すぐに遊ぶための『ダンジョンズ&ドラゴンズ スターター・セット』
3月末、日本語版『ダンジョン・マスターズ・ガイド』(以降"DMG")が発売され、ダンジョンズ&ドラゴンズ第5版の“コア・ルール”がそろった。
これで、プレイヤー・キャラクターを作成して判定を行い、場所・場面にあったモンスターを登場させ、冒険の舞台や登場するマジック・アイテムを作り上げてセッションやキャンペーン・プレイを運用する、剣と魔法の冒険に挑戦する用意が整う。
6月には、前回紹介した『魂を喰らう墓』(原題:“TOMB OF ANNIHILATION”WotC 2017)が、その挑戦を受けるアドベンチャーとして立ちふさがるだろう。
とはいえ6月を待つ必要はない。この連載の第16回で軽く触れたが、『ダンジョンズ&ドラゴンズ スターター・セット』(以後"スターター")には、王道中の王道ともいえる「ゴブリン退治」から始まる、とても丁寧に記述されたアドベンチャー「ファンデルヴァーの失われた鉱山」(1~5レベル対応)が収録されている。
ダンジョン・マスター入門として、これ以上のものは今のところない。DMGと絡めてスターターを、「ファンデルヴァーの失われた鉱山」の物語を伏せた形で紹介しよう。
フォーゴトン・レルム世界でも高名な都市「ネヴァーウィンター」から始まる物語は、この地域の歴史的出来事から繋がっている“ファンデルヴァーの失われた鉱山”へ至る道すがら、登場する人物やモンスター、依頼される事件と原因などを通じて、剣と魔法の世界“らしさ”を十全に体験できるものだ。そして当の鉱山も、ダンジョンとモンスターをもって“ダンジョンズ&ドラゴンズらしさ”が溢れた場所になっている(それらには、低いレベルのプレイヤー・キャラクターが、どれだけ“死と隣り合わせ”かも含まれる ― 下手を打ったり、出目が悪ければ死ぬ危険が確実にあって、このスリルもD&Dの一部なのだ)。
"スターター"には作成済みのキャラクター・シートが入っているが、『プレイヤーズ・ハンドブック』(以降"PHB")で作ったキャラクターたちでパーティーを組み、キャンペーン・プレイとして本格的に「ファンデルヴァーの失われた鉱山」を遊ばない手はない。
作成済みキャラクターは、ヒューマン/ファイター(民衆英雄、主武装ロングボウ)、ヒューマン/ファイター(貴族、主武装グレート・アックス)、ドワーフ/クレリック(兵士)、ハーフリング/ローグ(犯罪者)、エルフ/ウィザード(侍祭)の5名だ。だがPHBを用いて作成した、それ以外の種族やクラスのキャラクターで遊ぶと、一度プレイして話の筋がわかっていても、また違う展開や、異なる体験となるセッションが楽しめるはずだ。ダンジョン・マスターを交代してプレイし、プレイ仲間みんなでTRPGのプレイ・スキルを向上させることもできるだろう。
全員に便利な「スターター・セット・ルールブック」
『ダンジョンズ&ドラゴンズ スターター・セット』は、コア・ルールに手を出していない人たちにお勧めだ。セッション参加者の全員にとって「12歳以上向け」と表紙にうたわれたスターターの「スターター・セット・ルールブック」は、セッションで必要とされる判定ルールについてPHBなみに掲載されている。目次を引いておこう。
第1章:このゲームの遊びかた
まず何をするか/6 つの能力値
第2章:戦闘
戦闘の手順/移動と位置/戦闘中のアクション/攻撃を行なう/遮蔽/ダメージと回復
第3章:冒険
移動/休憩/報酬/装備
第4章:呪文の発動
呪文とは何か/呪文の発動/呪文リスト/呪文の説明
付録:状態
“全部入り”のPHBを必要とする、キャラクター作成やレベルアップ、呪文を使うクラスの呪文を得たりする以外の判定まわりを確認するのに、「ファンデルヴァーの失われた鉱山」をはじめた時点から、その次に新たなアドベンチャーへとってからも重宝する。
ダンジョン・マスター入門向きの「ファンデルヴァーの失われた鉱山」
一方の「ファンデルヴァーの失われた鉱山」の記述も、入門むけに心砕いて書かれており、かけだしダンジョン・マスターとってアドベンチャーを進めやすい。
冒頭の部分でプレイヤーたち相互にキャラクターの自己紹介をしてもらおうとか、DM向けには依頼人のノン・プレイヤー・キャラクターとの会話が中心の場面で、どのような人物が、どのような心持ちで、どのようなことを話すのか、コンパクトだが十分に記載されている。
戦闘になるような場面では、モンスターがどうしてその場所へやってきたのか、どうしているのか、戦闘でどうふるまうのかが詳しく書かれている。建物やダンジョンのギミックも難しくない範囲で、仕掛けた者たちの工夫として関心できる出来栄えの仕組みだ。
危険を克服したプレイヤー・キャラクターへ与える経験点も明記されている。経験点については、コア・ルールの中では『モンスター・マニュアル』と『ダンジョン・マスターズ・ガイド』を組み合わせて参照するものだが、「ファンデルヴァーの失われた鉱山」を遊ぶ範囲内では、この冊子だけで済む。
作成済みキャラクターは、それぞれシート裏に5レベルまでの成長について記載されている。作成したキャラクターのレベルアップには、PHBを参照しよう。この違いから、PHBがどれだけ幅広く、個性的なキャラクターを創り出せるものであるか、わかるかもしれない。
ダイスも一式入っているスターターは、このようにD&D入門者や、TRPG初級者に、最初にプレイしてみる入門キットとして最適なのだ。
一方でD&D経験者には、「すぐに取り掛かることができる冒険」と、「スターター・セット・ルールブック」が取り回しやすいPHBの抜粋版でもある。次回は、コア・ルールをそろえているダンジョン・マスターの観点から、スターターの活用方法について紹介する。
※記事中の日付は記事公開時のものです。