ギルガメッシュといえば、数々のアニメやゲームで人気のキャラクターですが、元は古代メソポタミアの伝説的な王だったことはご存知ですか?
『オリエントの神々』(池上正太 著)では、世界最古の文明の地・オリエントに生まれた様々な神々について解説しています。今回はその中から、ギルガメッシュの英雄譚をご紹介します。
目次
半神半人の英雄 ウルクの王ギルガメッシュ
ギルガメッシュ(ギルガメシュ、ビルガメシュ)は古代シュメールの都市ウルクの第1王朝5代目の王であり、世界最古の英雄譚である『ギルガメシュ叙事詩』の主人公でもある人物です。ウルクの英雄王ルガルバンダと女神ニンスンとの間に生まれたギルガメッシュは、体の3分の2が神、3分の1が人間という半神半人でした。女神ベーレト・イリによって形作られたその姿は大変美しく、また武勇に優れた怪力の持ち主だったといわれています。
その功績も優れており、ウルクの町を城壁で囲って城塞都市にし、天空神アヌや美と豊穣の女神イシュタルの神殿を宝物で満たしたとされます。
そんなギルガメッシュですが、実は約2,600年前に実在した人物でした。ウルクの王として死後神格化し、半神半人といった神話的な性格が与えられたのです。
ギルガメッシュに関する最古の記録は、シュルッパクの遺跡で見つかった紀元前2450年頃の神名表です。この他にも『シュメール王朝表』やニップルの古い歴史を描いた『トゥンマル文書』など、多くの文書にギルガメッシュの名前を見つけることができます。
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ギルガメッシュとエンキドゥの冒険譚
ここからは神話に描かれるギルガメッシュの生涯をご紹介しましょう。ギルガメッシュは前述の通り優れた人物でしたが、ウルクには彼に敵う者が誰もいなかったため、他人の痛みを知らない暴君に育ってしまいます。そのためウルクの市民たちはギルガメッシュの圧政に苦しみ、神々に祈りを捧げました。
そんなギルガメッシュが真の英雄になったきっかけは、野人エンキドゥと出会ったことです。ギルガメッシュは荒野に暮らしていたエンキドゥと力比べを行い、彼が自分と同じくらい優れた力量の持ち主だと認めました。ふたりは互いを認め合う親友となり、ともに冒険に出掛けた結果、レバノン杉を守る森の番人フンババを退治するという大きな手柄を立てます。
その後、ギルガメッシュは愛と豊穣の女神イシュタルに求婚されましたが、これを断ってしまいます。怒ったイシュタルはギルガメッシュとウルクの町を滅ぼそうと聖牛グガランナを造り、ウルクの町を襲わせました。ギルガメッシュはエンキドゥとともにグガランナを斃し、町を救います。
ギルガメッシュとエンキドゥはこのような武勲をいくつも打ちたてましたが、栄光の日々は長くは続きませんでした。ある日、エンキドゥが亡くなってしまったのです。ギルガメッシュは人生に終わりがあることに気づき、永遠の命を得ようと旅に出ました。
神々が人類を滅ぼそうと洪水を起こした際、知恵の神エアから助言を受けて生き延びた賢者ウトナピシュティム。その後、人間でありながら人類を滅亡から救った鉱石で不死の身体を得た彼こそが、ギルガメシュの旅の目標だった。 『オリエントの神々』p.112冒険の果てに、ギルガメッシュはウトナピシュティムのもとへたどり着きますが、ウトナピシュティムの課した試練を乗り越えることはできませんでした。さらに、ウトナピシュティムの妻から若返りの草の在処を教えられますが、せっかく手に入れたその草すらも、沐浴中に蛇に食べられ失ってしまいます。
半神半人とうたわれ、ウルクには他に並ぶ者がいない程の優れた人物だったギルガメッシュですが、不死も長寿も得られないままウルクへ帰還することとなったのです。
女神イシュタルとギルガメッシュ、エンキドゥの物語
ここまでがよく知られるギルガメッシュの英雄譚ですが、「古バビロニア版」の『ギルガメシュ叙事詩』には、また違った冒険譚が記されています。その内容を簡単にご紹介しましょう。ある日、女神イシュタル(イナンナ)はユーフラテス川を漂っていた1本の木を気に入り、ウルクの「聖なる園」に持ち帰って育てることにしました。ところがこの木が成長すると、その根本には蛇が巣食い、梢では怪鳥アンズーが雛を育て、幹の部分には悪霊アルダート・リリーが住み着いてしまいます。
イシュタルは太陽神シャマシュ(ウトゥ)に助けを求めますが、聞き入れてもらえません。そこでギルガメッシュに泣きながら訴えたところ、彼は即座に木の根元に巣食う蛇を斧で打ち殺しました。これを見たアンズーは梢を去り、アルダート・リリーも荒野へと逃げ去ります。
こうして木を取り戻したイシュタルは、この木を材料にプックとメックという宝を作り、ギルガメッシュに贈りました。ところがギルガメッシュはその威光を盾に、暴君としてウルクの町に君臨してしまいます。彼の暴政に困った民衆は神々に祈りを捧げ、天は民衆の嘆きを聞き届けてプックとメックを冥界に落としてしまいました。
プックとメックを失い嘆くギルガメッシュのため、親友のエンキドゥは冥界へと降りていきました。しかし、声を立ててはならないなどのいくつかの決まりを守らなかったため、冥界の悪霊に見つかり、囚われてしまいます。
プックとメックばかりかエンキドゥまで失ってしまったギルガメッシュは大いに嘆き、神々にエンキドゥを助けてほしいと懇願します。しかし神々が彼の言葉を聞き入れることはありませんでした。
ただひとり、知恵の神エア(エンキ)だけがギルガメッシュの訴えを聞き、冥界神ネルガルに話をつけてエンキドゥの魂を解放させてくれました。エンキドゥの魂は地上に戻ると、ギルガメッシュに冥界の掟を語り、ふたりは再会を大いに喜びあったということです。
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