これは、ダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)を初めて遊んだ者たちによる駆けだし冒険記。
TRPGにあまり馴染みのない人にも分かりやすいように、プレイヤー(PL)同士の会話やルール説明をふんだんに盛り込んだリプレイとなっているよ。
そもそもTRPGやD&Dってなあに? という人は、このコラムを読んでみてね。
→ファンタジーRPG入門
今回遊んだのは、2017年の冬に発売されたばかりの『ダンジョンズ&ドラゴンズ スターター・セット 第5版 日本語版』に載っている初心者向けシナリオ!
スターター・セットというだけあって、シナリオの随所にダンジョン・マスター(DM)のための丁寧な解説がついているから、初めてDMをするよって人でも遊びやすいんだ。
ちなみにボク、ぱん太もゲームの管理者になるのは初めて。ドキドキだね。
*ぱん太宅にて
ぱん太:ニャルさん、ぽる太。いらっしゃい! いきなりだけど、今日はD&Dで遊ぼうよ。
ニャル:え!? 仕事の相談は?
ぽる太:どうやらいっぱい喰わされたようじゃな。
ぱん太:だって、D&Dやるよって伝えたら2人とも前もってルールを読んできちゃいそうだから。それじゃあこの企画の意味がないんだもの。
題して……
「D&Dのことをほとんど知らないメンバーでいきなり遊んでも楽しめるの? 」企画~!
ニャル:おー(ぱちぱち)。でも、「はいやりましょう」で遊べるものなの? TRPGって。
ぽる太:経験者がマスターをつとめて、プレイヤーにルールを説明しながら遊ぶことが多い気がするのう。
ぱん太:そんなにホイホイ友達に経験者がいるとは限らないよ。
ニャル:まあ、とりあえずぱん太くんに付き合ってみようか。せっかく来たんだし。
ぽる太:ふむ。乗りかかった船というやつですな。
ぱん太:楽しめるといいね!
ふたり:(なんでそんな他人事なんだ)
*参加者紹介
ニャルラトテップ
パンタポルタの顧問。大手IT企業に勤めていたフリーランスの人。毛の生えた動物が好き。TPRG初心者で、もちろんD&D初プレイ。
ぽる太
ゲーム会社勤務。ぱん太と一緒にクトゥルフ神話TRPGを遊んだことがある。
冷静な狂人タイプ。デジタルゲームは詳しいが、TRPGはずぶの素人。言うまでもなくD&D初プレイ。
ぱん太
パンタポルタのパンダ。ソードワールド2.0とクトゥルフ神話TRPGを少し遊んだだけの初心者。ホビージャパン様のご厚意により第5版の体験会へ参加したことがあるため、唯一のD&D経験者。しかし初DM。*キャラクターメイク
ぱん太:今日はボクがDMをするよ! ということで、さっそくだけどこの5人の中から好きなキャラクターを選んでね。
じゃじゃーん! スターター・セットに入ってる便利アイテムその①サンプルキャラシート
ニャル:たくさん数字が書いてあるけど、何につかうの?
DM:それは、各キャラクターの能力値だよ。ステータスだね。本当ならダイスを振って能力を決めるんだけど、はやく遊びたいから今日は省略!
ちなみに、裏面にはキャラクターのバックボーンも書いてあるよ。
ぽる太:じゃあ、わしはこのキャラにしよう。
DM:ぽる太はローグにするんだね。ローグっていうと、盗賊のイメージだけど……。
ぽる太:犯罪者と書いてある。
ニャル:そんなヤバそうな人と2人旅するのか。うーん、じゃあ私はファイターにしようかな。強そうだし。
DM :(ほっ……魔法使う人いなくてよかった)じゃあ、それぞれキャラクターの背景を読んで名前を決めてね。その間にボクはルールを読む。
・・・10分後・・・
DM:10分でルールを把握するのは無理だったから、遊びながら確認しよう。
ぽる太:むしろなぜ10分でいけると思った。
コホン、わしのキャラクターの名前はアルトン。
DM:おお、それっぽい! 由来はなに?
アルトン:これ(キャラシート)にハーフリングのよくある名前がいくつか載ってたから、その一番上にあったやつじゃ。
DM:愛着のカケラもない選び方だね……ニャルさんは決めた?
ニャル:……
DM:ニャルさん?
ニャル:それが、思ったよりこれまでの人生が細かく決められていたから、まだ私にこのキャラクターを受け入れる心の準備が……。
DM :(真面目すぎる!)な、なんとなくで大丈夫だよ。とりあえず名前を……
ニャル:そうね。キャラシートによると、ヒューマン全体のよくある名前はないみたい。いろんな言語での伝統的な名前が書いてある。
DM:アメリカのジョンとか日本の太郎みたいな感じかな。
ニャル:とりあえず、このケリって名前にする。
DM:ケリかあ、短くていい名前だね。なんて言語なの?
