ファンタジーRPG入門『ダンジョン・マスターズ・ガイド(DMG)』の次に日本語版での発売を予定している、ハードカバーの大型アドベンチャー『魂を喰らう墓』を紹介しよう。
大型アドベンチャーであるため、物語の結末に至るには何度も中断し、また別の日にDM、プレイヤーたちで集合して続きをプレイすることになる。一日のセッションのうちに起承転結がつかなかったり、バトルによるクライマックスがなかったり、逆に罠や戦闘といった危険がやたら連続するようなセッションもあるかもしれない。だが章立てで続く大作映画のように、何話も連なって大きな物語を通してプレイするこれが「キャンペーン」という遊び方だ。『魂を喰らう墓』の1冊の中には、そのための情報がたっぷり掲載されている。
危険に挑むスリルも楽しみのうち
繰り広げられるのは、プレイヤー・キャラクター(PC)たちが途中で命を落とすかもしれない危険が伴う冒険だ。『魂を喰らう墓』の中で、アドベンチャーとして危険度が高い部分には、キャラクターが死亡した際の対応について述べられている。その場面でPCが(気絶状態でなく)死んでしまった場合にDMはどう対応するとよいか(主にキャラクターをどう扱うことで、プレイヤーが参加し続けるか)、という設定や手法について説明やコラムやが設けられているのだ。雰囲気だけでなく、PCたちにとってこの冒険は命がけのチャレンジであり、そのスリルもD&Dのプレイの一部なのである。
『魂を喰らう墓』と背景世界の設定
『魂を喰らう墓』は、その物語の舞台のほとんどを密林や高原、人を寄せ付けない険しい山々、噴煙を上げる火山が占める、熱帯性気候の未開の地「チャルト」という半島が舞台となる。
D&D第5版で基本となる世界は「フォーゴトン・レルム」で、そのなかでもフェイルーン大陸の西海岸、ウォーターディープ、バルダーズ・ゲートといった都市がある"ソード・コースト"と、その海の西方ソード海にあるムーンシェイ諸島といった島々、北方のドワーフ氏族たちやアイスウィンド・デイルといった地域が、公式アドベンチャーの舞台となっている。このあたりの地誌、歴史、人々といった情報は、『Sword Coast Adventurer's Guide』(WotC 2015)にまとまっていてる。D&D第4版からの橋渡しもあり、『殺戮のバルダーズ・ゲート』の、D&Dエンカウンターズでのセッションでプレイされた結果(マルチ・エンディングのどれが最もプレイされたか)が、新たな歴史として反映された記述もある。
チャルト半島は、それらの地域からは遥か南方海上にある、大きな島の北半分ほどのことだ。半島の北の端には、ナイアンザル港というフェイルーン大陸からの玄関口となる都市がある。その外には凶暴な爬虫類や殺意に満ちたアンデッドがうようよしているし、周辺の海には海賊どもがうろついているし、そして謎や遺跡が点在し、パーティーたちが探険に来るのを待っている。ナイアンザル港だけでなく、それら冒険が繰り広げられる場所について、どのような場所で何があり、だれがなにをしていて、(交渉や戦闘について)パーティーにどう対応するかという案内が、手厚いボリュームで掲載されている。
冒頭、仕事を依頼される場面はバルダーズ・ゲートになっているが、「これは大きな居住地であればどこでも構わない。他のD&D世界の、例えばオアースの自由都市グレイホーク、ミスタラのスペキュラルムの都、エベロンのシャーンの都でもいいのだ。」と書き添えてある。
チャルトのナイアンザル港についても、「このアドベンチャーを自作のD&D背景世界でプレイするなら、君はナイアンザル港を自分に都合の良い場所に配置していいし、何なら名前を変えてしまっても構わない。もし君が他の既製のD&D用背景世界を使っているなら、ナイアンザル港ではなく、海岸沿いにある別の都市をパーティのジャングル探険の出発地にしてもいい。他の背景世界と都市には、例えばオアースのアメディオ・ジャングルの端にあるサセリン、ミスタラのサヴェジ・コーストの近くにあるスラゴヴィッチ、エベロンのゼンドリック大陸にあるストームリーチなどが挙げられる。」
つまり公式世界としてフォーゴトン・レルムが提供されているが、それは縛りではなく楽しむための材料なのだ。
このようにサプリメントとしても魅力的な『魂を喰らう墓』ではあるが、プレイヤーで参加する人は中身を見てはならない。冒頭からDMむけの情報が密度高く記載され、各章とも舞台となる地域・場所の解説と、冒険の内容やダンジョンの地図が合わせて掲載されているからだ。「探険」を柱にするアドベンチャーで、それらを先に知ってしまっては、未知への挑戦の楽しさは大幅に減じてしまう。
そのためDMはセッションでは、情報を出し惜しみせずプレイヤーやキャラクターの立場で質問したことで容易に分かりそうなことや、ロールプレイで情報収集などをしっかり行うプレイヤーには、しかるべき情報をどしどし知らせるべきだろう。
事件は、次のような事態からはじまる。
この数日、道行く人や酒場にたむろする人は、噂でもちきりになっています。噂というのは“死の呪い”の噂です。死の呪いというのは、かつて死からよみがえったことのある人が例外なくかかってしまうという、消耗性の病気です。感染者は日に日に痩せ衰え、一度逃れたはずの死の淵に、ゆっくりと、しかし確実に引きずりこまれてゆくのです。そして力尽きたが最後、もう誰も彼らを生き返らせることはできません。しかも、よみがえれなくなったのは彼らだけではありません。かつて復活の奇跡を受けたかどうかに関係なく、もう誰も生き返ることができなくなってしまったのです。寺院も、信仰魔法を研究する学者たちも、国じゅうにはびこる呪いの原因がわからず、とほうに暮れています。この呪いはもう国じゅうに広まっています。もしかしたら、すでに世界中に広まっているのかも知れません。
依頼者は、シンドラ・シルヴェインという名の引退した女性冒険者だ。ウィザードであり、かなり評判の良い商人でもある彼女は、この異常の原因がチャルト半島の密林のどこかにあり、それを探し出して解決することをPCたちに依頼する。
さて次回は、物語の筋書きには触れない形で、引き続き『魂を喰らう墓』の魅力を紹介する。
※記事中の日付は記事公開時のものです。