「ぬりかべ」や「一反もめん」といえば『ゲゲゲの鬼太郎』に登場する愉快な妖怪ですが、実は日本各地には、彼らの仲間とも呼べる妖怪が跳梁跋扈しているようです。
『幻想世界の住人たちⅣ』(多田克己 著)では、日本各地に伝わる妖怪などにまつわる様々な伝承をまとめて紹介しています。今回はその中から、ぬりかべと一反もめん、さらにはその仲間の妖怪たちについてご紹介します。
目次
ぬりかべと仲間たち①壁のような妖怪
「ぬりかべ」は元々福岡県の遠賀(おんが)地方に出没するとされた妖怪です。ぬりかべに出くわすと目の前が見えない壁で塞がれてしまい、それ以上前に進めなくなってしまいます。叩いても蹴飛ばしてもビクともしませんが、棒を使って下の方を叩けば、たちまち見えない壁はなくなって先へ進めるようになるといわれています。このぬりかべには様々な仲間の妖怪がいます。
「塗坊(ぬりぼう)」は長崎県壱岐島に出る化け物で、灰色をしており、姿はありますが形はぬっぽりとして、はっきりしません。ぬりかべと同様に前方に立ちふさがりますが、棒で叩くか、石に腰掛け一服していると消え去るということです。
「シマーブ」は鹿児島県喜界島の妖怪で、枝を広げた木のような姿をして人間の通行の邪魔をしますが、その正体は全くの不明です。
「衝立狸(ついたてたぬき)」は徳島県美馬郡の高須に現れたといいます。大きな衝立の姿をして道の真ん中に現れるため、多くの人は驚いて引き返してしまいますが、そのまま進むと訳なく通り抜けることができました。
ある時、ある僧侶が光明真言(密教真言のひとつで、これを誦すれば一切の罪業が除かれるとされています)を4万8千遍唱え、高さ3m程の石碑を建ててこの衝立狸を封じ込めてしまったということです。
高知県幡多郡には「野衾(のぶすま)」という妖怪が現れますが、塗坊と同様に一服している間に消え去ってしまうといわれています。
野衾とは実在するムササビやモモンガの別称でもあります。ムササビやモモンガは足の間に皮膜があり、普段は木々の間を滑空しますが、時折人間の顔に着地して驚かすので、化物だとされることがありました。
これらの生き物は歳を取ると山地乳(やまちち)や百々爺(ももんじい)という妖怪になるという説もあります。山地乳は寝ている人の息を吸い取ってしまうとされる妖怪、百々爺はその名の通りおじいさんの姿をしていて、出会うと病気になってしまうといわれる妖怪です。
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ぬりかべと仲間たち②壁ではなく蚊帳 妖怪蚊帳釣り狸
ぬりかべの仲間とされる妖怪はまだ他にもおり、中には壁のような姿以外にも、様々な姿をしているケースがありました。徳島県に出没するという蚊帳釣り狸(かやつりたぬき)は、その名の通り蚊帳のような姿で現れます。
夜道を歩いていると道の真ん中に蚊帳が釣ってあり、くぐらなければ先に進めないようになっています。この蚊帳の正体は蚊帳釣り狸で、蚊帳をいくらまくり上げても別の蚊帳が出てくるため、ちっとも先へ進めません。戻ろうとしてもまた際限なく蚊帳があり、元の場所に戻れなくなってしまいます。蚊帳釣り狸に出会ってしまった人間は、こうして夜が明けるまでその場をうろうろすることになってしまうのです。ですが心を落ち着けて蚊帳をめくることができれば、36枚目で外に出られるともいわれています。
正体は布? ムササビ? 一反もめんと仲間たち
続いては「一反もめん」という妖怪をご紹介しましょう。一反もめんは鹿児島県に現れる妖怪で、白くて薄い一反くらいの木綿布の姿をしています。夜中にひらひらと飛んで現れ、人間の首に巻きついてきて、場合によってはそのまま窒息させようとすることもあります。
一反もめんにも仲間の妖怪がいます。
「布団被せ」も一反もめん同様にふわりと空を飛んで来て、人の頭に被さります。はがそうとしてもなかなかはがれず、そのまま窒息死させられてしまうという恐ろしい妖怪です。
「野鉄砲」はムササビのような姿形をした妖怪です。森や谷に棲んでいて、口からコウモリのようなものを飛ばして通りがかった人間の顔にくっつけます。するとその人は動けなくなってしまい、食べ物などを取られてしまうということです。
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