ゾロアスター教という宗教をご存知ですか? 聖者ゾロアスターが創始した古代ペルシャの宗教で、拝火教とも呼ばれています。ゾロアスター教の神々はゲームなどに登場するキャラクターのモチーフにもなっていますので、善神アフラ・マズダや悪神アフリマン(アンラ・マンユ)といった名前を聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。
『図解 天国と地獄』(草野巧 著)では、キリスト教や仏教、日本神話から、古代オリエントやエジプト、北欧神話まで、古今東西の様々な天国と地獄をまとめて紹介しています。今回はその中から、ゾロアスター教の天国と地獄についてお話しましょう。
目次
ゾロアスター教の死後の審判ってどんなもの?
ゾロアスター教では、亡くなった人は死後の審判を受けなければならないとされています。まず、人間の魂は死後3日間にわたり死体のそばをさまよいながら、生前の自分の行いについて思いを巡らします。そうして4日目の朝になると、正しい魂は美しい乙女に迎えられ、よい香りのする南風に乗ってエルブルズ山の頂上へと運ばれていきます。一方、汚れた魂は醜い魔女のような女に迎えられ、悪臭漂う北風に乗ってエルブルズ山へと運ばれるのです。このとき死者の魂を迎えにきた女性は、その人自身の良心だと考えられています。
エルブルズ山の山頂では、ミスラ、スラオシャ、ラシュヌという3人の神様が死者の生前の行いを秤にかけて計量します。神様の前ではどんな呪文や護符も効果はありません。
計量の結果、生前の善行と悪行の量がぴったり釣り合った者は、中間の冥界であるハミスタガーンへ行くことになるでしょう。ハミスタガーンは特に報酬もなく罰もない世界で、暑さ寒さ以外の苦しみもない場所だと考えられています。
残りの者たちは、審判の後にエルブルズ山と天界とを結ぶチンワト橋へと向かいます。チンワト橋は幅の広さが変わる不思議な橋で、正しい魂がこの橋を渡ろうとすると、幅が広がり渡りやすくなりますが、汚れた魂の場合は細い棒のようになってしまうのです。こうして正しい魂は橋の先にある天国へ、汚れた魂は橋から落下して地獄の深遠へと飲み込まれてしまいます。
ゾロアスター教では天国も地獄も4層構造
それでは、ゾロアスター教の天国と地獄とはどのような場所なのでしょうか?天国は天界にあり、4層構造になっています。最下層は
いちばん上にあるのは完全なる天国です。ここは善神アフラ・マズダ(ゾロアスター教の最高神)の住まいガロー・デマーン(歌の家)で、生前ゾロアスター教の教えを完全に守り暮らしていた魂たちが、金銀の服を着て、安らかに暮らすと考えられています。
では地獄はどんな場所なのでしょう?
地獄もまた4層から成っており、大地の下にあると考えられていました。それぞれ悪思界、悪語界、悪行界と名付けられており、最下層には最悪の地獄ドルージョ・デマーン(嘘の家)があります。ここは絶対なる悪神アフリマン(アンラ・マンユ)の住まいで、この地獄に落とされた魂は様々な責め苦に遭うのです。
地獄の責め苦には、悪虫に刺される、悪獣に噛まれるといったものから、灰や糞を食べさせられるといったものまで様々なバリエーションがありますが、ひとつだけ大きな共通点がみられます。それは火を使った責め苦は存在しないということです。ゾロアスター教では火は罪を浄化するものと考えられており、地獄は罪を浄化するための場所ではないため、火を使った責め苦は存在しないのです。
善VS悪 ゾロアスター教の最後の審判
ここまでゾロアスター教の天国、地獄、中間界ハミスタガーンについてお話してきました。これらの世界はいずれも永遠に続くものではなく、いずれ終わりがくるものとされています。どういうことかというと、最後の審判の後に世界が一変してしまうというのです。
ゾロアスター教では、世界は1万2千年間にわたって根源的な善と悪の闘争状態にあると考えられています。闘争は聖者ゾロアスターの誕生から3,000年後まで続き、最終的に救世主サオシュヤントが到来して善が勝利を収めることになっています。ゾロアスターは紀元前7世紀頃の人物という説がありますので、あと300年ほどで善が勝利する予定ということになります。
救世主サオシュヤントが到来すると、全ての死者たちは亡くなった時と同じ場所で完全な肉体をもって復活するといわれています。復活した人々は最後の審判によって改めて裁かれ、善人は天国へ、悪人は地獄へ行くことになりますが、彼らがそこで報償や罰を受けるのは3日間だけです。
4日目に、善と悪との最終決戦が行われます。善の力によって燃え盛る溶岩が流れ出し、大地を埋め尽くすと、善人も悪人も溶岩に飲みこまれ浄化されてしまいます。この溶岩は地獄にまでも流れこみ、すべてを焼き尽くしてしまうのです。
根源的な善と悪との最終決戦はこうして善の完全なる勝利によって幕を閉じます。世界は完全な理想形に復元され、すべての人間は善良で不死の存在となるため、もう地獄や中間界といった天国以外の世界は存在する必要がないのです。こうして、世界にはただ善だけが支配する時代がやって来るとされています。
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