解する必要があります。
キリスト教には黙示録という終末予言書があり、ノストラダムスもその影響を強く受けていました。彼の予言には、この黙示録に対応している部分が多数みられます。
たとえば2行目、「恐怖の大王が天より姿を現すだろう」という部分の「恐怖の大王」とは誰のことでしょう?
キリスト教的解釈をすると、「天」は神の領域ですから、恐怖の大王とは悪魔などの類のことではなくなります。
黙示録では、世界の終末にはキリストが再臨し、神を信じない者を裁くとされています。とすると、ノストラダムスが「恐怖の大王」と表現したのは、この再臨したキリストのことではないでしょうか。
続いて4行目、「火星が幸せに支配するために」とはどういう意味でしょう?
フランス語では、「火星」という単語には戦争という意味もあります。「戦争が幸せに支配する」という文言を黙示録にあてはめて考えてみると、ノストラダムスは世界の終末に救世主が悪人を裁くことを「キリスト教徒にとっての」幸せな戦争と考えたのではないかととらえることができます。
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ノストラダムスの予言の謎②「アンゴルモア大王」とは
続いて3行目、「アンゴルモアの大王を蘇生させ」の意味を考えてみましょう。
ノストラダムスの時代、フランス南西部には「アングモア州」という場所がありました。
アンゴルモアのつづりはAngolmois、アングモアのつづりはAngoumois。たった1文字「L」と「U」が違うだけです。このことから、アンゴルモアの大王とは「アングモア地方出身の偉大なる王」のことだと考えることもできます。
そしてこの時代、アングモア地方の領主からフランス国王になった人物がいました。フランソワ1世(1494~1547)です。つまり、アンゴルモアの大王とはフランソワ1世を意味していたのではないでしょうか。
ではなぜ、ノストラダムスはフランソワ1世が1999年7月に蘇生されるなどと予言したのか――その答えはフランソワ1世の息子アンリ2世の后にあります。彼女の名はカトリーヌ・ド・メディシス。ノストラダムスの最大の保護者となった人物でした。
「1999年、7の月~」で始まるノストラダムスの予言は、一般には不吉なものだと解釈されていますが、前述のように黙示録に対応させてみると、キリスト教徒にとって輝ける新しい時代の到来を暗示する予言ということになります。
この予言を含む1568年版の『百詩篇』はノストラダムスの死後に刊行されたものですが、それ以前から草稿は世間に出回っていたとされ、カトリーヌ王妃も見た可能性があります。
世界が終末を迎える時、アンゴルモアの大王、つまりフランソワ1世はキリストによって蘇生され、キリストとともに千年王国を共同統治する――そんな予言をされて、カトリーヌ王妃はきっと嬉しく思ったことでしょう。
実際、この予言の含まれる『百詩篇』は国王に宛てた手紙も添えられており、フランス王家の人間に読まれることを前提として書かれたものでした。
ノストラダムスは『百詩篇』を書くことで、教養の高いカトリーヌ王妃に宛てて暗号のような形でフランス王家を称賛してみせ、フランス王家と懇意になるためのチャンスを掴もうとしたのです。
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ライターからひとこと
1999年当時子どもだった私はノストラダムスの予言を固く信じており、どうせもうすぐ人類は滅亡するのだから勉強なんかしたくないと駄々をこねたものでした。大人になった今、今回ご紹介したような全く異なる予言の解釈について考えることができ、改めてあの時本当に人類が滅亡しなくてよかったなぁと思います。
もしタイムマシンがあれば、16世紀のフランスに行ってノストラダムスに予言の本当の意味を聞いてみたいですね。