ケリ:チョンダス語。
DM:チョンダス語とケリのイメージが結びつかない……(っていうかチョンダス語ってなんだろう)。
まあとにかく、キャラクターもできたし冒険を始めよう!
こうして物語はようやく幕を開ける。
*PCデータ
キャラクター名:アルトン
プレイヤー名:ぽる太
クラス:ローグ
外見:ドワーフよりもっと小さな人型の種族「ハーフリング」で、人好きのする青年
メイン武器:ショートソード、ショートボウ
プレイヤー名:ぽる太
クラス:ローグ
外見:ドワーフよりもっと小さな人型の種族「ハーフリング」で、人好きのする青年
メイン武器:ショートソード、ショートボウ
キャラクター名:ケリ
プレイヤー名:ニャルラトテップ
クラス:ファイター
外見:芯の強そうな目をした女性。美しい黒髪が自慢
メイン武器:ロングボウ、グレートソード
プレイヤー名:ニャルラトテップ
クラス:ファイター
外見:芯の強そうな目をした女性。美しい黒髪が自慢
メイン武器:ロングボウ、グレートソード
*冒険の導入
DM:今日は、このスターター・セットに入っていた初心者向けシナリオ『ファンデルヴァーの失われた鉱山』のパート1を遊ぶよ!
ふたり:はーい。
DM:ところでD&Dといえば、剣と魔法の世界を舞台に冒険を繰り広げるファンタジーRPGだね。エルフやドワーフ、ゴブリンといった、今ではゲームや映画でお馴染みのキャラクターも登場するよ。
まずはみんなをファンタジー世界へ誘うため、この世界の状況を説明しておこう。
シナリオの冒頭に「物語の背景」って書かれた項目があるんだけど、長いから要約するね。
――はるか昔のこと。“波音の洞窟”と呼ばれる、魔法の力にあふれた洞窟があった。そこで作り出された魔法の品々のおかげで、近隣の街ファンダリンはとても栄えていたそうな。
だけど、魔法の宝物に目をつけたオークたちの侵略を受け、戦いの最中に洞窟は埋もれてしまったんだ。
それから何世紀も経ったいま、ロックシーカー兄弟という3人のドワーフが洞窟への入り口を見つけたらしいよ。
その噂を聞きつけた謎の組織「黒蜘蛛」が、洞窟を独占しようと暗躍し始めている――
だけど、魔法の宝物に目をつけたオークたちの侵略を受け、戦いの最中に洞窟は埋もれてしまったんだ。
それから何世紀も経ったいま、ロックシーカー兄弟という3人のドワーフが洞窟への入り口を見つけたらしいよ。
その噂を聞きつけた謎の組織「黒蜘蛛」が、洞窟を独占しようと暗躍し始めている――
アルトン:何やらお宝の匂いがする。
ケリ:お宝よりも面倒くさい話が舞い込んできそうで、きな臭いのだけど。
DM:さて、物語はファンダリンから始まるよ。2人はどうしてこの街に来ることになったのか、自己紹介がてら話して欲しいな。
アルトン:わしから話そうか。
名前はアルトン。裏稼業でお金を稼いでるくせに小心者という設定じゃ。少し前までファンダリンで荒稼ぎしてるギャングに入っていたが、組織のスケープゴートにされそうになり、命からがら逃げ出した。
しかし、金の匂いを嗅ぎつけて再びファンダリンへ戻ってきている。こんな感じでいいかな?
DM:うん、いいと思う! でも命からがら逃げ出した街に戻ってくるなんて、小心者なのか大胆なのか。
アルトン:小心者のくせにチンピラやってるくらいだから、何も考えてないんじゃろ。
DM:(ギャングってチンピラなのかな)じゃあ、ケリさんお願いします。
ケリ:私はケリ。幼い頃に住んでいた村を噴火で無くし、流浪の生活を送っていたの。数年前からはネヴァーウィンターという港町で働いているわ。ちなみに、意地の悪い船長に立ち向かったことがあるみたい。
DM:なんかアルトンと真逆の性格だね。
ケリ:むしろ、彼の更生にぴったりの相棒じゃない? ファンダリンに来ている理由はどうしようかな。このキャラクターの人生にファンダリンがまったく関わってないのだけど。
DM:あ、それならシナリオに用意されてる「冒険の導入」を使うよ。ネヴァーウィンターから始まるからぴったりだ。
アルトン:わしはファンダリンにいていいのかい?
