ギリシア神話に登場する神様の多くは特殊な能力を持っています。その中でも、パニック(panic)という言葉の語源となった牧神パンの能力には、全知全能の神ゼウスでさえ一目おいていました。
牧神パンはその名のとおり、牧人と家畜を守る神様です。なぜ、この平和そうな神様がパニックの語源になったのでしょうか。
今回は『幻想世界の住人たちⅡ』(健部伸明/怪兵隊 著)を参考に、ギリシア神話の牧神パン(パーン)をご紹介します。
目次
神々も驚いた⁉ 半人半獣の牧神パン
牧神パンの父母は、ギリシア先住民族であるペラスゴス族の王の娘ドリュオペーと、伝令神ヘルメースだとされています。生まれたときの姿は、誕生を見守っていたオリュンポスの神々を大いに驚かせるものでした。額にはヤギに似た2本の角があり、上半身は毛深く、髭を生やし、下半身の割れた爪先はまさしくヤギの脚そのもの。2本足で歩き、岩場も軽々と走り回れるような身体能力を持つ半人半獣の神だったのです。
絵画ではよく、松で作られた冠を頭に乗せて横笛を吹く姿で描かれています。
この不思議な姿を見た神々たちは、ギリシア語で「すべて」を意味するパンという名前を彼にあたえました。
ところが、ギリシア神話には他にもパンを名乗る者たちがいます。
ここで紹介しているヘルメースの息子である牧神パンの他に、主神ゼウスや大地神クロノスの息子だとする説もあったことから、パンという名の頭にその親やかかわりのある者の名前を添えて区別しました。
そのため、クロノスやゼウスの息子は「ティタノパン」、ディオニューソスの従者は「ディオパン」、ヘルメースの息子は「ヘルモパン」と呼び分けられています。
パニックの語源となった牧神パンの「おたけび」とは?
パニックという言葉は、思いがけない事態が起こり混乱状態に陥ったときに使われますよね。牧神パンの能力は、まさにこのパニックを引き起こすものでした。
彼がひとたび「おたけび」をあげると、聞いた者すべてが混乱状態に陥ってしまうのです。このおたけびはオリュンポスの神々が巨人ギガース一族と戦った時にも発せられて、神々の勝利に多大なる貢献を示したといわれています。
こうした逸話がもとで、牧神パンが生みだす特殊な現象は人々の間でパニックと呼ばれるようになりました。
この他にも、パンは音楽を作り出したという言い伝えがあります。
牧神パンがいつも持っている葦の笛はシューリンクスの笛と呼ばれており、パンに追いかけられて逃げ回ったすえ、葦に姿を変えたニンフの名前が由来となっています。
つまりシューリンクスの笛は、葦に姿を変えたニンフで作られているのです。 その音色は、風にそよぐ葦の音を奏でるといわれています。
言い伝えによると、牧神パンの笛は、ギリシア神話に登場する神ヘルメースによって盗まれたことがあります。
盗まれたシューリンクスの笛は、ヘルメースからアポローンに与えられました。そのおかげで、アポローンは音楽を作りだすことができたということです。
本書で紹介している明日使える知識
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