見上げた夜空の七つ星。北の空に大きく浮かぶひしゃくの形といえば、「北斗七星」ですね。北斗七星は「おおぐま座」の一部で、クマの背中から尻尾に当たる部分が北斗七星と呼ばれています。この星の並びはしっぽの長いクマの姿を描いたものです。
おおぐま座の近くにはこぐま座があり、その形は北斗七星を小さくしたように七つの星がひしゃくの形に並んでいます。実はこのふたつの星座には、ある親子の物語があるのです。
北の空の星座、おおぐま座(北斗七星)とこぐま座(小北斗)を定めた古代の人々は、星にどんなお話を与えたのでしょう。
『星空の神々』(長島晶裕 著)より北斗七星にまつわる星の逸話と伝説をご紹介いたします。
目次
世界中でクマに見えた! 神秘の七つ星「北斗七星」
おおぐま座を今の形に定めたのは、古代ギリシアの人々です。ところが不思議なことに、ギリシアから遠く離れた地でもおおぐま座やその一部の北斗七星を「クマ」と見立てています。ギリシアと同じユーラシア大陸のインドや、少し離れた日本もそうです。
そればかりでなく、アメリカ大陸が発見された頃のネイティブアメリカンの人々も、あの星々はクマだと北斗七星を指して言ったのだそうです。それまでアジア・ヨーロッパと関わることのなかった大陸でも「北斗七星」がクマと認識されていたとは、神秘的なつながりを感じさせるエピソードですね。
おおぐま座は北斗七星を含むため大変有名ですが、こぐま座もメジャーな星座のひとつです。冒頭に触れたように、北斗七星を縮小したような形をしています。そのため、こぐま座の星々を北斗七星になぞらえて「小北斗」と「小柄杓」呼ぶこともあります。同じように、「北斗七星」にもたくさんの別名が知られています。
◎関連記事
星座の誕生に秘められた、意外と実用的な「生活の知恵」とは
神様や王様が乗っていた? 北斗七星はセレブの愛車
では、北斗七星の別名について詳しくご紹介しましょう。北斗七星は「車」と呼ばれることも多い星です。これは、形が馬車や人力車に似ていることと、北極星の周りを回っていることのふたつの要因があるといわれています。ですので、北斗七星は車に由来する別名もたくさん持っています。
古代バビロニアでは「マルギッダ・サンプ(大きい車)」、スカンディナビアでは「大神オーディンの車」「雷神トールの車」、中国では「帝車」、イギリスでは「アーサー王の車」「チャールズ王の車」といわれたこともある。またギリシアの詩人ホメロスは「車とも呼ばれる熊」と記しているので、おそらくギリシアでもクマと車、二つの見方があったと思われる。 『星空の神々』p.119
北斗七星が、名だたる神様や王の乗る特別な星と考えられていたことがわかりますね。
日本でも北斗七星は様々な呼び名が知られており、「北斗さま」「七曜の星」「四三(しそう)の星」「舵星」「七剣星」など、地方によっても異なった名称で呼ばれています。
七つの星のうちの六つが二等星の北斗七星は、春の空でよく目立つ星です。ゆえに、日本の人々にも大変馴染み深い星だったといえるでしょう。
アイヌの伝説には、神に逆らった熊が北斗七星に変えられてしまったという話が伝えられています。アメリカにも同様に、クマが空に放り投げられて星になってしまったという伝承があります。
では、おおぐま座とこぐま座を定めたギリシアではどのような話が残されているのでしょうか。次はギリシア神話に目を移してみましょう。
◎関連記事
星座にまつわるギリシア神話の物語ー双子座と蟹座
北斗七星に隠された悲劇、カリストーとアルカス
おおぐま座とこぐま座にはこんな物語があります。月の女神アルテミスの侍女に、カリストーという快活で美しい娘がいました。
ところがあるとき、カリストーは好色な大神ゼウスにみそめられ、力ずくで彼のものにされてしまいます。嘆くカリストーでしたが彼女は身ごもり、やがて息子のアルカスを産みました。
しかし、カリストーの仕える女神アルテミスは処女神です。アルテミスは、自分の侍女が処女でないと知ると激怒しました。そしてカリストーに呪いをかけます。この呪いでカリストーは醜いクマに姿を変えられてしまったのです。
時が流れ、成長したアルカスは立派な狩人となっていました。森の奥にひっそりと棲んでいたクマのカリストーでしたが、ある日、彼をひと目見て自分の息子と気づきます。息子に出会った嬉しさに、カリストーは茂みを出て彼の前に姿を現してしまいました。
当然、アルカスはクマが母であるとは知るよしもありません。即座に弓矢をつがえて、クマの心臓に狙いを定めました。
これを見ていたゼウスは、カリストーとアルカスを憐れみ、つむじ風を起こしてふたりを天に引き上げました。そして母カリストーをおおぐま座に、息子アルカスをこぐま座にして天上の星々としたのです。
しかし、嫉妬深いゼウスの妻ヘラは夫の浮気を許してはいませんでした。ヘラはふたりが他の星々のように日に一度、海に入って休むことができないようにしました。ですので、おおぐま座とこぐま座は、休むことなく北の空を回り続けることになったのだといいます。
北斗七星は地中海北部では地平線の下に沈まず、北極星の周りをまわる周極星です。
そのため、ギリシア・ローマ地方ではこのような説話が生まれたといわれています。
◎関連記事
【1コマ漫画】星座シリーズー12星座編
神も人間も身勝手すぎる? 牡羊座と牡牛座の十二星座物語
ライターからひとこと
星座に疎くても、オリオン座・カシオペア座、そして北斗七星だけはわかるという人も多いのではないでしょうか。たくさんの別名のある北斗七星、あなたはなんと呼んでいますか?春先が北斗七星を観察しやすい季節ですが、基本的に日本では一年中北斗七星を見ることができます。北の空を見上げて大きなクマを探してみましょう。