DM:うーん。できれば一緒に導入やりたいなあ。
アルトン:わかった、じゃあファンダリンに行く途中でネヴァーウィンターに立ち寄ったことにしよう。
*はじまり
DM:ネヴァーウィンターで船の荷運びをしていたケリの前に、一人のドワーフが現れました。
名をグンドレン・ロックシーカーというこの男は、ケリと知り合いです。さあ、いったいどんな知り合いでしょう。
ケリ:そんな名前の人知りません。
DM:もしかしたら知り合いかもしれないよ。よく思い出してみようよ。
ケリ:TRPGってそういうゲームなの……?(*1)。まぁ、港で働いてるからケリは顔が広いのね。グンドレンはよく港に訪れる顔見知り。酒場で会えば世間話するくらい。
DM:うん、オーケー。ちなみに、アルトンもグンドレンと知り合いだよ。
アルトン:ふむ。たしかロックシーカーは例の洞窟を見つけたドワーフだったね。ということは、おそらくファンダリンにいたのじゃろうから、そこで裏の仕事を手伝ったことがある……という感じかの。
DM:ありがとう! あらためて話を進めるね。
ケリの前に現れたグンドレンは、ある頼みごとを持ちかけてきたよ。
「荷車いっぱいの荷物をファンダリンへ届けてほしい。俺と兄弟がすごいものを発見したんだ」と言っている。
さらに
「バーセンのよろず屋まで無事届けてくれれば、金貨10枚を支払おう」
と続けた。
それから彼は、シルダー・ホールウィンターという名の戦士を護衛に連れて、馬で先に出発しちゃう。
これと同じ話をアルトンにも持ちかけているよ。
アルトン:わしはノリノリで受けるじゃろ。お金に困ってるもん。
ケリ:断ることはできないの? 言ってることに嘘がないか確かめたり。
DM:クトゥルフっぽい!(*2) D&Dはどうなんだろう。シナリオでは強制イベントっぽいけど……せっかくだからロールしてみようか。
じゃじゃーん! スターター・セットに入ってる便利アイテムその②ダイス
ケリ:ロール?
DM:キャラクターの行動が成功したか失敗したかダイスで決めるんだ。ケリにはこの20面ダイスをひとつ振ってもらうよ。ルールブックを見るに【判断力】になるのかなあ。
【判断力】:知覚と洞察をあらわす。
ま、これでいっか。それから、難易度も決めるから少し待っててね。
(難易度については、簡単=10、標準=15、困難=20って書いてある。シルダーは本当のことを自慢げに話しているから、簡単でいいかな)
お待たせ! じゃあ、ケリはd20をふってね。
アルトン:本日の初ロールですな。
ケリ:……(コロコロ) 11。
DM:ええと、キャラシートに載ってる判断力系の技能がプラスになってたりしない?
ケリ:〈看破〉が+1で、〈知覚〉が+3……かな?
DM:この場合は〈看破〉がよさそう。
ケリ:じゃあ、合計で12になる。
DM:うん、成功!
合計の値(訳注:これをロール結果と言うこともある)が目標値“以上”なら、そのロールは成功である。目標値“未満”なら失敗である。
社会にもまれて育ったケリはこれまで培ってきた洞察力により、グンドレンの真意を見抜いた!
彼はずいぶん興奮していて、嘘はついてないし、ケリを担ごうとしているとも思えない。
ケリ:若い頃の苦労はするものね……って、結局なにも分からなかったってこと?
アルトン:それもまた人生。
DM:まあ、とにかく2人は依頼を受けることにしたんだ。話は数日後に進むよ。
ケリ:早っ。
DM:そう書いてあるんだもん。さて、君たちはファンダリンに向かう途中のトライボア街道に入ったところ。まだ何も問題は起こってないけど、この辺りは無法者や山賊がうろついている危険な場所らしい。
ケリ:無法者の山賊が隣にいて何も起こってないのが奇跡ね。
アルトン:数日間2人がどんな会話をしてきたのか気になりますな。
変な輩が現れたら、自分より強そうなこの女性を人質に逃げよう…と思いながら進んでおる。
DM:気持ちのいいくらいクズキャラだね! ところで、荷車には御者が必要みたいだよ。どっちが御者をするか教えてね。
ケリ:それなら私が御者をするから、アルトンは先を歩いて危険なものがないか偵察して欲しいな。彼に荷物を預けるとちょろまかしそうだし、動物は好きなの(〈動物使い〉+3)。
DM:なるほど、説得力がある! そんなあなたにインスピレーションを授けよう。
自分のキャラクターをうまくロールプレイした(そのキャラクターらしいことをさせた)プレイヤーに報いるというものがある。
*ぱん太からひと言:インスピレーションの使い方は後編で説明するよ。
アルトン:そこまで言われちゃ仕方ない……わしは荷車に先行して偵察するかの。この辺で。
※隊列のイメージ画像です |
DM:隊列が決まったね。
さて、2人がトライボア街道に入って半日が過ぎようとしているよ。
道の曲がり角に来かかったとき、50フィート(15m)ほど前方に2頭の馬が倒れて道を塞いでいることに気がつく。
それぞれの馬には黒い矢羽のついた矢が刺さっていて、死んでいるようだ。ちなみに、この道の両側は小高いやぶがすぐそばまで迫っているよ。
アルトン:う、馬がしんでる!!
