ケルト神話は、いくつかの物語によって構成される神話群です。
何となく興味はあるけど難しそう。話のネタとして知っておきたい。好きなキャラクターがどんな活躍をしていたのか気になる。
そんな方に向けて、ケルト神話のあらすじや名シーンを分かりやすくまとめました。
第1回目は、アイルランド開拓の神話と歴史を伝える物語――来冠神話群を取り上げます。
目次
来冠神話群のあらすじ
世界の西の果て、後にアイルランドと呼ばれる島――エリンが物語の舞台。
この島にはいくつもの入植者たちがやってきたが、その度に疫病とフォーモリアという怪魔によって退けられていた。
島から去った一族のひとつフィル・ボルグは、先祖の遺志を継ぎエリンへの再入植を果たす。彼らは政治を整えはじめるが、繁栄は長くは続かなかった。
魔術と工芸に優れ、神とも呼ばれる種族トゥアハ・デ・ダナンがやってきたのである。
争いの末、フィル・ボルグは島の北西に敗走し、王の座に着いたのはフォーモリアとトゥアハ・デ・ダナンの混血児ブレスだった。
しかし、王としての適性が皆無だったブレスは民衆の反発を受け退位させられてしまう。島を逃れたブレスは、彼らを制圧するためにフォーモリアの軍勢を率いて島へと来襲する。
この窮地に現れたのが、ブレスと同じく混血児である光神ルーグ。
ルーグはトゥアハ・デ・ダナンたちを率いてフォーモリア軍と交戦し、見事勝利をおさめる。
こうして権力を取り戻したトゥアハ・デ・ダナンであったが、間もなく侵略にやってきた次なる種族ミレシアにより島を追われ、地下や異界に逃げ込むこととなったのである。
そして、神々の時代は終わり、エリンの地に英雄の時代が訪れた――
ざっくり用語説明
*フォーモリア
牡山羊の頭に人間の体をもつ怪物で、常にアイルランド民の敵対者。中には輝くばかりに美しいものもいる。
北欧のヴァイキングとも、自然現象の擬人化ともされ、フォーモリアという名前の意味には諸説ある。
*フィル・ボルグ
名を「革を持つ人」に由来する。革袋の船に乗っていたから、奴隷になり革袋の土嚢を運ばされていたから、彼らが信仰する神の名からなど諸説ある。
政治に優れ、現在に残るアイルランドの区分や古代アイルランドの政治形態は、フィル・ボルグによって基礎が整えられたとされる。
*トゥアハ・デ・ダナン
トゥアハ・デ・ダナンの語は「女神ダーナの一族」と解釈されることが多く、未知なる土地からやってきた神々の一族。
ケルト神話の中でも名を知られるルーグやダグザ・ヌアザなど、多くの神がこの一族に含まれている。
*ブレス
「アイルランドの美しいものは全てブレスと比べられるだろう」と言われるほど、非常に美しい姿をしていた。しかし、怠惰でケチな性格のため民衆に王座を追われてしまう。
一部の資料によると、ルーグにより牛乳に見せかけた沼の水を飲まされて亡くなったらしい。
*ルーグ
イルナーダ(百芸)の異名があるだけに、複雑な来歴をもつ。フォーモリアとトゥアハ・デ・ダナンの戦士の間に生まれるが、産まれた直後にフォーモリアの魔王に殺されかけ、ほかの神々によって育てられる。温厚で愛情深い反面、敵対する者には容赦がない。ケルト神話の英雄クー・フーリンも彼の息子。
*ミレシア
エリンの地を訪れた最後の来訪者であり、アイルランド人の先祖といわれている。
ミレシアの指導者ミレーは『旧約聖書』に登場するノアの息子の末裔。トゥアハ・デ・ダナンが魔術を用いて起こした嵐を、ミレーの息子のひとりアマーギンが詩の力で退けたという逸話が残っている。
妄想名シーン
――養子として育てられた光神ルーグ。彼は21歳のとき、トゥアハ・デ・ダナンを支配していたフォーモリア族の圧政に対抗するため王宮に訪れる。しかし、門番は見知らぬ若者であるルーグを通そうとはしなかった。
「お前に何か特技があれば、宮殿に入れるよう取り計らうと約束しよう」
「特技ならある! 大工、鍛冶はもちろん、戦士であり詩人、楽師、媒酌人、科学者、医師でもある。船だって乗りこなせる」
「ははは。お前が挙げた分野には、もうそれぞれに専門家がいるから間に合っとる」
「それじゃあ尋ねよう。これらの技術をすべて一人でこなせるものはいるのか?」
こうしてルーグは「何でもできる男」として認められ、王宮へ通された。
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