ケリ:騎手はどこへ行ったのかしら……。物盗りだとしたら失敗した? ちょっとアルトンさん、あの馬を調べてくれない? このままじゃ先に進めないもの。
アルトン:こんな明らかに罠っぽいところ、わしは断じて進まんぞ!
DM:ケンカはやめようね。哀れなアルトン君にはチャンスをあげるよ。【判断力】〈知覚〉を振ってみて!
アルトン:なんか嫌な予感しかしない……5。
DM:うん。アルトンは持ち前の鈍感力を発揮して、辺りには何も異常がないように思ったよ。
ケリ:ホラー映画で「何にもいないじゃないか」って言いながら最初に死ぬヤツだ……。
アルトン:ふう、ガラにもなくビビってしまったのう。なあに。ただ馬が死んでるだけさ。
DM:そこでアルトンはあることに気がつくんだ。倒れている馬は依頼者のグンドレンとそのお供シルダーが乗っていた馬で、死体の様子からして死後1日は経過している。
アルトン:いったい何があったのじゃ。とりあえず、金目のものは落ちてないかの?
DM:その前にケリに報告しなくていいの?
アルトン:彼女が来る前に回収しておこうかと。
DM:その徹底したクズっぷりにインスピレーションをプレゼント! ちなみに、鞍袋は引っかき回されたあとで空っぽ。近くには革製の地図ケースが落ちてるよ。何も入ってないけど。
アルトン:インスピレーションは嬉しいけど、金目の収穫はなしですな。
DM:さて、鞍袋を漁っていると……(隠れてコロコロ) と、いつの間にかやぶの中から4体のゴブリンが出てきて、アルトンの周りを囲っていた!
アルトン:えっ! 4体⁉
ケリ:もうアルトンは助からない……私にできることは、彼の分まで生き
アルトン:ちょっと待たれ! DM! このメンバーでゴブリン4体は無理じゃ!
DM:うーん。2人しかいなもんね……あっ。シナリオの説明に4~5人用って書いてあった。
ケリ:ハイキングコースどころか登山コースだったのね(※3)。
DM:ごめんね! ゴブリンは2体にしよう(※4)。 じゃあ、改めて。アルトンへの不意打ち判定で、初戦闘のはじまりはじまり。
*1
これは、ぱん太がシナリオの段取りを決めていなかったことが原因。
ガイドには、冒険を始める前に「知り合った経緯」を考えてもらうよう指示がある。
*2
クトゥルフ神話TRPGの〈心理学〉技能のこと。この能力が高いと嘘を見抜きやすくなる……かもしれない。
*3
ゲーム「バイオハザード」シリーズ1作目のHDリマスター版で選択できる難易度の種類。【散歩=ベリーイージー、ハイキング=イージー、登山=ノーマル】ケリは散歩のつもりだったと思われる。
*4
ちなみにD&D第5版では、プレイヤー参加の人数(多い場合、少ない場合)に対応するモンスター数の調整のアドバイスが書いてある。記述のままプレイしてPCたちが負けてしまうより、セッションが楽しいものになるよう調整することが推奨されているのだ。詳しいモンスターの増減方法は、『ダンジョン・マスターズ・ガイド』に記載されている。
*小ネタ紹介
本リプレイのタイトルは、第6回ネット小説大賞で期間中受賞が決まった『ファンタジーをほとんど知らない女子高生による異世界転移生活』のパロディ。パンタポルタでインタビューをしている! ▽
【インタビュー】第6回ネット小説大賞 期間中受賞!『ファンタジーをほとんど知らない女子高生による異世界転移生活』コウ先生
ダンジョンズ&ドラゴンズ 日本公式サイト
http://hobbyjapan.co.jp/dd/
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